2004-09-29

これも、恋

嘘をつくなら最後まで

キャベツ畑の意外性

万年筆のインクの沁み

デカダンスは謎

メモは破っておく

13階段の先にあるヘヴン

本日の営業は終了しました

爪先から滴る血の色に似た何か

サバンナで調教

通学路はもうない

残酷な波紋

キリストの偽者

倒錯は幻の遊戯

夜が人を呑む

土牢で深呼吸

沸騰するホットミルク

愛を語るなら最初から

2004-09-14

アンダーグラウンド

君は全裸だ。
両手は後ろに回されてきつくロープで縛られ、同じく足首も拘束されている。
そして、床に転がされている。
体の自由は全く利かない。
床で体を丸めている君の視界は傾いている。

この地下室に監禁されてから、ずいぶん時間が経過している。
しかし窓もなく、もちろん時計もないので、正確な時間はわからない。
でも、たぶん夜だ。
君は、暗くなってからこの地下室に入った。
君の狭い視野を、黒革のロングブーツが横切る。

この部屋には君の他に、ふたりの女王様がいる。
ふたりともとても美しく、そして厳しい。
彼女達の手には、それぞれ長い鞭が握られている。
その鞭がしなって、君の体を打つ。
ピシッと乾いた音が、コンクリート剥き出しの壁に囲まれた狭い地下室に響き渡る。
君は叫び声を上げて反射的にその鞭から逃れようとするが、それは叶わない。
君の体はすでに真っ赤だ。
無数の鞭の跡が全身に走っている。
ひどい蚯蚓腫れからは、血も流れている。

女王様のブーツの底が、君の頬を踏む。
君は不様に顔を踏み潰されながら、冷たいフローリングの床に押し付けられて、醜く顔を歪ませる。
もうひとりの女王様が、君の性器を蹴り上げる。
君は呻いて、反射的に体を弾ませる。

「ひどい格好だね、おまえ」

女王様が、君の顔を踏んだまま、頭上から笑い声を降り注ぎながらいう。
君は鞭の跡に沁みる鋭い痛みと、性器に残る鈍痛に身悶えながら頷く。

「おまえ、これだけ苛めてもらっておいて、感謝の言葉もなしか? えっ?」

もうひとりの女王様が君の尻を力いっぱい蹴りながらいう。
君は体を丸めたまま、息を弾ませながら呟く。

「ありがとうございます。ボクはとても幸せです」

「そうそう、それでいいんだよ、変態マゾ野郎。じゃあ、ご褒美でもあげましょうかねえ」

そういって君の顔から足を下ろした女王様は、ゆっくりとブーツを脱いだ。
ブーツの中は素足だ。
その白い爪先が君の顔の上に置かれる。
暖かい芳香が強く漂う。
女王様の可憐な足の指が、ゆっくりと君の顔の上を蠢く。
頬を踏み、鼻を摘み、唇を器用に挟む。
そしてやがてそれは、おもむろに君の口の中に押し込まれる。

「ほら、舐めろよ」

「ありがとうございます!」

君は歓喜し、狂ったようにその足の指をしゃぶる。
かなり不自由な体勢だが、たちまち性器がいきり立っていく。
それを、もうひとりの女王様が踏む。

「アン」

君はたまらず喘ぐ。
しかしその瞬間、君は不覚にも、女王様の足の指に歯を立ててしまった。

「痛いっ」

女王様が舌打ちして吐き捨て、足を引き抜く。

「申し訳ございません」

君は慌てて謝罪したが、とき既に遅しだ。
女王様の怒りは瞬時に沸騰し、簡単には収まらない。
再び激しい鞭の洗礼が始まった。
君は右へ左へ体を捩りながら小刻みに跳ね続ける。
その目には涙が滲んでいる。

鞭が空気を裂き肌を打つ音、君の絶叫、女王様の笑い声。

地下室の夜には、終わりがない。

2004-09-10

夢で逢いましょう

ホテルの部屋は暗い。
ベッドサイドのシェードランプだけが、弱々しい明かりを灯している。
29階のダブルルーム。
窓の外の眼下には、世界中の光を集めて粉々に砕いたような、宝石の輝きに似た都会の灯が、色彩の絨毯のように広がっている。

ボンテージスーツに身を包んだ彼女がそっと鞭をベッドに置く。
君は、床につけていた額を上げ、その凛然とした姿を仰ぎ見る。

二時間に及ぶ調教が終わった今、君は疲れきっている。
体には無数の鞭の跡が蚯蚓腫れとなって走り、手首や足首をはじめとして、胸や太腿にまでロープで縛られた跡がくっきりと残っている。
君はつい数分前に射精を果たしたばかりだが、依然としてペニスはそそり立ったままで、その周囲は白濁液に塗れている。
そしてそれは既に乾き始めていて、君は違和感を覚えているが、まだ拭きとってよいという許可はおりていない。
よって、自らの手で搾り出した白濁液は未だ手のひらにべったりと付着したままだ。

彼女はドレッサーの前へと歩き、椅子に浅く腰掛けると、ロングブーツをゆっくりと脱ぐ。
そして素足になると、次に、長い髪を物憂げにかきあげ、耳朶の大きなイヤリングを外す。
それをガラス製の灰皿の中に落とす。
小さく硬質な音が無音の室内に涼しげに響く。
彼女の優雅な仕草は淡い影となって床のカーペットに落ちている。

君は正坐のまま手を伸ばし、周囲に散乱している調教に使われた道具を拾い集めていく。
乳首を挟んだクリップ、首輪、ロープ、ペニスを根元で拘束する革製のベルトとそれに繋がる長い鎖……。
それらを拾い集めながら、君は二時間にわたって施された濃密な調教を胸の内で反芻する。

君は今、奴隷や犬という下劣で下等な身分から、ようやく人間界に帰還した。
尋常な男性ではとうてい考えも及ばないような、破廉恥な己の本能を解放した君の、束の間の自由の時間は終わった。
これからはまた、常人の仮面を被って生きていかなければならない。

君にとって、自らの本能を曝け出すことのできる唯一の相手が彼女で、その彼女という存在は神に等しい。
しかし、その神はもう君の前から去った。
彼女は、一度も君を振り返ることなく、バスルームに入った。
床に脱ぎ捨てられたままの黒革のブーツが、シェードランプの弱い明かりを受けて、艶やかに光っている。
君はその光沢を凝視する。
やがて、バスルームから微かにシャワーの音が聞こえてきた。

もう別れの時は近い。
そして、次にいつ彼女と逢えるかはわからない。
ほんの一瞬の邂逅は、まもなく本当に終わりを告げる。

夢のような時間には、果てがある。
しかし夢の中でなら、君はいつでも彼女に逢える。
夢は時間や距離といった現実的な障害を軽やかに超越する。

君は今夜、夢の中で再び彼女に跪くだろう。

2004-09-01

The End

モノクロームの夢

五秒前の自分

地下鉄の窓の外を飛び去っていく白い光

蝋燭を電卓に持ち替えて

ハイヒールの靴音

フラッシュバックなんて陳腐

橋を渡る時、トンネルを潜る時

憂鬱な低気圧

コーヒーの色に似たストッキング

熱くない、と彼女がいう

物語の断片を拾い集める

濡れる赤い唇は卑猥

ほんの気休め、雨宿り

香りが誰かを狂わせる

剥がれかけたポスタア、スプレイの落書き

暗い水面に靡く白い航跡

ボードウォークの夜明け

ひとりで観るウッディ・アレンの映画