2004-08-29

金の鎖、銀の鞭

真夜中の台風

無人の交叉点

闇を映すテレビ

ダブルベッドの沈黙

年老いたブルース

点滅する信号

観葉植物の影

炎が揺れる

艶やかな黒革のブーツ

冷蔵庫の低い唸り

パフュームまでの距離

潰れたトマト

赤いノートを買う子供

視界は彷徨う

誰のせいでもない孤独

現実の隷属、非現実の支配

天窓を流れる雨

零歳の微笑

金の鎖が、天と地を繋ぐ

銀の鞭が、朝と夜を切り裂く

2004-08-25

天界の雫

激しい調教の後、聖なる黄金色の雫が君の体に降り注ぐ。
君はまるで旱魃に苦しむ農民が突然降り出した雨に歓喜するように、その雫を拝受する。
その時、女王様の亀裂から迸り出る聖水は、まさに天の恵み、甘露だ。
奇跡の亀裂から降り注ぐ天界の雫を全身に浴びながら、君は心の中で合掌をする。

甘露の雨が、君を濡らす。
それによって愚かなる魂が浄化されていく。

君は解脱しようとしている。

少しずつ君は、幸福の絶頂へと上り詰めていく。
聖なる雫が、胸板や背中に刻まれた鞭の跡に沁みるが、その痛みさえも君にとっては快感だ。
君は温かい聖水に陶酔しながら、肉体と精神が乖離していくような奇妙な感覚の中にいる。

性器は猛々しく天を衝いている。

君は、腕を組み足を開いて凛と立つ女王様の股間の下で跪き、顎を上に向けて大きく口を開いた。
その君の口の中へ、女王様の聖水が容赦なく注ぎ込まれていく。
舌を痺れさすその小さな刺激は、君をたちまち官能の泉へ引きずり込んでいく。
それはまるで底なし沼のように終わりのない、生温かく、煌びやかな歓びに彩られた天国の泉だ。
君はその泉へ大胆にダイヴし、緩やかに溺れていく。

舌を刺す痺れの中に、君の生の証はある。
そして黄金色に輝くベールの向こうに、君の未来はある。

君は今、大いなる慈悲に包まれている。

2004-08-18

美しい人

長く、しなやかな脚が優雅に組まれているだけで、その人の美しさは劇的に高められる。
短いスカートから伸びる肉感的な太腿、そして華麗な脹脛のラインが、踵の高い黒革のハイヒール・サンダルで完結している。
それは、既にひとつの物語だ。
その物語に、多くのマゾヒストは狂喜し、そして屈服する。

彼女の脚は魔力を秘めている。
それはまるで朝露に濡れて輝く蜘蛛の巣のようだ。
そして官能の毒蜘蛛である彼女は、世界を絡め取っていく。
その魔力から逃れることは難しい。
なぜなら、彼女の美は、この世で最高の権力だからだ。
その前では、いかなる人間も等しく無力だ。
誰もが跪かずにはいられない。
或る人はそれを時に運命、もしくは宿命と呼ぶ。

彼女が、軽く蹴るようにしてハイヒール・サンダルを脱ぐ。
赤く塗られた爪が、部屋の明かりを撥ねて煌めく。
足の甲が透き通るように白い。
可憐な指先が、誘うように蠢く。
その造形は、完璧だ。

そして彼女はいう。
「足にキスして」

美しい人の脚には、神が宿っている。

2004-08-15

天使の囁き

しかし、昨日のオヤジは超笑えたよ。
友達のエミと街を歩いていたら、突然声を掛けてきたんだけど、それが駅の端のほうにあるあまり人気のないトイレの前でさ、そのオヤジ、いきなりウチらの前に立ち塞がったかと思うと、「靴下を売ってください」だもん。
もうさあ、エミとふたり顔を見合わせて、大笑い。
だって、超おかしいじゃん。
歳はね、たぶん四十ちょっと前くらい。
一応は背広を着てたけど、なんかあんまり金を持っている感じじゃなかった。
だいたい、そのオヤジ、超ダサいの。
ダサいっつーか、キモいっていったほうが正確かもね。
なんか脂ギッシュなコデブでさあ、もしかしたら素人童貞かもね、あれは。
いかにも風俗ばっか行ってそうな感じ。
でさ、そのオヤジが言うわけよ。
「お願いします、今、履いていらっしゃるそのルーズソックスを売ってください」って。
マジこういう感じの敬語だったよ。
笑えるでしょ?
ウチらより二十以上も年上のオッサンがさ、敬語だもん。それも妙にオドオドしながら。
あれは絶対マゾだね。
たぶん間違いない。
前にMオヤジと五万でエンコーしたことあるけど、同じ空気を漂わせてたもん。

で、私は言ったの。
「いくらで買ってくれるわけ?」って。
そうしたらオヤジ、一瞬キョトンとなってた。
たぶん、断られるか、シカトされると思ってたんじゃないかな?
普通、突然そんなこと言われたら、たいていの人は無視するだろうし。
つうか、キモいし。
だからオヤジにとって「いくらで買う?」ってウチらに訊かれることは、意外な展開だったんだと思う。

でもさ、昨日って相当暑かったじゃん?
だからウチらのルーズ、かなりキテたと思うよ。
マジ激ヤバだよー、って感じ?
でも、変態オヤジってそういうの好きじゃん?
でさ、エミが「二人分で一万なら売ってやるよ」って言ったんだけど、さすがにさあ、それは無謀だと思ったよ。
ちょっとボリすぎだって。
でも、そのオヤジ、エミがそう言ったら超目を輝かせちゃってさ、「わかりました、ありがとうございます」とか言って、ポンと一万出した。
めっちゃラッキーって、ウチら喜んじゃったよ。
だって、一万ってことは、一年近く履き続けているボロボロのルーズが五千円で売れたったことじゃんね。
踵とか爪先とかなんて、もう殆ど擦り切れそうなボロルーズだったし、これってラッキー以外の何物でもないよね。

でもさあ、一応人目ってものがあるじゃん?
いくら人気のないトイレの前でもさ、完全に無人ってわけじゃないし、そんなところでコソコソと靴下を脱ぐのもちょっとね。
実際、そうやって話してる間にもニ、三人は通ったし。
だから、ウチらふたりで、そのオヤジを無理やり女子トイレに連れ込んだの。
さすがにオヤジ、ビビってたけど、無理やり。
それで、ちょうど誰もいなかったからさ、ウチら、ちょっと考えたんだ。
どうせだったらこのオヤジをボコって、有り金全部巻き上げてやろうって。
だから、一瞬のうちに目配せして、渋るオヤジをニコニコしながらふたりで個室に押し込んでさ、ソッコーでボコボコにしてやった。
とりあえずエミがいきなりオヤジの鳩尾とチンポに蹴り入れて、蹲ったところを、私が踵落とし。
で、靴下を脱いで、わたしのをオヤジの口に押し込んで、エミのでそのオヤジの手を後ろで縛った。
オヤジ、かなり面食らってたけど、引け目があるから声は出せないじゃん?
しかし、あんな臭いルーズを口に押し込まれたら、相当キツいと思うよ。
実際モガきながら半泣きになってたし。
でもさ、天罰じゃん。
いい年こいたオヤジが女子高生の靴下を買うなんて、道徳に反することだしさ。

で、その後は、もう殆どリンチ。ハハハ。
殴る蹴るの暴行三昧って感じ。
オヤジ、最後の方は顔の形変わってたし、鼻やら口から血を流してたし、完全に泣いてた。
笑えるよね。

そうそう、もちろんボコった後で有り金全部貰ってきたよ。
でも案の定シケた奴でさ、財布の中には三万しか入ってなかった。
まあそれでも、ちゃんと全部戴いてきたけどね。

だけど、ウチらって結構きっちりしてるから、ちゃんと靴下はそのままオヤジにやってきたよ。
ただし、あの後どうなったかは知らないけどね。
縛ってボコったまま放置してきたし。
それでも今頃あのオヤジ、ウチらのルーズでシコシコしてんのかなあ?
っていうか、マゾだったらルーズだけじゃなくて、ウチらにボコられた記憶もオカズになってるよね、きっと。

えっ? その巻き上げた三万はどうしたかって?
ふたりでその夜のうちにカラオケと飲みで使っちゃったよ。

ほんと、オヤジなんて超余裕。
マジそう思ったね。

2004-08-12

ロンリー・プレイ

疲れきって自宅に戻った君は、何気なく時計を見る。
午後11時半。
連夜の残業で君の肉体は疲労のピークにある。
いや、肉体だけではない。神経も相当擦り切れている。
君は上着を脱いでネクタイを解き、シャツのボタンを外しながら寝室に入り、そこで着ていたものを全部脱ぐ。
そしてバスルームへ行き、シャワーを浴びる。

シャワーを終えて、少しだけ気分がほぐれた君は、腰にバスタオルを巻いたまま寝室に戻った。
サイドテーブルの上の電気スタンドの弱い明かりだけを灯し、ベッドに腰掛け、ぼんやりと思う。

クラブへ行って女王様から思いっきりハードな調教を受けたい……と。

しかし、君にはその時間もないし、金もない。
社内には未だリストラの嵐が吹き荒れていて、正直、我が身の行く末さえ油断できない状況だ。
いや、我が身もそうだが、会社自体が怪しいもので気が抜けない。
業績は下降の一途を辿っており、夏のボーナスも大幅にカットされた。
こんな状況では、おちおちクラブへも行けない。
しかし君は筋金入りのマゾヒストだから、最低でも月に一度は女王様に鞭を打たれ、聖水を口にしないと精神のバランスが保てない。

人は言う。
「いい加減、オンナでも作れよ」と。
しかし、君にとってそれはとても難しい問題だ。
なぜなら君はマゾヒストだし、何より、見た目が醜い。
いわゆるチビデブで、女性にはまるで縁がない。
その見た目が災いしてか、君はこれまで一度も女性と付き合った経験がない。
付き合った経験どころか、実は未だ童貞で、女王様の唾や聖水を飲んだことはあっても、女性とキスをしたことはない。
足の指は舐めても、乳首を吸った経験はない。
それでも、君にとってそれはたいして重要な問題ではなかった。
君は、女性とセックスをするより、美人OLに取り囲まれて自慰を強制され、嘲笑われることを望む人間だからだ。

君はバスタオルを取って全裸になると、壁にかけてある大きな姿見の前で膝をついた。
仮性包茎のペニスは既に硬直を始めていて、亀頭の殆どが露出している。
しかしその部分は普段、外気に触れていないので、まるで赤ちゃんの頬のようなピンク色だ。
君はベッドのマットレスの下に手を突っ込み、そこから一枚の薄い布を取り出す。
それは生セラで買った女性の使用済み下着だ。
君はそれを頭に被ると、ちょうどクロッチの部分が鼻に当たるように位置を調節する。

鏡に、おぞましい独身男の姿が映る。
君は、鏡の前で行う自慰が好きだ。
とても興奮する。
女性のパンツを被って鏡の前で跪いているその状況に、君は酔い痴れ、その倒錯した喜びに溺れていく。
もう何度となく使用しているので、その下着に香りはほとんどないが、それでも、とうてい人前で晒すことなど出来はしない、その異常な自分の姿を鏡で確認するだけで変態の君はたちまち昂ってくる。

電気スタンドの明かりで増幅された君の巨大な影が壁に映っている。
君は、怒張しているペニスを握ると、ゆっくりと自慰を開始した。
その動きに合わせて、壁に映った巨大な影が揺れる。

独身男の暗い寝室。
最初は控えめだった淫靡な息遣いが、徐々に大胆になっていく。

2004-08-09

真夜中のテラス

君は今、全裸で真夜中のテラスにいる。
手摺りを両手で強く握り締め、心持ち尻を後方へ突き出している。
涼しい夜風が、君の全身を優しく撫でていく。
周囲には、建ち並ぶマンションの窓明かりが夜の中に浮かんでいる。
もう午前二時に近いが、窓の灯はまだそれほど少なくはない。
君の内部では、どこで誰に見られているかわからない不安と、露出していることに対する自虐的な喜びが、まるで悪魔の囁きと天使の微笑みのように激しくせめぎあっている。
その興奮のために、君のペニスは限度いっぱいまで反り返っていて、青い月光の中、卑猥に躍動している。
テラスの下には、樹木が鬱蒼と茂る公園が広がっている。
ところどころに街灯の青白い灯が散らばり、公園の入り口に設置されている電話ボックスの明かりが、妙に眩しい。

その電話ボックスの中には髪の長い女がいて、君のほうに背を向けながら受話器に向かって何やら喋っている。
君が今いる自室のテラスからその電話ボックスまでの距離は、100メートルもない。

「ほら、おまえの変態の姿をもっとしっかり晒しなさい」
背後から、そう声がして、間髪置かず尻に痺れるような痛みが走った。
女王様が君の尻を乗馬鞭で一閃したのだ。
「は、はい」
君は前方の闇を見据えたままこたえる。

電話ボックスの女がふとこちらに視線を向けたら……そう思うと、君の興奮はさらに募る。
しかし同時に、僅かに残されている常人としての理性が、自室のマンションでこんなことをして、もしも周囲の人に知れたら……と恐怖心をかきたてている。
それでも君はマゾヒストだから、どうしようもなく昂ってしまっている。

女王様が君の背後から手を伸ばし、体を密着させながら、君のペニスを握る。
甘い香水の匂いが漂い、長い髪が君の頬に触れる。
女王様が耳元で囁く。
「いやらしいチンポね、こんなにビンビン」
そういって軽くシゴく。
君はその快感に堪らず喘ぎ声を洩らし、腰を浮かせる。
「どこかで誰かがおまえの変態な姿を見てるわよ。もしかしたら、あの電話ボックスの中の女の子がこっちを向くかもよ」
女王様はそう囁き続けながら、手のピストン運動を早めていく。
君は手摺りをぎゅっと握ってその快感に耐えながら、目を瞑ってその律動に身も心も委ねる。
女王様が君の耳朶を強く噛み、「目を開けなさい」と命じる。
「は、はい……」
君は思いきって目を開く。
その瞬間、電話ボックスの中の女が不意に振り向き、君と目が合った。
一瞬のうちに、女の表情が変わる。
女は大きく目を見開きながら驚愕の表情を浮かべ、まるで吸い寄せられるように君を凝視する。
君は小さく「あっ」と叫んだが、そのとき、図らずも射精への衝動が突き上げてきた。
堪えなければ、と君は瞬間的に思ったが、無駄な抵抗だった。
君は女王様のしなやかな手つきによって、なす術もなく精液を放出してしまった。
白い精液が、月光を浴びて破廉恥な煌めきを翻しながら夜の空気の中に飛散する。
君の腰から力が抜ける。

電話ボックスの中の女は、受話器を耳に当てたまま硬直し、じっと君を見つめている。

2004-08-08

イントロダクション

このところ、サイトの更新がマンネリになってきたというか、ちょっと新鮮味に欠けてきたので、気分を変えるためにブログで断片的なFemdomテキストを書いてみようか、と思い立ちました。
実はちょっと前から「やってみようかな」とは考えていたものの、なかなか手を出せず、延び延びになっていたのですが、たまたま時間ができたので、とりあえず始めてみました。
とはいうものの、べつに何か具体的な計画があるわけでもなく、ほとんど思いつきの突発的な行動なので、果たしていつまで続くかすら怪しいものなのだけれども。
それでも、このページでは掌編というか、S女性とM男性の関係をモチーフにした景色の断片みたいなものを短い文章で綴ってみようかと思っています。
一応、サイトに載せている小説モドキの代物たちは、起承転結とか考えて書いているのだけれども、ここでは、おそらくそういうものは無視して書くと思います。
たとえば、プレイルーム内のセッションの一場面とか、ふとした日常の中でのSM的な感情の揺らぎとか、そういう一瞬的な出来事を切り取るように書いてみようかと思ってはいるのだけれども、いつまでネタが続くかわからないし、完全に見切り発車です。

ちなみにこの『金の鎖、銀の鞭』というタイトルも、ボーとしていたときにふっと思い浮かんだもので、たいした意味はありません。
なんとなく言葉のゴロがいいし、どことなくSMチックでもあるし、「なかなかいいんじゃね?」と勝手に自己満足して付けてみました。

でも、更新のペースがどれくらいになるかとか、自分自身よくわかっていません。
なので当分は(というか、たぶんずっと)、気まぐれ更新ということで。

まあ、暇なときにチェックしてください。