2005-03-29

岬ホテル

暗い夜だ。
ホテルの部屋の窓の外では激しい雨と風が暴れている。
午前一時。
まもなく季節外れの大型台風が上陸する、と先ほどラジオの天気予報が告げていた。

君は飼い主である女性とともに、午後十一時過ぎにこのホテルに到着した。
ホテルは岬の先端に建っており、三階建てと規模こそ小さいが、クラシカルでとても快適だ。
各部屋の間取りは広く、調度品も上品な家具で統一されている。
君は、長い黒のレインコートの中は全裸という格好で、女性に連れられてこのホテルにチェックインした。
リードこそ付けられてはいなかったが、首には革製のベルトを装着したままだった。

君の部屋は三階の角部屋だ。
晴れた日中であれば、窓からは雄大な太平洋が一望できるが、嵐の夜の今はただ暗い。
部屋の明かりを受けた雨の細かな筋が銀色に光っているだけで、他には何も見えない。
底なしの闇だ。
窓の外には広いベランダがあり、その下には、手入れが行き届いた英国風の庭園とプールがある。
庭園の所々には街灯が灯っているが嵐の夜の中では心許なく、プールはもうライトアップが終了していて、その部分だけ闇の濃度が高い。
プールの水面は黒く、そして雨と風のために、まるで邪悪な生命体のように波打っている。

窓を開けると、風に乗って雨が盛大に降り込んでくる。
君は全裸のまま、ベランダに出た。
体にはきつく亀甲縛りが施されており、両手首は背後で拘束されている。
君は、足首も拘束されているため、飛び跳ねるようにユーモラスな仕草でベランダの手摺りの前に立った。
その背後に、雨に濡れても構わないよう裸になった女性が近づく。
しかし君は、振り返ることを許されていないから、女性の全裸を見ることはできない。
君はただ、暴風雨の夜と、闇の太平洋を凝視している。

女性が君の背後に立つ。
その手には、長いロープが握られている。
一瞬、甘い香水の芳香が君の鼻腔を擽ったが、それはすぐに風に吹き飛ばされてしまう。
女性は、そのロープで、海に向いて立つ君を、格子状になっているベランダの手摺りに括りつけた。
亀甲縛りの上から、さらに何重にもロープが巻かれていく。
両手と両足を縛られている君は、なす術もなく、やがてベランダの手摺りに拘束されてしまう。
全身に雨と風が降りかかっている。
手摺りの間から、勃起したペニスが闇に突き出している。

完全に君を縛り終えると、女性は部屋の中に戻り、窓を閉めてロックした。
君は雨に打たれ、暴風に晒されながら、凶暴な夜と向き合う。
背後でカーテンが閉まり、ベランダが闇に沈む。

やがて台風が通り過ぎ、夜が明ければ、太平洋から昇る汚れなき朝日が君の卑猥な全身を照らすだろう。

2005-03-21

遠い昨日

昼下がり

川面を渡って暖かい風が吹く

春の息吹

土手に咲くタンポポ

立ち止まって深呼吸

宇宙のような青い空

飛行機雲の軌跡

昨夜の出来事

暗い部屋、冷たい視線

体に刻まれた傷は時間の証明

欲望は伸縮する

「今夜が最後」と彼女がいった

想い出は微か

秘めやかな吐息

揺らめく蝋燭の炎のよう

追憶の彼方には何があるのか

孤独、そして孤独

堤防に乗り捨てられた自転車

2005-03-05

Dog Life

君の日常は、半径三メートルの小さな世界でほぼ完結している。
つまりそれは、君を繋ぐ鎖の長さだ。
そしてたまには外界へ散歩に行くことができるが、しかしその際にもリードがはずされることはまずないから、やはり君の世界は半径三メートルだ。
なぜなら、そのリードの長さも、普段君が繋がれている鎖と同じ三メートルだからだ。

君は十七歳の女の子に飼われている。
高校二年生の彼女は、気まぐれに君を虐待しては、退屈を紛らわし、ストレスを発散している。
しかし、君に不満はない。
彼女はとてもキュートだし、何はともあれ君自身が生粋のマゾヒストだからだ。
君は彼女のペットとして生きていることに、とても満ち足りている。

君は普段から、気分屋の彼女による理不尽な苛めを散々受けている。
彼女はたいした理由も無く「ムカついた」といっては君を蹴り、殴り、君のアナルに様々なものをぶち込んで遊ぶ。
むろんその際、抵抗や反撃は一切認められていない。
そのため君は生傷が絶えない。
常に身体のどこかに痣や擦り傷を作っている。
二階のベランダから蹴り落とされて、足の骨を折ったこともある。
さすがにそこまでの怪我を負うと、病院へ行ってギプスを付けたり、一応の治療はしてもらえるが、虐待がなくなることはない。
ただ単に足にギプスを付けているというだけで、犬としての君の生活にたいした変化はない。

君にとってこの生活は過酷な試練の連続だが、嬉しいこともあるから抜け出せない。
君の飼い主はときどき、気が向くと、着用済みのソックスや下着を君に与える。
滅多にあることではないが、皆無ではない。
クラブなどで夜更かしし、酔っ払って帰宅したときなど、飼い主である彼女は上機嫌のままその酔いに任せて君の目の前でブーツを脱ぎ、ソックスを剥ぎ取るように脱いで君の鼻に押し付け、口に押し込み、二十四時間以上着用を続けた下着を君の頭に被せて遊ぶ。
そんなとき、君はこの生活の歓びを噛み締める。


学校から帰ってきた彼女が制服姿のまま、庭の片隅で繋がれている君の前へ来た。
君はきちんとお座りの姿勢をして彼女を迎え、地面に額を擦り付けるようにひれ伏す。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
今日の彼女は機嫌が良さそうだ。
「いい子にしてた?」
「はい」
君が頷きながらそうこたえると、彼女はおもむろにローファーを脱ぎ、紺色のハイソックスの足の裏を君の鼻に押し付けた。
「じゃ、ご褒美ね」
「ありがとうございます」
君は暖かい爪先から立ち昇る香気に昂りながら、その感触に半眼で陶酔する。
素晴らしい瞬間だ。
たちまち剥き出しのペニスが硬直を始める。
そんな君の反応に満足げな微笑を浮かべながら、彼女がいう。
「今日はおまえにお土産があるのよ。欲しい?」
君は足の裏に顔を押し付けたまま「はい」とこたえる。
すると彼女はいったん足を下ろし、鞄の中から紙袋を取り出した。
その紙袋の中には、小さな箱が入っていた。
さらにその箱を開けると、中身はレアチーズケーキだった。
彼女は、それを君に見せ、訊く。
「食べたい?」
「はい」
「じゃ、食べさせてあげる」
そういうと、彼女は近くにあった折りたたみ式の椅子を引き寄せて座り、君の餌のボウルの中にそのチーズケーキを投げ込んだ。
しかし、まだ食べることはできない。
君は犬なので、飼い主から「よし」という許可があるまで食べてはならないと躾けられている。
君がお座りしたまま待っていると、彼女は餌のボウルを持ち、中のチーズケーキに大量の唾を吐きかけた。
たちまちケーキに唾のコーティングが施されていく。
そして彼女はさらに、そのボウルを地面に置くと、立ち上がって、いきなりスカートをたくし上げて下着を下ろし、そのボウルを跨いでしゃがんだ。
君は、彼女の股間の茂みを凝視してしまう。
彼女のそれは、明るい日差しを浴びて艶やかに光っている。
やがて彼女は勢いよく放尿を開始した。
その金色の水流はチーズケーキを直撃し、その形状を破壊していった。

やがて水流が止まり、彼女はティッシュで無造作に股間を拭ってから下着を穿き、スカートの裾を下ろして再び椅子に座った。
ボウルの中のチーズケーキは、金色の液体に浸されて既にもう半壊している。
さらに彼女は、椅子に座ったまま片足だけ靴下を脱いだ。
そしてその生足をボウルの中に下ろし、チーズケーキを足の裏で捏ね繰り回す。
君は、半ば唖然としながら彼女の足の動きを凝視している。
彼女は足の指を動かしてチーズケーキを爪先に絡めた。
そして、その爪先をボウルから上げ、君の目の前に差し出す。
嘗てチーズケーキだった食べ物らしき物体が、彼女の足先を彩っている。
「ほら、おいしそうでしょ? お食べ」

彼女は楽しそうに笑っている。
君は「いただきます!」と叫んで、その爪先にしゃぶりつく。