2005-07-27

真夏のオン・ザ・ビーチ

強烈な真夏の太陽が垂直に降り注いでいる。
白い砂浜の表面は熱く、影の部分はどこにもない。
波は穏やかで、ビーチはほぼ無人だ。
水平線は丸く、彼方に入道雲がもくもくと湧きあがっている。

よく晴れて気温の高い、完璧な夏の日だ。
遠くに、海の家がぽつんと見える。
風は殆ど吹いていない。
そのため、ひどく暑い。

君は、そんな暑さの中、首から上だけを露出させて砂に埋まっている。
しかも、埋まっているといっても、横になっているわけではない。
縦に深く掘られた穴に、正坐をして埋まっているのだ。
君はその穴を自分で掘った。
もちろん、それだけの穴を掘ることは大変な労力を要したが、君はそれを全部ひとりで完遂した。
自分で自分のための穴を掘り、自分でその中に入った。
そして君に砂を被せていったのは、今、君の周囲に立っている三人の女性達だった。
三人とも若くて美しく、素晴らしいプロポーションを誇っていて、しかも鮮烈なまでに挑発的な原色のビキニを着ている。
その三人が、君を埋めた。

君は砂の中から、三人の女性達を見上げている。
女性達は、君を取り囲むように立っていて、微笑を浮かべながら見下ろしている。
君は暑さのため、額に玉のような汗をかいているが、腕も完全に埋まっているのでそれを拭うことはできないでいる。
手は砂の中で、畳んだ太腿の上にある。
そんな君を滑稽そうに、憐憫の目で悠然と見下ろしながら、女性のひとりが言った。

「さて」

笑いながらそう言うと、その女性はおもむろに君の頭を跨いで立ち、ビキニのショーツを下ろした。
君は思わずごくりと生唾を飲み込んで、その艶やかな陰毛に彩られた女性の股間を見上げてしまう。
すると、次の瞬間、その女性は君を跨いで腕組みをしたまま、仁王立ちでいきなり放尿を始めた。
それは凄まじい勢いで、君の頭頂部、そして顔面を濡らした。
君は眼を閉じ、それを浴び続けた。
砂に埋められているため、逃げることも、もがくこともできなかった。
君は無力に、ひたすら尿を浴び続けた。

ひとりが放尿を終えると、すぐに次の女性が君を跨いだ。
そして君を覗き込み、命じた。

「ほら、上を向いて大きく口を開けて、ちゃんと飲むのよ」

そう言って、その女性は放尿を開始した。
君は命じられたとおりに顎を上向かせて大きく口を開け、その問答無用で注ぎ込まれていく液体を口で受けたが、たちまち咽て、ごぼごぼと溢れさせてしまった。
女性は怒り、放尿後、ビーチサンダルの足の裏で君の頭を、そして頬を踏み潰した。

結局、君は次々に三人の尿を浴び、そして飲んだ。
君はもう、砂から出ている部分がずぶ濡れだ。
しかも、周囲の砂も三人分の尿をたっぷりと吸い込み、黒く濡れてしまっている。
君の周辺には、真夏の暑い空気に攪拌されてさらに増幅された強烈なアンモニア臭が立ち込めた。
それは、夕立の後の濡れたアスファルトを君に連想させた。

三人の女性は再びショーツを身につけて、君を取り囲んで見下ろしながら高らかに笑っている。
君は照れたようにはにかみ、目を細めて女性たちを見上げた。

君の視界は、髪の毛を伝い、額を流れ、睫毛の先端に付着した金色の雫の破片によって、キラキラと輝く煌びやかな光に彩られている。

2005-07-19

バスを待ちながら

港町、温い風

薄曇りの午後

今夜遅くには台風が上陸する

湿度は高い

なだらかな坂道の下

防波堤の気だるい影

無人の県道

バス停に、日傘の女性がひとり

夏のワンピース

軽いサンダル

淡色のサングラス

赤い爪

昨日という名の遠い未来

きわめて個人的な事情

感傷を断ち切るため

追憶のニューロン

快楽のシナプス

傍らに置いた小型のスーツケース

その中身は、謎

そしてあなたは、秘密の人

2005-07-14

金曜日の冒険

ほんの幼い子供の頃、通学路から一本外れた路地は、未知の空間だった。

この角を曲がると、先にはどんな世界が広がっているのだろう?

そう思いながら、しかし通い慣れた道に差し込む夕陽は、優しくいつもの場所を照らし続けていた。
その道から外れることに憧れはあったが、同時に恐くもあった。
もう二度といつもの場所には戻れないような気がして、小さな交叉点では目を強く瞑り、その憧憬を振り払うように急ぎ足で駆け抜けた。

君はそのようにして大人になった。
何かに導かれているという自覚はなかったが、何かを切実に求めて、そのためにシビアな選択を迫られてきたわけでもない。
邪悪なものはいつも、すぐそばにあった。
ただ、それには近づかなかった。
もしかしたらそれは邪悪ではなく、さらなる福音を告げるものだったかもしれないが、君は、いったん道を外れてしまったらもう戻れなくなるのではないか、という恐怖が払拭できず、誘惑は見てみぬ振りをしてクールにやり過ごした。


世の中は破廉恥で、様々な誘惑に満ちている。
商品化された『性』がメディアには氾濫している。
挑発的な女の子たちが、刺激的なヘッドラインを従えて妖艶な微笑を振りまいている。


君は二時間の残業を終えて、インターネット・カフェに入った。
夕食はインスタントヌードルで済ませた。
味気ない食事だが、とりあえず腹は膨れるし、何より安上がりだ。
君は週末の夜、ネットカフェでコンピュータと向き合う。
そしてブラウザを立ち上げてネットに接続し、パスワードを入力して自分専用のオンライン・ブックマークへアクセスする。
そこには、君の暗い欲望を静かに煽動する、おびただしい数のアダルトサイトが登録してある。

君は今夜、ささやかな決意を胸に秘めていた。
それは、今夜こそSMクラブへ行こう、と思っていたのだ。
君はこれまで自分でそれを認めてこなかったが、どうやらマゾヒストであるらしかった。
女性から辱められることに、異様な興奮を覚えるのだ。
いつからそういう指向になったのか、その時期は定かではない。
しかしこの数年、君はその願望と戦い続けていた。
このような嗜好は、当たり前の男性として間違っている、そう思っていたのだ。
それでも、もう限界だった。
そろそろそれを認めなければならない頃合かもしれない、と君は最近そう思い始めていた。

もう何十回となくチェックしているSMクラブのウェブサイトを開く。
そのサイトには、在籍している女性の写真が豊富にあり、欲望を刺激する様々なキーワードが鏤められている。
クラブへ行くなら、初めてのときはここにしよう、と君は決めていた。
理由は、いくつかあった。
ひとつは、場所が比較的、自分の生活圏に近く、馴染みがあること。
そしてもうひとつは、写真で見る限りだが、自分好みの女性が何人か在籍しているからだ。
君は緊張しながらサイト内を移動し、在籍女性のプロフィールを見ていく。
今夜の君にとって、もっとも重要なチェック項目は出勤日だ。
君は上着の内ポケットから手帳を取り出して、金曜日のこの時間に出勤している女性の名前を書きとめていく。
そして最後にクラブの電話番号を書き写し、何度も確認してからその手帳を閉じ、ポケットに戻した。

果たして、どんな経験が待ち受けているのか。

それを思うと、たまらなく緊張した。
しかし、もう決めたのだ。
このネットカフェを出たらクラブに電話をし、予約をする。
そうすれば数時間後には、これまで長い間ひとりで夢想してきた暗く眩い世界が目の前に開けるのだ。
それは君にとって未知の場所だ。
子供の頃は恐くて、通学路から外れる路地へ足を踏み入れることは出来なかったが、そろそろ目を開いてその角を曲がってみてもいいだろう。
君は、これから自分が旅立とうとしている金曜日の夜のささやかな冒険に、心を震わせた。

君はブラウザを閉じ、椅子の背凭れに背中を預けて力を抜いた。
そしてキーボードの脇に置いてあるマグカップに手を伸ばし、温くなってしまったコーヒーを一口飲む。