2005-08-26

Sweet Hot Chocolate.

コンロにかけられたソースパンの中で茶褐色の液体がドロドロに溶けて、甘い香りが部屋に充満し始めた。
君は全裸で床に正坐しながら、その香りを嗅いだ。
しかし黒い布で目隠しをされているため、視界は遮られている。
君のすぐ前には、無人の椅子が一脚、ぽつんと置かれている。

ソースパンを温めているのは、背の高い、美しい女性だ。
その女性は紺色のタイトなミニスカートに白いシンプルな長袖のシャツといういでたちで、薄いベージュのストッキングで脚を包み、靴やスリッパは履いていない。
長い髪が肩にかかっていて、女性は時折、何気なくその前髪を指先でかきあげている。

女性はやがて、コンロの火を消すと、ソースパンを流し台へ移し、氷を入れたボウルの上へそれを置いて熱いチョコレートを冷ました。
そして、しかし凝固してしまわないよう、スプーンで静かに攪拌する。
そうしながら、女性は何気なく振り返ってちらりと君を見た。
君は背筋をピンと伸ばし、きちんと正坐している。
その様子に、少し離れた場所から女性は微笑を浮かべるが、もちろん君には見えない。
君は軽く拳を握ってその手を太腿の上に置いたまま、不動だ。

じきにチョコレートは人肌程度にまで冷める。
女性は人差し指で少しチョコレートを掬って舐め、温度の低下を確認すると、ソースパンを持って君の前へ移動する。

誰かが近づいてくる気配を君は感じたが、その正体はわからない。
ただ、チョコレートの匂いが強まったことと、微かな衣擦れの音で気配は感じる。

やがて女性は君の前まで来ると、椅子に座り、いったん床にソースパンを置いてから、静かに脚を組み、音もなくストッキングを脱いだ。
君は体を固くしながら、全身の神経を研ぎ澄ましている。
その緊張した君の様子に、女性は唇を歪ませるようにして静かに小さく笑い、脱ぎ終えたストッキングで君の鼻先を挑発した。
その一陣のそよ風のような感触に、君はビクリとしてしまう。
ほんの一瞬、チョコレートの甘さとは異質の香りが君を掠めた。
女性は、そのストッキングを捨てると、爪先をソースパンの中に浸した。
そして指先や足の裏へ溶けたチョコレート充分に絡ませていく。
やがて充分に絡まると、女性は爪先を持ち上げ、そのまま君の鼻先に突きつけた。

「舐めなさい」

そう命じて、女性はいきなりチョコレートの爪先を君の顔、鼻から口にかけての部分に押し付けた。
君はその感触で、顔に爪先が押し付けられたことを知り、瞬間沸騰して手探りでその足の踵を捉えて支えると、チョコレートに彩られた柔らかく甘いその足に舌を伸ばした。

君は腰を半ば浮かせて昂りながら、温かいチョコレートに塗れた女性の足の親指にむしゃぶりつき、一心不乱に舐め続けている。
女性が、身を屈めてソースパンを拾い上げ、その中身を、脛の辺りから爪先に向けて流す。
注がれるチョコレートが漣のように押し寄せてきて、君は温かく甘いそれに塗れていく。

そして君の唇から溢れたチョコレートは静かに顎を伝い、ゆっくりと体を流れ落ちていく。

2005-08-22

流星の町

真夜中のカーテン

踏み切りの先のなだらかな坂を下る

濡れる窓辺

禍々しい風

絶望が歪む

口に含んだ氷が溶けていく

遠い雷鳴

足元の乱れた淡い光

濃密な闇を引き裂く一閃

絶叫はラプソディ

無口なグラス

歩いてほんの数分の距離

群青色の快感

指先の戯れは気まぐれ

遮る困惑

短気な背骨

寝台列車のメランコリー

明日を踏みにじる

流星の町

唇の謎

傷跡に沁みる

太陽と月のせめぎ合い

朝と夜の攻防

理性と煩悩の駆け引き

2005-08-09

西へ

最終の下り『のぞみ』。
座席はほぼ埋まっている。
君は車両中央付近の、窓際の席に座っている。
外は暗く、強化プラスチックの窓には車内の様子が白く映っている。
満席に近い状態なのに、車内はとても静かだ。
大半の人が、本や雑誌を読んだり、ヘッドホンで音楽を聴いたり、目を閉じて眠ったりしている。

君は上着を脱いで、それを下半身に掛けている。
しかし眠ってはいない。
じっと窓の外の闇を見つめている。
そして隣の座席には、薄いスモークのサングラスをかけた美しい女性が座っている。

その女性が、つと窓のほうへ顔を向けた。
白い反射の中で君と目が合う。
しかし、君はすぐに視線を外してしまう。
女性に見つめられることに、君は慣れていないのだ。

彼女は長い脚を組みかえると、右手を、テーブルに置かれたコーヒーの紙コップへ伸ばした。
そしてそれをゆっくりと一口飲む。
君は、そんな彼女の隣の座席で、体を硬直させている。

彼女の左手は、さっきからずっと、君の腰に掛けた上着の下へ伸びている。
その手は、君のズボンのジッパーを下ろし、中から性器を引っ張り出して握っている。
ただ単に握っているだけではない。
彼女は、周囲に気づかれないよう、君のペニスを握るその手を、小刻みに上下させているのだ。
むろん、君のペニスは、上着に隠された下で既に完璧にいきり立っている。
彼女の手は、その君のペニスを絶妙なリズムで刺激し続けている。
たまらず君は時々腰を浮かしそうになってしまうが、その度に、彼女が長い爪の先を亀頭に食い込ませて堪えさせる。
君は一瞬だけ顔を歪ませるが、すぐに何気ない表情を取り繕う。
そして再び快感が君を包み込む。
君は軽く目を閉じ、その刺激に溺れていく。

『のぞみ』は、強引なスピードで闇を切り裂き、西へ向かっている。