2006-12-21

Happy Christmas

硬質な靴音が近づいてくる。
レンガの壁に凭れ、コンクリートの冷たい床で膝を抱えて座っていた全裸の君は、俄に緊張し、鉄格子の向こうの廊下へ視線を投げる。
寒さのため、股間の性器は完全に萎えている。
狭い独房だ。
明かり取りの窓が高みにあるが小さく、もちろん鉄の格子が嵌められており、そこから流れ込む青い月光は格子によって千切れて床を濡らしている。
君はその差し込む光から逃れるようにして蹲り、壁に凭れて座っている。
この房には監視のためのカメラが設置されているが、近頃ではもうその存在を気にすることも無い。
君は常に身も心も剥き出しであり、それが普通なのだ。

そんな君の両足には重い鉄球の付いた足枷が嵌められており、首には革製のベルトが巻かれている。
そのベルトは、リードを装着すればすぐに首輪として使用可能だが、独房内にいる現在の君のベルトにリードは付いていない。
繋がれていなくとも、どうせこの独房から出ることなどできず、どこへも行けやしないのだ。
しかし鉄球と繋がる足枷は、どんな時であっても外されることが無い。
それは一応、脱走防止の為の措置で、もう今の君にそのような不埒な発想はないのだが、単なるアクセサリーとしてそれは付いている。
ただし、鉄球の重量は20キロもあるため、気軽にアクセサリーと呼ぶにはいささか重く、房内をただ歩くだけでも相当な労力を要してしまうのだが、そのような事情など考慮されるはずがない。
なぜなら、「人間」ではないからだ。
所詮は奴隷、あるいは家畜であり、「人権」という言葉からは最も遠い場所で生きている。
それが、君だ。

やがて格子の扉の前に美しい女性が立った。
黒革のロングブーツに看守の制服を着て、コートを羽織っている。
女性の右手にはこの独房の鍵と長い鞭、左手に革製の大きな鞄が持たれている。
君は立ち上がり、扉に近づいて正座し、床に両手をついて頭を下げ、その額を床につける。
扉が解錠され、鉄が軋みながら開かれる。
君は額を冷たい床につけたまま、その音を聞く。

「顔を上げなさい」

女性の感情のない冷酷な声が響く。
君は怖ず怖ずと顔を上げる。
しかし両手は床についたままだ。
女性がしゃがみ、鞭と鍵の束をいったん床に置いて、鞄を開く。
そしてその中から金属製の平たいボウルを取り出すと、それを君の前に置き、続いて白いケーキを箱から出してそのボウルの中に投げ入れた。
円い、苺の載った可憐なケーキがボウルの中で崩れる。

「今夜はクリスマスイブだから、特別よ。嬉しい?」
女性が微笑んで訊き、君は大きく頷く。
「嬉しいです」
「そう……」

女性は更に鞄から二本の太くて赤いロウソクを取り、君に命じた。
「両手を、手のひらを上に向けて差し出しなさい」
「はい」
君は命じられた通り両手を前に出した。
女性はその手のひらに一本ずつロウソクを置き、ライターで火をつける。
「落とすんじゃないわよ」
「はい」
君はロウソクに注意を払いながら慎重に頷く。
寒さのためにその手は小刻みに震えたが、君はそれを抑え続ける。
オレンジ色の小さな炎が壁に映って揺れる。
その火影が女性の美しい顔を幻想的に照らす。

次に、女性は鞄から星の形をした飾りが付いたピアスを取り出し、君に近づく。
女性の甘い香りが君を包み込む。
女性は冷たく微笑み、ピアスの針を君の右の乳首に突き刺した。
鋭い痛みが走り、君は歯を食いしばって耐える。
銀色の星にロウソクの灯が撥ねる。

「飾ってもらえて嬉しい?」
妖艶な笑みを浮かべて女性が首を軽く傾げてみせる。
「はい。嬉しいです」
君は右の乳首に星のピアス、両手に赤いロウソクを掲げ持ったまま頷く。
溶けた蝋が流れて手のひらに落ち、その熱に君の表情が一瞬歪むが、君は耐える。
乳首から一筋の血が細く流れる。

「良かったわ」

女性はそう言うと、立ち上がり、コートの前をはだけてパンツのベルトのバックルを開いた。
そしてベルトを外し、パンツと黒いレースのショーツを下ろして、ケーキの入ったボウルを跨ぐ。
君は息を詰めてその様子を見守る。
目の前に女性の股間を彩る淡い陰が迫り、君はついその茂みを見つめてしまう。
やがて、女性の股間から金色の温い水が湯気を漂わせながら噴出し、ケーキに降り注ぐ。
勢いよく迸るその水流に、ケーキの表面はたちまち崩壊し、ボウルの底に黄金色の液体が溜まっていく。
ケーキの甘い匂いの中に、ツンと鋭いアンモニア臭が混じり、仄かな湯気とともに立ち昇る。
長い放尿が終わり、女性は再びパンツを穿くと、崩れかけているケーキに何度も唾を吐き、そのボウルの中にブーツの爪先を突っ込んだ。
そして爪先と踵を使って執拗に踏み潰し、そのブーツの先でケーキの欠片を掬うと、それを君の口許に突きつけた。

「食べなさい」
「ありがとうございます」

君はロウソクを落としてしまわないように気を配りながら心持ち前へ体を乗り出し、そのブーツの爪先のケーキの残骸を口に含んだ。
「全体に綺麗にしなさい」
女性にそう命じられ、君は「はい」と頷くと、続いて舌を伸ばしてブーツの表面を入念に舐めていく。
女性は壁に手をついて体を支えながら、必死に上体を捩り丹念にブーツに舌を這わせ続ける君を冷然と見下ろしている。
じきに、おおかたブーツのケーキが取れると、女性は足を下ろし、君を退けた。
君は再び元の姿勢に戻る。

「じゃあ、残りは自分で食べなさい。もちろん、ロウソクはそのままよ。カメラで見ているから」
「はい。有り難く頂戴させていただきます」

君は丁寧に頭を下げる。
女性はそれを冷たく鼻で笑って鞄を手に取り、一度だけ君の後頭部を踏みつけてから鞭と鍵束を持つと、君の房を出て施錠し、立ち去った。
君は遠ざかる靴音を聞きながら漸く頭を上げ、ボウルを見つめた。
そこには、嘗てはケーキだった物体が完全に変質して金色の温い水の中に沈んでいた。
苺も、もう跡形なく潰れて生クリームやぐちゃぐちゃのスポンジと混じり合い、それは金色の液体に滲み出ている。

君は赤い両の手のひらでロウソクを掲げたまま器用に体を折り、ボウルの中に突っ伏した。
そして、口だけでその嘗てはケーキだった物体を頬張る。

2006-12-18

不安定な逆転

君の世界は今、逆転している。
天井が足許にあり、床が頭上にある。
しかも、今の君は不安定だ。
視界はゆらゆらと微妙に揺れている。

君は、頭と足の位置を逆にして吊られている。
全裸の全身に麻縄が巻かれ、そのまま足首から天井に吊り下げられている。
ちょうど踝の上あたりで揃えて拘束された足首に麻縄が食い込み、少しでも体が揺れる度にそれは擦れる。
天井には滑車があり、麻縄はそれを利用して君を中空に浮かべている。
頭のてっぺんから五センチくらい下に、コンクリートの床がある。

君は、頭に血が下がるのを自覚しつつ、しかし性器を勃起させている。
卑猥な姿だ。
その姿は、壁の鏡で君にも確認できる。
しかも、君の体は亀甲模様に縛られているだけではなく、鞭の跡が胸前から太腿あたりまでかけてびっしりと刻まれている。
その跡は赤く、貧相な君の体を自由に走っている。
中には、血が滲みだしている傷もあるが、君にはどうすることもできない。
今の君は、限りなく無力だ。
両手は後ろに回されて腰の辺りで縛り上げられている。
そして体を動かせば、重力のせいで縄が全身に食い込み、尚更辛くなるだけだ。

カツカツカツカツと硬い靴音が近づいてくる。
見ると、素晴らしいプロポーションを革のボンデージに包んだ美しい女性が、冷酷な笑みを浮かべながら君の体へと歩み寄ってくる。
その手には、鞭が握られている。
長く、しなやかな一本鞭だ。
細い先端が床に触れ、這いずり回るようにその美しい女性の後ろに従っている。
それはまるで女神に従順な黒い蛇のようだ。

美しい女性が君の傍らに立ち、気まぐれに君の体を軽く突いた。
縄が軋み、君の体がボクシングジムのサンドバッグのように揺れる。
女性が動くと、微かに香水の匂いが漂って、それが君の弛緩気味の脳を刺激する。
吊るされている君の視界には、女性のロングブーツだけがあり、膝から上を直接見ることはできない。
鏡の反射を利用すれば女性の後ろ姿を視認することは可能だが、表情まではわからない。

女性が、天井の滑車から下がる鎖を手繰った。
ガラガラガラガラと大きな重厚な音が響いて、君の体が逆さまのまま回るように揺れながら上昇を始める。
そして、頭のてっぺんと床が三十センチほど離れたところで、女性は鎖を手繰るのを止めた。
上昇が止まり、やがて回転と揺れが収まる。
君のすぐ目の前に、女性の太腿の豊かなボリュームがある。
更に、少し視線を上へ向ければ、ハイレグのショーツの三角の部分がそこにはある。
しかし、その距離は永遠に縮まらない。

君は中空で静止している。

2006-11-15

赤の洗礼

撃ち抜かれた林檎

粉砕された水瓜

踏み潰されたトマト

飛散するテールランプの破片

石の床に零れたワイン

溶けて流れ落ちる蝋

からだを拘束するロープの残像

閉じた瞼の裏を染める太陽の斜光

針の先から滴り落ちる血液の雫

2006-10-26

water

渇いていた。
照りつける日射しが容赦ない。
一片の雲もない空は抜けるように青く、空気は乾燥し、大地はひび割れている。
どこまでも続く不毛の荒野だ。
遠くに岩山が見える固い砂漠は無音の世界だった。
ときどきサボテンが群生し、風が吹くが、君は孤独だ。
周りには誰もいない。

君は全裸で、革の首輪だけを巻いて、そんな荒野を四つん這いで進んでいる。
既に手のひらや膝の皮はめくれ、背中は日焼けで真っ赤だ。
そして喉の渇きが激しい。
切実に今の君は水を求めているが、もう何ヶ月も雨が降っていない荒野には、水たまりのひとつもない。
一滴の水が遠い。
陽炎が立ち、景色は歪んでいる。

垂直に射す日光と熱が、君から体力を奪っていく。
汗が噴き出し、膝も肘も震えていて、君は満身創痍だ。
四つん這いでヨロヨロと進む君の股間で、萎えた性器がだらしなく揺れている。

やがて前方の岩場に、人影が見えた。
スタイルの良い女性だ。
女性は岩に腰掛け、傍らに鞭を置いて、ブーツに包まれた長い脚を投げ出しながら煙草を吸っている。
その微かな煙がまるで蜃気楼のように淡く揺れている。
君は吸い寄せられるようにその岩場へと近づいていく。
もう限界だ。
君はボロ雑巾のような体を引きずりながら、女性の許へと向かう。
口の中がカラカラに渇いていて、もう唾も出ない。
喉の粘膜が張りついてしまっているかのようで、壊れた掃除機みたいな荒い呼吸が漏れるだけだ。
無音の荒野に、君の影だけが寡黙に色濃く落ちている。

岩場まで辿り着くと、女性は高い位置で脚を組んだまま君を見下ろし、笑っている。
美しいが残酷な笑顔だ。
疲労困憊の君は崩れ落ち、逆光気味のため陰になっている女性の顔を見上げる。
もちろん、這い蹲ったままだ。
そして君はそのままの体勢で、声を振り絞って言う。

「お願いします。水を、水をお恵みください……」

女性が水筒を掲げて見せ、訊く。

「欲しいの?」
「はい……」

君は掠れた声を漏らして頷く。
すると女性は鞭の柄をジーンズに差してひょいと岩場から下りて君の前に立ち、傍らの馬の背から木製のタライを取ると、それを足元に置き、水筒のキャップを外して逆さまにし、中の水を注ぎ入れた。
水飛沫が踊り、光を撥ねて煌めく。
その煌めきに目を細めながら、君はじっとその水を見つめる。
じきに水筒の中が空になり、タライに水が溜った。
君はそのタライににじり寄った。
夢にまで見た、水だ。
涼しげな水面の揺らぎが辺りの空気をさざめかせている。
たまらず君はそのタライに屈み込もうとする。
すると、すかさず女性が鞭を取り、振った。

「まだよ!」

長い鞭が撓ってその尖った先端が君の背中を鋭く打ち据え、乾ききっていた皮膚が裂けて血が飛び散る。
君は思わず「うぎゃあああ」と叫んで突っ伏し、その痺れるような痛みに歯を食いしばって耐える。

女性は鞭の柄をジーンズに戻すと、岩場に腰を下ろした。
そしてゆっくりと、素足のまま長時間にわたって履きっ放しだったブーツを脱いだ。
君は背中の痛みをぐっと堪えながら体を起こし、息を詰めて女性の行動を凝視する。
女性はブーツを脱ぎ終えると、その足を桶の中の水に浸し、バンダナでごしごしと洗い始めた。
白くて華奢な指が水の中で歪む。
女性は入念に足を洗い終えると、バンダナをタライの上で絞って足を拭き、ブーツを履いた。
そしてさらに、その水の中へ何度も唾を吐く。
君はお座りをし、膝の上に手を置いてじっと待っている。
今すぐにでもそのタライの中に顔を沈めて水を飲みたいが、それは許されない。

「こんな汚い水でも飲みたいの?」
女性が微笑む。
君はぜいぜいと息を漏らしながら何度も大きく頷く。
「はい……どうかお恵みください……」
「ふーん」
女性は君を鼻で嘲笑った後、その場でジーンズを脱ぎ出し、そのままパンティーを下ろして、タライを跨いで立った。
そして、水の中へ勢いよく放尿する。
黄金色の滴が迸り、辺りにツンとした匂いが立ちこめる。
しかしその匂いはたちまち乾燥した空気の中へ拡散していく。
長い放尿が終わり、止まった。
女性はティッシュで適当に股間を拭うと、そのティッシュもタライの中へ捨てた。

ティッシュが溶けゆく水はすっかり濁ってしまった。
しかし、水は水だ。
君は魔力に絡めとられたみたいにタライを凝視する。
「これでも飲みたい?」
パンティーを上げ、ジーンズを履きながら、含み笑いを漏らして女性が小首を傾げる。
「はい。いただきたいです……」
君は最後の気力を絞って言う。
もう視界が白く霞み始めている。
女性は服装を整えると、再び岩場に腰を下ろして腕を組み、投げ出した脚を足首で交差させて顎をしゃくる。
「そう……じゃあ、飲みなさい」
「ありがとうございます……」
君はヨロヨロと進んでタライに近づき、地面に手をつき、屈み込んでその濁った水の中に口をつけた。
そして温い水をすすり上げながら、一心不乱に喉を鳴らして飲む。

そんな君を、女性は悠然と微笑み、憐れみの目で見下ろしている。

2006-10-01

Baby Pink

君は一糸纏わぬ生まれたままの姿で床に犬のようにお座りしている。
首には首輪、そしてそれに繋がる鎖は、君の目の前に立つ女性の手へ続いている。

君の手は後ろに回されて手首をがっちりと革製の枷で固定され、さらにその枷に取り付けられた鎖が腰に何重にも巡らされた後、そのまま背後の壁に伸びていて、今それはギリギリまで張っている。
そのため、君は心持ち後ろへ引っ張られるような姿勢で女性の前に跪いており、もう僅か数センチも前へは進めない。
手を伸ばせば簡単に届きそうな位置にある女性の脚にも、当然触れることはできない。

女性は下着姿だ。
君の目の前、15センチほど先の斜め上方に、淡いピンクの下着が迫っている。
それは君にとって、幻のように美しい色彩だ。
女性は一歩前へ踏み出して、その小さな下着を更に君に接近させる。
ほんの少し首を伸ばせばその股間の布に鼻先を埋めることが可能だが、手首に取り付けられた鎖のせいで君はもうこれ以上前へ身を乗り出せないため、その挑発は死の宣告に等しい。
君はペニスを猛々しく勃起させながら膝で立ち、必死に顎を前へ突き出して、さらに首も伸ばすが、絶対にそのピンクの布地に顔を埋めることはできない。

君はその届きそうで届かないもどかしさに発狂寸前だ。
限りなく近いのに、限りなく遠く、その距離はまるで永遠のように君と下着を隔てている。

無意味であるとわかっていながらも君はさっきから、健気に顎を突き出して鼻孔を大きく開き、その部分に籠る芳香を吸引しようと試みているが、それは叶わない。
しかし、大きく鼻から息を吸うと、今日は一日暑かったから目の前の女性の股間付近から甘く湿った香りが感じられるような気がし、君はいっそう昂ってしまう。
ただ、なまじか僅かに芳香が感じられるため、それ以上前へ進めない君のもどかしさは余計に募る。

女性は唇の端を歪めて冷笑気味に君を見下ろしている。
君はその視線に身悶えながら、破廉恥な犬と化している。

2006-09-16

ノクターン

心地よい夜の闇が君の全身を被っている。
広いテラスの向こうは、なだらかな芝生の庭、そしてその先は鬱蒼と樹木が茂る森だ。
高原の夜風は涼しい。
季節は真夏だが、空気の中に暑気はない。
どこからか虫の声が聞こえる。
もしかしたら、もう秋が近いのかもしれない。

君はテラスの中央で、全裸で直立している。
揃えた脚の足首には踝が触れるようにきつく枷がつけられていて、頭の後ろへ回した両腕の手首も、革製の枷で拘束されている。
君は高原の夜の中で完全に無防備だ。
もちろん性器は剥き出しで、その周囲の毛をすべて剃ってあるため、ひどく落ち着かない気分ではあるが、しかし不思議なことに妙な安堵も同時に覚えている。
明かりは、テラスに面した大きなガラス戸から漏れる室内の柔らかい光だけだが、その光の領域は君の周辺まで届いていない。
レースのカーテン越しに漏れるその灯は、窓辺をほんのりと照らしているだけだ。

その柔らかい光の中に籐製のゆったりとした椅子が一脚だけ置かれていて、そこに美しい女性が優雅に脚を組んで座っている。
端正な淡いブルーのスーツだ。
スカートは短く、決して太くはないが肉感的な白い太腿を惜しげもなく誇示している。
しかしテラスの外へ向いて立っている君に、その女性の姿は見えない。
それでも、君は背後にその女性の気配をひしひしと感じている。
女性は、手に長い一本鞭を持っている。
黒い革は艶やかに輝き、細くなっている先端がテラスの木の床に接地している。
それはまるで蛇のようだ。

「こっちを向きなさい」

女性が君に声をかける。
静かな声音だ。
しかし可憐という響きは皆無で、穏やかではあるが圧倒的な威圧感を秘めている。
君はゆっくりと振り向く。
もちろん手足をぎっちりと拘束されているため、迅速な動きは無理だ。
君は小さく跳ねるように、踵を支点にしながら小刻みに体を回転させ、やがて女性と向き合う。
そして、短いスカートの裾が更に若干めくれ上がって露になっている太腿の量感に一瞬目を奪われ、続いてそれとほぼ同時に、彼女の手に持たれている鞭の存在も認めて、恐怖と期待が入り交じったマゾヒスト独特の珍妙な表情を浮かべる。
女性が唇の端を歪めるようにしてあからさまに小さな嘲笑を漏らし、スローモーションのように脚を組み替える。
柔らかそうな太腿のラインが微妙な陰影を踊らせつつ躍動し、君は生唾を飲み込みながらその動作に心を捕われる。
それは一瞬の美だ。

女性は脚を組み替え終えると、いきなりその相貌から一切の感情を完璧に消去して冷徹な眸で君を見据えた。
君はその強い視線に縛られ、息苦しさを覚える。
本当ならすぐさま目を逸らしたかったが、そんなことをする権利は君にない。
君は怯えきったマゾヒストの目で探るように女性の視線を享受する。
たちまち君の股間に変化が起きる。
それまで中途半端に萎えていたペニスが、俄に屹立したのだ。
その変化を認めて、女性は小さく鼻で笑う。
ささやかな空気の流動が発生してそれが君に到達すると、君は更に勃起を固くしてしまう。

次の瞬間、女性がいきなり鞭を一閃し、その細い先端をテラスの木の床に叩きつけた。
鋭く短く、そして激しい音が辺りに響き、夜の静寂が引き裂かれる。
君はびくりと体を弾ませ、緊張する。
女性は優雅に笑っている。
君はその美しい表情を怯えた目で縋るように見つめる。
女性が毒々しいくらい赤い唇の間に小さく舌を出し、ゆっくりと上唇を舐める。
君の意識は、女性の唇の所作に集中し、自分を包み込む世界の輪郭が剥がれ落ちていく感覚に絡めとられる。

女性が鞭を振り上げ、そしてひゅんと空気を引き裂いてしならせると、勢いよく的確に君の貧相な胸板を打った。
鞭の先端が君の肌に炸裂した一瞬、世界を切り裂くような乾いた音が短く響いて、君の体を斜めに刻むように赤いミミズ腫れを走らせた。
君はその疝痛に思わず「うっ」と呻きを洩らしてしまう。
続けざまに何度も鞭がしなり、君の体を左右から打ち据える。
その一撃の度に君は不自由な体勢のまま体を捩り、呻き、そして喘ぐ。

鞭は自由に夜を裂き、君にその痕を刻み続ける。
君は涼しい夏の闇の中で、いつしか全身に汗を浮かべていく。

2006-08-26

ステイブル

コンクリートが剥き出しの長い廊下が、真っ直ぐに伸びている。
天井には青白い蛍光灯が寂しく灯り、廊下の右側には個室が続いている。
しかし、ここは監獄ではない。
馬小屋を改造した施設だ。
そのため、廊下と個室の仕切りに鉄格子は使われていない。
木製の棒が横に掛けられていて、そこにアルミ製の飼い葉桶が吊るされている。
ただし純粋な馬小屋ではなく、人間のための施設なので、個室の床に藁は敷かれておらずコンクリートがそのままで、部屋の隅にベッドの代わりとして一山だけ寝藁が積んである。

この馬小屋に収容されているのは、「馬」として扱われている人間だ。
いや、厳密には人間ではなく、単なる家畜だ。
そして家畜の性別は全員が牡で、飼っているのは女性だ。
現在、この厩舎では二十人近い家畜が飼われている。
君はその中の一人だが、まだ入厩して日が浅いため、家畜の中で最も新入りだ。
しかし、新入りだからといって、言い訳は何もできない。
いったん入厩した以上、君は家畜として生きることを義務づけられていて、それから逃れることは決して許されない。
君はもう人間ではなく、家畜なのだ。
家畜に思考や意思は全く必要ない。
もちろん「プライド」や「尊厳」といった言葉とも無縁の生活だ。

君は今、厩舎の隅で膝を抱えて座っている。
家畜なので、当然衣服は身に着けておらず、全裸だ。
明かり取りの窓から差し込む青白い光が、頼りない君の薄い影を床のコンクリートに落としている。
窓の外は夜だ。
しかし、正確な時刻はわからない。
なぜなら厩舎内に時計など存在しないからだ。
家畜に時計は必要ない。
君は、女性の鞭に支配される存在なのだ。
鞭によって行動をコントロールされ、そしてそれに従うことこそが君の存在意義で、それ以外に君が君である手段はない。
家畜に「自由」という概念はない。
だから、むろん「不自由」もない。

そんな君の体は、過酷な調教の証として、全身に鞭の跡が刻まれている。
だいたいが愚図な君なので、日々の調教は相当厳しい。
しかし、君はここを逃げ出さない。
鉄格子が嵌っているわけでも、鎖で繋がれているわけでもないので、夜中にこっそりと抜け出すことは可能なのだが、君はじっとこの厩舎で朝を待ち、家畜としてのトレーニングを積み続ける。
その道にゴールはない。
君は常に途上にいる。

しかし君は今、とても幸せだ。
なぜなら、心底からマゾヒストである君にとって、「人に飼われる」というこの暮らしは、理想の世界だからだ。
理想の世界には矛盾がない。
その世界はシンプルで、完璧だ。

だから、君にとって今以上の幸福はない。

2006-07-19

深夜の散歩

「ほら、行くわよ」

スーツ姿の美しい女性が全裸の君の首輪にリードを繋ぎ、引っ張る。
君は四つん這いのまま腰を落とし、ほんの少しだけ抵抗する。
時刻は午前二時を回っているが、このままの状態で路上へ出るのは、さすがに恥ずかしい。
しかし、女性は容赦ない。
抵抗を無視し、君の背後に回って尻を蹴る。

「さっさと動きなさい」

強引にリードを引いて女性はドアへ向かう。
君は観念し、フローリングの廊下に手をつき、膝をついて、ゆっくりとその後に従う。
股の間で萎えた性器が揺れている。

ドアを出ると、吹きさらしの廊下は蛍光灯に照らされている。
女性は無言のままエレベーターへ向かう。
ハイヒールの踵が刻む硬質な靴音が、やけに大きく反響する。
君の掌と膝にはザラザラとしたコンクリートの床の感触が伝わっている。
君は心の中で強く、誰とも出会わないことを祈りながら女性の後を追う。
全く自分と関係の無い場所ならまだ良いが、ここは君が普段暮らしているマンションなのだ。
こんな姿を近所の住人に見られたら、君は多分もうここでは暮らせなくなるだろう。

エレベーターに乗って一階へ降り、ガラス扉を抜けて路上に出る。
七月の深夜の路上は、まだ熱帯夜というほど暑くはないが、空気は熱を帯び、湿っている。
君はもう全身に汗を掻いている。
しかしそれは、暑気のせいばかりではない。
君は喉がからからに渇くくらい緊張している。
そして俯いてアスファルトを見つめながら、女性に引かれていく。

掌と膝頭が、ざらついたアスファルトに擦れて痛い。
掌には細かい砂利が食い込んでいるし、膝は皮膚が破れかけて悲鳴を上げている。
君はあまりの痛さに耐えかねて、膝を浮かすと、四つん這いの姿勢は保ったまま足の指を折り曲げて着地させ、体を支えた。
それで痛みはずいぶん軽減された。
しかしいっそう不安定な体勢になったので、腰への負担が増した。
ほんとうなら立ち上がってしまいたかったが、それは許されない。
なぜならば、君は女性の飼い犬だからだ。
しかも、それを望んだのは君自身であり、途中で放棄することは決して許されない。

深夜の路上は無人だった。
集合住宅が密集する地域のため狭い街路の周囲は、まだ窓明かりがいくつか灯っているマンションやアパートばかりだが、行き交う車はなく、ひっそりと静まり返っている。
そんな静寂を切り裂くように、女性の靴音だけが響いている。
どこかで激しく犬が吠えだした。
それほど近くではなかったが、君は心臓を鷲掴みにされたみたいに硬直し、怯える。
頭の中は完全に「この姿を誰かに見られたらどうしよう」という不安と恐怖に支配されている。
生温い夜風が吹いて、君の全身を撫でていく。
剥き出しの背中に鳥肌が立つ。

女性は常に君の三メートルほど前方にいる。
一度も君を振り向かない。
ただリードを持ち、歩いている。
君は女性からあらかじめ、「もしも誰か人が来たら、一瞬のうちにリードを離し、全くの他人としておまえを無視する」と言われている。

青白い光を灯す水銀灯の下に差し掛かる。
女性の着ている鮮やかな白いスーツが、まるで夢のように夜の中に浮かび上がる。
君の淡い影が、路面に伸びる。
女性は光の領域から離れて闇の中で足を止め、振り向く。
そして、ちょうど街灯の下にいる君に言う。

「そこで犬みたいにオシッコをしなさい」

光の中にいる君からは、女性の表情までは判別できない。
しかし一瞬、女性の顔の前でぼうとオレンジ色の光が浮かんで、その表情が見えた。
女性が煙草に火をつけたのだ。
そして、その顔は、冷笑に覆われている。

煙草の匂いと煙が微かに流れてくる。
君は水銀灯の支柱に近づくと、命じられたとおり、犬と同じ格好をとった。
つまり、排尿の為に右足を上げたのだ。
しかし、極度に緊張しているせいか、なかなか出ない。
女性が闇の中から言う。

「早くしなさい。誰か来るかもよ? ふふふ」

「はい」

君は小声で応え、意識を膀胱に集中させる。

「はい、じゃないでしょ? おまえは犬なんだから『ワン』でしょ」

女性の声が、静かな夜の路上で思いのほか大きく感じられる。
君は目を瞑り、上げた足をワナワナと震わせながら「ワン」と言い直す。
そして、更に膀胱に力を込める。
早く出してしまって、この光の領域から逃れたい一心だった。

やがて、尿が出た。
しかし、性器は萎えて下を向いているため、それは街灯の支柱まで飛ばず、そのまま路面に落ちる。
飛沫が、アスファルトに膝をついている君の足にかかる。
さらに、路面を温い液体が流れて、君の掌まで濡らす。

ふと前方に目を遣ると、闇の一点で、時々オレンジ色の小さな光が瞬いている。
女性が煙草を吹かしているのだ。
その明滅の度に女性の周囲の闇が溶け、唇を歪めてあからさまに軽蔑の含み笑いを洩らしている女性の美しい顔立ちが浮かび上がる。

女性が煙草を足元に落とし、それを踏み消す。
オレンジ色の小さな光が落下して、路面で消えた瞬間、君の放尿も止まった。
女性が訊く。

「終わった?」

君は反射的に「はい」と答えそうになったが、思い止まり、「ワン」と言った。

「じゃあ、行くわよ」

再び女性が歩き出す。
リードが引かれて一瞬首輪が喉に食い込む。
君は自分の水溜りを路面に残して、四つん這いで女性の後ろ姿を追う。

2006-07-05

DVD

今夜、君は繁華街の裏通りにある、いかにも怪しげなアダルトショップで、『実録』と謳われたSMのDVDを手に入れた。
マゾヒストの君だから、それはもちろん女王様物で、正式なタイトルは『マゾヒストの、とある夜 vol.1』で、その下に、サブタイトルのように『実録・夜の歪んだ欲望』と書かれてあった。
しかし、インディペンデントのレーベルによる製作らしく、聞いたことの無いメーカーの作品だった。
そして、どうやらシリーズ物のようだったが、店頭にはこの『vol.1』しかなかった。
しかもそのDVDは、お世辞にも洗練されているとは言い難いパッケージデザインだった。
イメージ映像のつもりなのか、高層ビルの夜景や鞭などを合成した暗い画像がパッケージに印刷されていたが陳腐だったし、出演者の名前などはなく、タイトルの下に「収録時間90分」と記されていて、ケースの裏面に数点、作品からキャプチャーしたと思われる画像が載っていた。
ただし、その裏面の画像は粒子は荒く、どんな場面なのかはっきりしなかった。
それらの画像は、どこかの部屋で繰り広げられている女王様と奴隷の絡みを切り取ったものだったが、登場人物の顔などはわからない。
それでも、君は妙に心を惹かれた。
そして気がつくと、それをレジに差し出していた。

自宅に戻った君はシャワーを浴び、パジャマに着替えてリラックスしてから、改めてブリーフケースからDVDを取り出した。
夜も更けてそろそろ午前零時に近かったが、今夜中に観よう、と君は思ったのだ。
この頃は残業続きで疲れていたが、そのぶんストレスも溜まっていて、なかなかSMクラブへも行けなかったので、せめてDVDでも観なければ気持が落ち着かなかった。
もう三ヶ月ほどプレイはしていない。
君にとってその期間は充分に長かったが、忙しいし、仕方なかった。

君はテレビとDVDプレイヤーの電源を入れると、ソファから離れてテレビの前の床に移動して胡坐をかき、ヘッドホンを付けてそのコードを接続した。
どうせなら大音量で近所に遠慮なく音声を聴きたいので、HなDVDを観る場合、君は常にヘッドホンを使用する。
窓を閉め切って適当な音量で視聴するぶんには、そんなに気を遣わなくても、べつにその音声が部屋の外へ漏れることはないのだが、これは気分の問題だった。

部屋の明かりは壁の間接照明だけなので適度に薄暗い。
君は買ってきたDVDをケースから出してプレイヤーに挿入する。
そして画面を見つめる。

やがて再生が始まった。
乱暴な編集で、まるでホームビデオみたいだったが、その映像の質感が『実録』の雰囲気を強めてもいた。
黒い背景にタイトルが赤文字で浮かび上がり、それが消えると、本編が始まる。

最初に映ったのは、SMのための部屋のようだった。
カメラが入り口から部屋に入って、無人の室内を映していく。
画面に、その部屋に設置されている様々な装置が映し出されていく。
壁の磔台や、鏡、檻、天井から下がる鎖、ベッド、女王様用の椅子……。
君はそれらを見ながら、「ん?」と思う。
どうも、この部屋を見たことがあるような気がしたのだ。
というか、いつも利用しているSMクラブのプレイルームに、その部屋は酷似していた。
むろん、単なる気のせいという可能性も高かったが、なんとなく同じような気がしてならなかった。
君はDVDのパッケージを手に取り、画面の明かりを頼りに、どこかに撮影場所が記されていないか探した。
しかし、何も書かれていない。
そもそも、出演者のクレジットさえ無いのだ。
君は確認作業を諦めて、意識を画面に戻す。

やがて、画面に、椅子に座る女王様の姿が映し出される。
その女王様を見て、君は「あっ」と思わず声を上げてしまった。
画面の中の女王様は、君が今のところ最後といえる三ヶ月前にSMクラブへ行った時に指名し、相手をしてもらった女性だったのだ。
たぶん間違いない。
どこにも名前が明記されていないから確実とは言い切れなかったが、君には確信が持てた。
君は「ビデオに出たなんて一言も言ってなかったのに」と思いながら、画面を観続ける。
女王様が画面に向かって話しかけている。
その声も、三ヶ月前に聞いたものと同じだ。
そしてカメラを見つめる冷たい眼……あの眼で自分は睨まれたのだ、と君は思う。
いつのまにか君はもう勃起している。
女王様が言う。
「今日はわたしの調教を変態のおまえたちに見せてあげるわ」

再び画面が切り替わる。
今度は固定のようだ。
カメラは、擦りガラスの向こうのバスルームでシャワーを使っている人物の影を映している。
そのシルエットと雰囲気から、それは男だとわかる。
室内の何箇所かにカメラが設置されているらしく、次の瞬間、画面は、椅子に座って手持ち無沙汰な様子で鞭を小さく振るって遊んでいる女王様の姿に切り替わる。
君は画面を観ながら、本当に実録っぽい撮影方法だな、と思う。

数秒後、バスルームから人が出てきた。
女王様が脚を優雅に組んだままそちらに視線を向け、カメラもそれに同調するかのように切り替わって男を捉える。
と、その瞬間、君は我が目を疑った。
なぜなら、バスルームから性器を半ば勃起させながら全裸で出てきた男は、君自身だったのだ。
ズームアップして、君の顔が大きくなる。
モザイクなどの処理は一切行われていない。

「えっ?」

君は声に出して呟き、唖然となる。
信じられない。
本当に自分なのか?
君は大きく目を見開いて画面を凝視しながら激しい混乱に陥っていく。
しかし再生は止まらない。

君は息を止めて画面を凝視する。
画面の中の君が、簡単にバスタオルで体の水滴を拭った後、股間を手で隠しながらおずおずと女王様の前へ歩み寄っていく……。

2006-06-14

不穏な吐息

黒い布で目隠しをされているため、全裸の君は今、とても不確かな状況にある。
両手は揃えて高く持ち上げられ、手首は括られ、そのままロープで天井に吊るされている。
足許は、僅かに爪先が床についていて、踵は空に浮いている。
完全に吊られているわけではないので、君にはまだ多少の余裕がある。
しかし、状態がきわめて不安定なので、少しでも体を揺らすと、たちまちロープがきつく手首に食い込む。
しかし、塞がれているのは目だけではなく、口にもガムテープが貼られているため、声を漏らす事はできない。

君には周囲の状況がまるで把握できていない。
目元を覆う布は厚手で、なおかつ黒いので、視界は完全に闇だ。
自分でも、目を開けているのか閉じているのか、よくわからない。

君の全身には、ロープが巻かれている。
手首だけではなく、膝と足首も括られている。
そして、君の勃起したペニスは、陰嚢の下から通されたロープが根元に巻かれているため、卑猥に強調されてしまっている。
左右の乳首には、それぞれクリップが挟まれ、それには細いチェーンが付いている。
そのチェーンは長く床に伸びていて、それぞれの先端に女性物のハイヒールが片方ずつ繋がっている。

君の神経は研ぎ澄まされている。
視界を塞がれただけで、それ以外の感覚が敏感になった。
僅かな物音も聞き逃さないくらい聴覚も鋭くなっているが、部屋は無音だ。
鼻腔で呼吸する自分の息遣いだけが、小さな風の音のように聞こえる。

やがて、硬質な靴音が聞こえ、近づいてくる。
それに合わせて、甘い香水が漂い、次第に強まってくる。
君はわけもなく緊張し、ただでさえ動かせない体を更にフリーズさせてしまう。
靴音が止まり、すぐ近くに人の気配が立つ。
君は息を止め、ごくりと生唾を飲み込む。
傍らに立つ人の気配が無言の圧迫感となって、君の心臓を締め上げる。

尖った爪の先が君のペニスの裏側に触れた。
その感触は裏筋を辿り、そのまま少しずつ腹から胸へと這い上がってくる。
君は息を止めてその爪の感触を、集中させた意識で追尾していく。
爪の上昇がクリップに挟まれた乳首で停止した。
次の瞬間、摘まれ、強烈に捻り上げられる。
それは叫びたいくらい鮮烈な痛みだったが、体はろくに動かないし、口許もテープで塞がれているので、君には歯を食い縛って身悶えることしかできない。
乳首を鋭く抓られたまま、君は体を硬直させる。
耳元で含み笑いが囁く。
甘く不穏な吐息が君の耳朶に吹く。
君の周囲には、傍らに立つ者の壮麗な威厳の気配が濃密に満ちていて、息苦しさを覚えるほどだ。

そして無力な君は小刻みに体を震わせたまま、乳首の痛みに耐え続ける。

2006-05-20

Girl's Talk

昨日のオトコさ、超笑えたよ。
歳は、たぶん四十ちょっと前くらいかな?
もしかしたらもうちょっと若いかもしれないけど。
でもさ、スゲー馬鹿なの。
携帯の出会い系でアポ取ったんだけど、挿入ナシで二万払うって。
でもさ、んじゃ何やるのよ、って感じじゃない?
だから、「とりあえず会ってもいいけど」って答えてから、「でも何するの?」って聞いてみたんだけど、そしたらそのリクエストがもう超ヘンタイ。
何て言ったと思う?
そいつね、「履いたままのパンツの匂いを嗅がせてください」だって。
もうさ、マジで「ウゲッ」って思ったよ。
しかも、「直接舐めさせてくれて、その場でシゴかせてくれて、その履いているパンツをくれるなら、あと一万上乗せする」とか言ったの。
ただ、「くれぐれも拭いたり洗ったりして来ないで」とは言われたけど。(笑)
でもまあ、楽といえば楽だし、舐めさせるくらい減るもんでもないし、パンツだって百均のヤツを履いていってそれをやればいいから、それで三万なら得だよね。
こっちはただ舐めさせるだけで、しゃぶったりシゴいたりもしなくてもいいらしいし。
こんなに楽なパターンは、そうそうないって。
だからオッケーしたんだ。
で、当日。
パンツはボロボロの百均のダサパン履いて、準備万端で会った。
もちろん言われたとおり、拭いたり洗ったりはせずに、学校帰りの夕方にそのまま。(笑)
まあ感覚としてはゴミ箱に捨てるか、そいつにやるか、それくらいの違いだね。
そいつとは駅前で待ち合わせしたんだけど、もうさあ、想像していた通り、見た目もキショくて、いかにもオタクっぽくて、マジで女と全く縁の無さそうなショボい奴だった。(笑)
背は低いし、コデブだし、眼鏡掛けてるし、髪型も服装もセンスゼロだし、聞いたら案の定童貞で笑ったけど。
たださあ、ヤルならホテル行けばいいけど、舐めさせるだけで服も脱がないのにホテル行くのもアレだし、どうしようかと思ったのよ。
そしたらそいつ、「障害者用トイレでいいです」だって。
でも駅とかショッピングセンターってカメラあるしさ、ヤバいじゃんね?
だから、「えー」って思ったんだけど、そいつが言うには、「公園なら大丈夫ですから」って。
「ですから」って、ほんとになぜか敬語だったんだよ。(笑)
なんか公園のトイレってあいつのホームグラウンドらしいのよね。
移動しながら話をしたら、前にも何度か公園のトイレで同じことをしたことがあるんだってさ。
まあ、奴はいわゆる「プロ」だね。(笑)
それで、まあ公園に着いて、一応人の目が無いのを確認してからトイレに入ったの。
んで、ほんとマジでキモい奴だったからさ、さっさとやらせて三万貰って帰ろっと思って、「で、わたしはどうすればいいわけ?」って聞いたら、そいつさ、おもむろにしゃがみこんで、「このまま制服のスカートの中に顔を突っ込ませてください」って。
正直、「ああ面倒臭え」って思ったけど、三万のためだからね。
もちろん金は先に貰ったよ。
で、ちゃんと諭吉を三人貰って、言うとおりに足をちょっと開いて壁に凭れて立ったの。
そしたら、そいつ、いきなりジーパンのチャックを下ろして勃起したチンポを出しながら、ほんとに突進してきた。(笑)
もうさ、まじでスゴかった。
思いっきり笑っちゃったもん。
だって、一応は勃ってたみたいだけどスゲー小さかったし、仮性ホーケーでさ、半分くらいビローンって皮が余ってんのよ。
象の鼻みたい? そんな感じ。
しかも、そいつったら超興奮してんの。
下から顔を突っ込んできてさ、ケツに両手を回してモミモミしながら壊れた掃除機みたいに「ンゴオォォォォ」って。(笑)
それで、何分くらいそうやってかな?
だいぶ経って、さすがに飽きたのかそいつがスカートの中から顔を出してわたしを見上げながら「下ろしてもいいですか?」って聞いてきたの。
わたしは「いいよ」って答えたんだけど、もうその瞬間にはそいつ、速攻でパンツ下ろして吸い付いてた。(笑)
でもさ、変な感じだったな。
わたしもオトコも何も言わず無言でさ、トイレの中にはあいつのハアハアっていう荒い息遣いだけが響いているの。
で、ちらっと下を見たら、そいつはスカートの中に顔を突っ込んでモゾモゾしながら激しく自家発電中。(笑)
ビデオにとっておきたいくらい面白い景色だったよ。
しかも、擦り始めたらあっという間にイッたし。(笑)

パンツ?
記念にやったよ。
きっと今頃使ってるんじゃないの?(笑)

2006-04-15

蜜の言の葉たち

おまえはどうしてそんなに馬鹿なの?

どうして何もしないうちから勝手に勃ってるの?

こんな姿を人に見られて平気なの?

自分で人間が腐っていると思わない?

おまえは馬なの? 犬なの? 豚なの?

おまえはわたしの奴隷になりたいの?

それともペットになりたいの?

どうしてそんなに愚図なの?

おまえって全然ふつうじゃないわよ、わかってる?

頭、大丈夫?

いったい一日に何回自分で抜けば気が済むの?


ところで、おまえって人間?

生きていて恥ずかしくない?

2006-04-08

Strawberry & Milk

君は床に膝をつき、女王様を見上げている。
捨てられた犬のように憐れな目だ。
視点がびくついている。
全裸の君の貧相な体は、既に無数の鞭の跡が残されている。
しかも、腰を浮かしているその尻には、卑猥にうねるピンク色のバイブレーターが埋められている。

君の二つの乳首は金属製のクリップに挟まれ、それから続く二本の細い鎖は女王様の手に握られている。
そして君の前に凛然と立つ女王様がその鎖を気まぐれに引っ張ると、君の体は反射的に跳ねて醜態を晒してしまう。
君は今、世の中で最も卑しく、憐れで、救いの無い人間と化している。
人としての仮面を潔く捨て去った君は輝いているが、その輝きは宇宙のブラックホールより暗く、そしておぞましい。
君は獣だ。
知性と理性を捨てた、猿と変わらない存在だ。
まるで肥大した脳が破裂したように、君の種としてのオスのプライドは瓦解している。

女王様は細い鎖を捨てると、傍らのテーブルの上に載っているガラス製の皿から苺をひとつ摘み上げて、それを口に含んだ。
そしてじっと零下の視線で君を見据えながら、その苺を咀嚼し、たっぷりと唾液を含ませると、いきなり君の顔の前、数十センチの距離までその美しい顔を接近させ、その苺の残骸を君の顔に吐き捨てた。
君は膝の上に手を置いたまま、その苺を顔面で受けた。
生温かいその苺は、ゆっくりと君の顔を流れ落ちていく。
甘い香りが君の煩悩を焦がす。
さらに、女王様は君に両手を揃えて前へ差し出すように命じ、君が従うと、そこへ立て続けにいくつ苺を口の中で咀嚼しては吐き出した。
君は苺と唾液に塗れたまま、尻の穴を刺激する快感を堪えながら、じっとその残骸が増えていく様子を眺めている。

やがて女王様はミルクのグラスを持ち、それを口に含み、唇を窄めて勢いよく君に吹き付けた。
君は反射的に目を閉じたが、そのことが余計に女王様を苛だたせる。
女王様は、君が両手で持っている苺の残骸の中へブーツの爪先を突っ込むと、そのまま思いっきり床へ足を下ろした。
君はなす術もなくそのまま前方へ倒れ込んでしまう。
床に苺の残骸が飛散する。
その中へ、女王様がさらに大量のミルクを口に含んで吐き出す。
そして君の頭を容赦なく踏み、ピンク色に濁ったその残骸に君の顔を押し付ける。

「食べなさいよ、ほら」

女王様はまるで投げ捨てた煙草の火をブーツの底で消すように、君の後頭部を強く踏み躙る。
君は両手を広げて床に掌をつきながら倒れ込み、バイブレーターが蠢く卑猥な尻を高く掲げて、まるで犬のようにその甘い苺を一心不乱に頬張っていく。

2006-03-03

饒舌な傷

凍える真夜中の路上

白く濁る息

震える骨

尖った囁き

悪魔の微笑

麻痺する理性

置換された快楽

生まれたままの姿

貪欲な感性の断崖

侵蝕する月

海流の交差と乖離

アリューシャンの零下

緻密な極点

揺らぐ地軸

指先の前奏曲

華やかに暗転する記憶

擦れ合う淫靡

饒舌な傷の主張

2006-02-03

PIG

「まるで豚ね、お前」

高らかに笑いながら女王様が優雅に鞭を一閃する。
君は全裸で四つん這いになったまま、床を這いずり回っている。
背中に容赦なく振り下ろされる鋭い鞭が、見る間に君の皮膚を赤く彩っていく。
君はその痛みに堪えながら、まさしく家畜の豚が飼い主に行動をコントロールされるように、鞭に促されながら床を無様に右往左往する。

狭い部屋だ。
女王様は逃げ惑う君を楽しそうな鞭で打ちながら、時々君の尻を、腹を、抉るように硬いブーツの甲で蹴り上げている。
君はその度に体を弾ませながら、それでも立ち上がることは許されないので、四つん這いのままその鞭と蹴りから少しでも逃れようと体をよじっている。

もう既に君の息は上がっていて、全身にびっしょりと汗をかいている。
固いフローリングの床につきっ放しの膝が痛い。
膝頭の皮膚が擦れて、血が滲み始めている。
体を支え続けている肘も限界に近い。
そのため、時折体勢を崩して腹這いになってしまいそうになるが、するとすかさずその背中を女王様が踏みつけ、そして尻を蹴り飛ばす。

「休むんじゃないわよ、豚!」

「申し訳ございません」

君は声を張り上げ、尻を蹴り飛ばされながらも体勢を立て直すと、再び四つん這いで進み始める。
そうして進みながら、ふと自らの股間を覗き見ると、ペニスはさすがに萎えている。
それに気づいた女王様が、君の背後に回ると、足の間にぶら下がるペニスを後方から容赦なく、ぶらぶらと揺れている憐れな睾丸もろとも蹴り上げる。
君は頭から床に突っ伏し、呻きながら思わず両手で股間を押さえて蹲ってしまう。

「ちゃんと勃起させてなさい、失礼ね」

「申し訳ございません……」

君は蹲ったまま小声で謝罪する。
しかし女王様は容赦ない。

「休むなっていうのが、わからないの? お前」

君の背中に一層鋭い鞭を打ちつけながら、笑みを完全に消して女王様が言う。

「申し訳ございません」

君はよろよろと体を起こすと、器用に左手だけで体を支え、右手の甲で額の汗を拭った。
下半身全体が痺れている感じだったが、もう休んではいられない。
君は奥歯を噛み締めてその鈍痛に耐えながら、右手を自らの股間へ伸ばす。

「早く勃起させなさい」

女王様の厳しい叱責が飛ぶ。

「はい!」

君は不自然な体勢のまま萎えたペニスを握り、目の前で腕を組んで立っている女王様を仰ぎ見ながら必死になって激しく擦る。

「全く生意気な豚だわ」

女王様は嫌悪感を露骨に滲ませながら冷ややかに君を見下ろしてそう邪険に吐き捨てると、君の頭頂部にブーツの底を置き、そのまま勢いよく床に押し付けた。
そして、全体重を掛けて君を踏み躙る。

君はそのままの体勢で、なおも自らを擦り続ける。

2006-01-11

赤い涙

寒い部屋だ。
空気が冷え冷えとしていて、全裸の君の肌を針のように刺している。

君は今、コンクリートの壁に打ち据えられた頑丈な十字の黒い木製の磔台に拘束されている。
両腕は水平に持ち上げられて、磔台の先端に短い鎖で取り付けられた革製のベルトによって手首を繋がれ、足は閉じた状態で揃えて両手と同じようにがっちりと固定されている。
革のベルトに繋がる鎖が非常に短いため、君はほとんど身動きが取れない。
しかも部屋が異常に寒いので、裸足の足の裏から硬いフローリングの床の冷気が直に伝わり、背筋を這い登ってくる。
君はガチガチと歯を鳴らしながら、全身に鳥肌を立てている。

縛られている君の体は、なぜかつるりとしている。
それは、全身の毛を剃っているためだ。
股間だけではない。腕も脚も髪も髭も全て剃毛している。
そんな君の体は白い。
もう何ヶ月も窓ひとつないこの部屋に監禁されているため、太陽を全く浴びていない。
天井に灯る青白い蛍光灯の光が、そんな君をまるで蝋人形のように映している。

やがて、壁にひとつだけある重い木製の扉が開いて、ひとりの女性が入ってくる。
長い黒革のブーツ。
その尖った踵がコツコツと硬質な音を響かせながら、少しずつ君に近づいてくる。
背の高い女性だ。
全体的な印象としては細身だが、圧倒的な存在感を誇示している。
長い髪が歩を進めるたびに緩やかに波打って、それに合わせてこの部屋の沈滞していた空気が揺らめく。
そして、微かに香水の香りが君の鼻腔の奥に届く。

女性は、全身を黒い革のボンデージに包んでいる。
鋭く切れ込んだビキニタイプのショーツから伸びる脚のシルエットが美しい。
それはブーツの雰囲気と見事に調和している。
上半身は、コルセットのような形状をしたボンデージだ。
完璧にくびれた腰のラインが強調されている。

その女性の手には、小さな箱がある。
表面に凝ったレリーフが施された木の小箱だ。
一見、それはオルコールのようだが、そうではない。
女性は君の前まで進んで、45センチの距離に立つと、悠然と君を見下ろし、その小箱を開く。
中には、細い針が何本も入っている。
女性はその針を一本、優雅な仕草で摘み上げると、君の目の前に示した。
君の視界が、艶やかに光る銀色の一筋に支配される。
女性は次の瞬間、毒々しい色をした舌を出して、その針の先端を舐めた。
そして、じっと君の瞳を覗き込んだまま針の先端を君の乳首にあてがう。
その感触に、君の体が一瞬ビクンと跳ねる。
全身の感覚が、乳首に触れているその尖った針の先端に集中する。

「動いては駄目よ」

女性はそう言うと、手に持っていた箱を君の肩に置いた。
箱は微妙なバランスを保ったまま、君の肩の筋肉の上で静止した。
緊張で君の体は硬直している。
そして、女性はゆっくりと細い針を君の乳首に刺し入れていく。
鋭い痛みが君の神経を突き抜けていく。
君は動かないように全身を強張らせながら歯を食い縛り、その痛みを受け入れる。

針の先が埋められた乳首の一点から、まるで君の精神が涙を滴らせるように、細く赤い血が流れる。