2006-01-11

赤い涙

寒い部屋だ。
空気が冷え冷えとしていて、全裸の君の肌を針のように刺している。

君は今、コンクリートの壁に打ち据えられた頑丈な十字の黒い木製の磔台に拘束されている。
両腕は水平に持ち上げられて、磔台の先端に短い鎖で取り付けられた革製のベルトによって手首を繋がれ、足は閉じた状態で揃えて両手と同じようにがっちりと固定されている。
革のベルトに繋がる鎖が非常に短いため、君はほとんど身動きが取れない。
しかも部屋が異常に寒いので、裸足の足の裏から硬いフローリングの床の冷気が直に伝わり、背筋を這い登ってくる。
君はガチガチと歯を鳴らしながら、全身に鳥肌を立てている。

縛られている君の体は、なぜかつるりとしている。
それは、全身の毛を剃っているためだ。
股間だけではない。腕も脚も髪も髭も全て剃毛している。
そんな君の体は白い。
もう何ヶ月も窓ひとつないこの部屋に監禁されているため、太陽を全く浴びていない。
天井に灯る青白い蛍光灯の光が、そんな君をまるで蝋人形のように映している。

やがて、壁にひとつだけある重い木製の扉が開いて、ひとりの女性が入ってくる。
長い黒革のブーツ。
その尖った踵がコツコツと硬質な音を響かせながら、少しずつ君に近づいてくる。
背の高い女性だ。
全体的な印象としては細身だが、圧倒的な存在感を誇示している。
長い髪が歩を進めるたびに緩やかに波打って、それに合わせてこの部屋の沈滞していた空気が揺らめく。
そして、微かに香水の香りが君の鼻腔の奥に届く。

女性は、全身を黒い革のボンデージに包んでいる。
鋭く切れ込んだビキニタイプのショーツから伸びる脚のシルエットが美しい。
それはブーツの雰囲気と見事に調和している。
上半身は、コルセットのような形状をしたボンデージだ。
完璧にくびれた腰のラインが強調されている。

その女性の手には、小さな箱がある。
表面に凝ったレリーフが施された木の小箱だ。
一見、それはオルコールのようだが、そうではない。
女性は君の前まで進んで、45センチの距離に立つと、悠然と君を見下ろし、その小箱を開く。
中には、細い針が何本も入っている。
女性はその針を一本、優雅な仕草で摘み上げると、君の目の前に示した。
君の視界が、艶やかに光る銀色の一筋に支配される。
女性は次の瞬間、毒々しい色をした舌を出して、その針の先端を舐めた。
そして、じっと君の瞳を覗き込んだまま針の先端を君の乳首にあてがう。
その感触に、君の体が一瞬ビクンと跳ねる。
全身の感覚が、乳首に触れているその尖った針の先端に集中する。

「動いては駄目よ」

女性はそう言うと、手に持っていた箱を君の肩に置いた。
箱は微妙なバランスを保ったまま、君の肩の筋肉の上で静止した。
緊張で君の体は硬直している。
そして、女性はゆっくりと細い針を君の乳首に刺し入れていく。
鋭い痛みが君の神経を突き抜けていく。
君は動かないように全身を強張らせながら歯を食い縛り、その痛みを受け入れる。

針の先が埋められた乳首の一点から、まるで君の精神が涙を滴らせるように、細く赤い血が流れる。