2006-06-14

不穏な吐息

黒い布で目隠しをされているため、全裸の君は今、とても不確かな状況にある。
両手は揃えて高く持ち上げられ、手首は括られ、そのままロープで天井に吊るされている。
足許は、僅かに爪先が床についていて、踵は空に浮いている。
完全に吊られているわけではないので、君にはまだ多少の余裕がある。
しかし、状態がきわめて不安定なので、少しでも体を揺らすと、たちまちロープがきつく手首に食い込む。
しかし、塞がれているのは目だけではなく、口にもガムテープが貼られているため、声を漏らす事はできない。

君には周囲の状況がまるで把握できていない。
目元を覆う布は厚手で、なおかつ黒いので、視界は完全に闇だ。
自分でも、目を開けているのか閉じているのか、よくわからない。

君の全身には、ロープが巻かれている。
手首だけではなく、膝と足首も括られている。
そして、君の勃起したペニスは、陰嚢の下から通されたロープが根元に巻かれているため、卑猥に強調されてしまっている。
左右の乳首には、それぞれクリップが挟まれ、それには細いチェーンが付いている。
そのチェーンは長く床に伸びていて、それぞれの先端に女性物のハイヒールが片方ずつ繋がっている。

君の神経は研ぎ澄まされている。
視界を塞がれただけで、それ以外の感覚が敏感になった。
僅かな物音も聞き逃さないくらい聴覚も鋭くなっているが、部屋は無音だ。
鼻腔で呼吸する自分の息遣いだけが、小さな風の音のように聞こえる。

やがて、硬質な靴音が聞こえ、近づいてくる。
それに合わせて、甘い香水が漂い、次第に強まってくる。
君はわけもなく緊張し、ただでさえ動かせない体を更にフリーズさせてしまう。
靴音が止まり、すぐ近くに人の気配が立つ。
君は息を止め、ごくりと生唾を飲み込む。
傍らに立つ人の気配が無言の圧迫感となって、君の心臓を締め上げる。

尖った爪の先が君のペニスの裏側に触れた。
その感触は裏筋を辿り、そのまま少しずつ腹から胸へと這い上がってくる。
君は息を止めてその爪の感触を、集中させた意識で追尾していく。
爪の上昇がクリップに挟まれた乳首で停止した。
次の瞬間、摘まれ、強烈に捻り上げられる。
それは叫びたいくらい鮮烈な痛みだったが、体はろくに動かないし、口許もテープで塞がれているので、君には歯を食い縛って身悶えることしかできない。
乳首を鋭く抓られたまま、君は体を硬直させる。
耳元で含み笑いが囁く。
甘く不穏な吐息が君の耳朶に吹く。
君の周囲には、傍らに立つ者の壮麗な威厳の気配が濃密に満ちていて、息苦しさを覚えるほどだ。

そして無力な君は小刻みに体を震わせたまま、乳首の痛みに耐え続ける。