2007-10-13

囚われたスーパーマン

あっという間の出来事だった。
君は戸惑っている暇もなく、数分のうちに宙に浮いた。

薄暗い部屋だ。
天井に取り付けられたスポットライトの照明が、君を闇の中に浮かび上がらせている。
君はまるで重力に抗うように、床から1.5メートルほどの中空に漂っている。
フローリングの床が、眼下に広がっている。
つと顔を前方へ向ければ、正面の壁には木製の細い板がX字に交叉する磔台がある。
Xの四つの端に、短い鎖と革製の枷がぶら下がっている。

君は今、全裸で吊られている。
右手を伸ばし、左手を背中へ回し、若干股を開き気味にしながら、右足を伸ばし、左足を膝で折って、体はそのまま床と水平に浮いている。
そんな君の体には赤いロープが幾何学模様を描きながら複雑に巻かれ、手首や足首や膝など数カ所で吊られている。
ロープが全身に食い込んでいるため、擦れる痛みが全身を被っている。
しかも、ロープとロープの隙間では肉がはみ出て、決して美しい姿ではない。
もちろん、優雅さにも程遠い。

不自然な体勢を保っていることに加え、スポットライトの光が強烈なので、その熱でおそろしく暑い。
君は額だけでなく、全身に汗をかいている。
もっとも、発汗の原因は照明の暑さだけではない。
すぐ近くに立つ女王様から浴びる侮蔑の視線も、原因のひとつだ。
いや寧ろ、その羞恥心の方が、割合としては大きいかもしれない。
君自身、この自分の破廉恥な姿には、強烈な恥ずかしさを覚えている。
大人の男が裸で吊られ、更に股間の性器を勃起させてしまっているのだ。
しかも、君を吊った女王様は、君より一回り以上も年下で、君を蔑んだ目で見据えながら嘲弄の笑みを浮かべている。

女王様が君の顔の前に回って立ち、顎を掴み、瞳をじっと見つめる。
君は挙動不審者のように、わけもなく視線を泳がせてしまう。
女王様は、そんな君を鼻で笑い、

「まるっきり空飛ぶ豚ね」

と呆れたように言って、ペッと唾を吐く。
君の顔面に生暖かい唾液が付着し、重力に従ってそのまま頬を伝って流れるが、中空で身動きがとれない君には、どうすることもできない。
女王様は更に強烈なビンタを続けざまに数発張り、続いて、君の尻にたっぷりとローションを垂らした後、太い電動のディルドを差し込んだ。
そして、ぐりぐりと深く沈め、思わせぶりな速度でゆっくりとピストンする。
君は声にならない呻きを漏らし、喘ぎ、体を揺する。
勃起したペニスの先から透明の液が溢れて、糸を引きながら床へと落ちていく。

やがて女王様はディルドを突っ込んでおいたまま、少し君の体から離れると、鞭を振った。
長い一本鞭の鋭い先端が、君の体を自由に、縦横無尽に打ち据えていく。
君は、恥も外聞もなく、泣き喚く。
痛みから逃れようともがくため、体が激しく揺れ、尻からディルドが抜けそうになる。
すかさず、女王様が鞭を打ち続けながら言う。

「落としたら、許さないわよ」
「は、はい、すいません」

君は謝り、尻の筋肉に力を込めてディルドが抜けるのを食い止める。
そんな君の必死な仕草に、女王様は乾いた笑い声を響かせた。
君の全身から、激しく汗が噴き出す。
しかし鞭はやまない。
君は、吊られたままディルドと鞭を無条件で受け入れている自分が不様で、惨めで、どうしようもなく恥ずかしくてたまらなかった。
どう考えても、ふつうの大人の男が人前で晒す姿ではない。
しかし君はもう「ふつうの大人の男」なんかではないのだ。
その証拠に、勃起は一向に萎えず、寧ろ一層硬直している。

君は鞭の痛みに耐え、羞恥心の爆発に身もだえながら一瞬、「まるで囚われたスーパーマンみたいだ」と考える。
しかし、すぐにそれを打ち消す。
決してそんな格好よい存在ではない。
一匹のマゾヒスト。
それが、君だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
生きている価値などないかもしれないが、死ぬ必要もない。