2007-11-06

爪の先に宿る天使

狭い密室は息苦しい。
取り囲む四方の壁が、じわじわと迫り来るようだ。
その壁は全面鏡張りだ。
光源は、天井の中心に小さなライトがあるだけで、弱々しい青白い光を落としているが、室内は暗く、そのため鏡の壁は暗い。

四畳半程度のこの部屋に窓はない。
ドアはスチール製の重い扉がひとつだけあるが、閉じられている。

部屋は、息苦しいだけではなく、暑い。
空調は切られ、換気装置が作動していないため、空気が膨張しているように感じられる。

君は今、そんな部屋の真ん中で、両腕を揃えて上へ上げて立ち、その手首を拘束されている。
その手首から天井のフックに向けて鎖が伸びていて、両足は床についているものの、ほとんど吊るされている状態だ。
もちろん、君は全裸だ。
四方の暗い鏡の壁にその姿が映し出されている。
卑猥な姿だ。
青白く弱い光に照らされた君の体は貧弱さが際立っているが、なぜか股間の性器は屹立して薄闇に突き出されている。

ドアが開き、ひとりの女性が室内に入ってくる。
背の高い、逞しい体格の美しい女性だ。
その女性は黒革のボンデージに身を包んでいて、長い髪が揺れている。
化粧映えのする、派手な顔立ちの女性だ。
視線が鋭い。
君は、女性の接近に緊張し、体を硬直させる。
女性が室内に足を踏み入れた瞬間、甘いパフュームの香りが濃密に漂って、君の勃起は更に硬度を増した。
女性は背が高いため、向かい合うと、頭ひとつぶん以上は差があり、自然に見下ろされる格好となる。
君は降り注ぐ視線に萎縮し、頼りなく視線を空に泳がせてしまう。

女性は、部屋の中心で吊られている君の前に立つと、無言のまま、哀れな君を観察しながら小さく笑みを浮かべた。
しかしそれは優しい微笑ではなく、侮蔑の嘲笑だ。
女性は、唇の端を歪めて引き攣らせるようにして君を眺め、煙草に火をつける。
そして少し腰を折り、顔を君の顔面の前の数センチの距離まで接近させると、君の瞳の奥をじっと覗き込んだまま赤い唇を窄めてその隙間から灰色の煙草の煙を君に吹きつける。
思わず君は顔を背けてしまう。
すると次の瞬間、強烈なビンタが君の頬に炸裂し、おどおどと目を上げると、女性は零下の視線で君を貫く。
君は完全に震え上がり、全身を強張らせて汗を噴き出させながらしきりに唇を舐め、小声で「すみません」と謝罪して俯く。
女性はしかし何もこたえず、その返事の代わりに君の顎に手をかけ、ぐいっと持ち上げて前を向かせると、至近距離から勢い良く唾を吐き捨てた。
そして、君を突き放すように顎から手を離すと、両手を君の貧相な胸板にあてがう。

十本のその爪は黒く塗られ、鋭く尖っている。
その爪が、君の肉に食い込み、君の緊張が極限に達する。
君は恐怖心を瞳に浮かび上がらせながら、その胸板に食い込む爪の先と、女性の冷たい表情を交互に見る。
女性は、そんな君の混乱を弄ぶように、嘲弄の小さな笑みを君に向ける。

そして。
次の瞬間、胸板に爪を食い込ませたまま、一気にその両手を下へスライドさせた。
鋭い爪の先が肉を削ぎ落としながら、赤い直線のラインを描く。

「うぎゃああああああああ」

たまらず君は絶叫し、両手を不自由に拘束されたまま体を激しくよじる。
女性はそんな君を妖艶な笑みで見下ろし、すぐに今度は両の乳首を爪の先で摘むと、そのまま渾身の力を込めた。

「うぎゃああああああああ」

君は眉間に皺を寄せて顔を苦痛に歪ませながら体を弾ませ、泣き叫ぶ。
しかし女性は一向に手を離さず、寧ろ更に力を込めていく。

やがて、君の乳首を摘む女性の黒い爪の間から赤い血液が滴り始める。