2007-03-06

アップルジュース

君は固い床の上で背筋を伸ばしてきちんと正座し、両方の手を軽く握り締めて膝に置きながら、目の前の情景に心を奪われていた。
もちろん全裸だ。
君のすぐ前には椅子があり、そこに美しい女性が脚を組んで座っている。
女性は極限まで短い黒革のスカートに網タイツを履いていて、その足元は爪先が尖ったタイトな黒革のブーツだった。
タイツに包まれた脚の量感が、君をクラクラとさせている。
黒い編み目と白い肌の対比が鮮やかで、しかも適度に肉感的だから、匂い立つような色気がある。
しかし、ブーツはそれほどの代物ではない。
むしろ、充分に履き潰されていて、ステッチも解れかけているほどだ。
一日中履き続けていたからか、汚れてもいる。
そのブーツは一見、この美しい女性に似合わないが、それには理由があった。
彼女はわざとそんなボロボロのブーツを履いているのだった。

やがて女性が組んでいた脚を下ろし、窮屈そうにブーツを脱ぎ始める。
すると生温かい蒸れた匂いが漂い始め、君はそのブーツを脱いでいく彼女の手の動きを注視してしまう。
そして、どうにかブーツを脱ぎ終えると、女性は網タイツに包まれた爪先を君の顔の前に差し出す。
その足には、満遍なく何かが付着していた。
よく見るとそれは、すり潰されたリンゴの残骸だった。

「お前のために今日一日かけてスペシャルなジュースを作ってあげたのよ。まずは、お舐め」
「はい」

君は女性の足の踵を両手で持ち、足の裏に顔を近づけていく。
リンゴと汗と脂と革の匂いが入り交じっていて、君はたじろぐが、命じられたからには従わなければならず、ゆっくりと舌先を這わせ、そしてリンゴの残骸を口に含んでいく。

「おいしい?」
女性が含み笑いをこらえながら訊く。
「はい」
君は女性の足を持ち、爪先から踵まで、編み目の中にまでめりこんでいるリンゴを吸い出しながら頷く。
やがて、ひとまずリンゴの欠片がなくなると、女性は言った。

「じゃあ、タイツに染み込んでいる特製アップルジュースを啜りなさい」
「はい。いただきます」

君は女性の爪先を咥え、そして頬を窄めて吸う。
一本ずつ丹念に指を口に含み、単に甘いだけではない、酸味の効いた果汁を執拗に吸い尽くしていく。
君のそんな真剣な姿を、女性は軽蔑混じりの冷笑で見守っている。

「お前のために、わざわざ一日かけて熟成してあげたのよ。踏み潰して、すり潰して。嬉しいでしょ?」
「はい。ありがとうございます」

君は一心不乱に果汁を吸い取り、全体的に舐めとっていく。
そうしてじきにリンゴの果汁がなくなると、女性は足を下ろし、脱いだブーツを君に差し出す。
君はそれを両手で受け取る。

「たぶんまだ中にも残っているから飲みなさい。そして、残骸も手で掬って食べなさい」
「はい」

君はブーツの中を覗き込んだ。
すると暗くてよく見えなかったが、君はブーツの持ち上げ、履き込み口をグラスの縁に見立てて、爪先方向を更に斜め上へと傾ける。
ゆっくりと中のリンゴの欠片が落ちてきて唇に当たり、続いて生温かい果汁が滑り落ちてくる。
その果汁はたいした量ではなかったが、君はリンゴの欠片を噛み砕きながら飲んだ。
鼻先もブーツの中へ押し込む格好になっているので、君はもう壮絶な芳香から逃れられないでいる。

「どう?」
ブーツの中へ手を突っ込み、奥からリンゴの残骸を掻き出して貪り食う君を見下ろしながら、その冷ややかな目に嘲笑を滲ませて女性が訊く。
「とても美味しいです」

そうこたえる君の性器は卑猥にそそり立っている。