2007-07-09

貪欲な豚

君は醜い。
既に人間であることを放棄した君は、豚だ。
人間らしい思考も、もうほとんど残されていない。
君は複数の女性に家畜として飼われている身だし、地下の飼育室から出る事もない。
衣服なんて、ここ数年は下着すら身に着けたことがない。
そんなもの、君には必要ないのだ。
君は豚としての欲望に忠実な日々をただ生きている。

君の日常は、豚のそれとしてふさわしいものだ。
起きて、調教され、餌を与えれ、寝る。
その繰り返しだ。
時計もカレンダーも、家畜には必要ない。

君が暮らすその家には、何人もの美しい女性が出入りしている。
君の正式な飼い主は家の所有者として存在するが、専有ではない。
君は、家に出入りする全ての女性に共有されている。
そして死ぬまで生きる、それだけのことだ。
ただし、たとえ死んでも、嘆き悲しむ者はいない。

豚である君の体は、壮絶だ。
鞭や緊縛の跡は消えることがないし、焼き印も様々な箇所に刻まれ、焼きごてや煙草による火傷は全身に及んでいるし、所有者である女性たちの名前や落書きが体中に描かれている。
もちろん、それらはマジック等で書かれているのではない。
落書き類は、ナイフで刻まれたり、刺青として入れられている。
君は全身の毛を永久脱毛しているが、もちろん髪の毛ももう生えてはこないし、その頭頂部には「豚」と大きく漢字で刺青が入っている。
もっとも、君が生きたままこの家を出て行くことはありえないから、どのような体であろうと、とくに問題はない。
そもそも、君の体は、もはや人間としての通常の日常生活には対応できない。
体のあらゆる部位が玩具として改造されてしまっているのだ。
たとえば、乳首なんて恒常的に腫れ上がって巨大な吸盤のようになってしまっているし、アナルはいつでも拳が楽々と挿入できるくらい常に拡がってしまっていて、排泄すらコントロールすることが難しくなっている。
ペニスも悲惨なものだ。
尿道口に様々な器具が差し込まれ続けた結果、ぱっくりと口を開いてしまっている。


ドアが開き、美しい女性が姿を見せた。
鶯色のスーツ姿だ。
君はその女性の前へと進み出て、平伏する。
女性が君の頭をパンプスの底で踏み、感情のない平坦な声で言う。
「餌の時間よ」
「ありがとうございます」
君はきちんと床に両手を揃えて額を擦り付けたままそう言った後、後頭部から足がどけられ、君は急いで自分用のボウルを取りにいき、戻る。
そのボウルは、ステンレス製の大きなものだ。
それを床に置くと、君はいったん下がってきちんと正座し直す。

女性はまず、一本のバナナの皮を剥いてボウルの中に落とし、それをパンプスの爪先で適当にすり潰すと、その靴底を君の体に擦り付けて残骸を落とした。
そして、君に背中を向けて床のボウルを跨ぎ、スカートをたくし上げ、下着を降ろして、腰を落とす。
君は両の拳を膝の上に置いたままじっとその行為を見つめる。
女性は中腰のまま気張り、ボウルの中に排泄する。
先に聖水が迸り出て、続いて黄金が捻り出されていく。
強烈な臭気が室内に漂い、やがて排泄を終えた女性はティッシュで股間を拭うと、その紙もボウルの中に捨て、立ち上がる。
そして下着を穿き、スカートを直し、君を振り返ると、パンプスの爪先でボウルを押して君の前へ差し出す。

「食べなさい」

冷たい口調だ。
人間としての感情は微塵も含まれていない。
鋭い視線が降り注ぐ。
君は怯えきった哀れな目で女性を見上げた後、改めて額を床につけて礼を言う。

「ありがとうございます。いただきます」

君は尻を掲げるように四つん這いになり、ボウルの中に顔を入れて一気に餌を貪り食い始める。
そんな君を、女性は腕を組み、一瞬だけ、この世に存在する全ての種類の嘲りを籠めた目で見下ろした後、立ち去っていく。