2009-04-13

放課後の密かな冒険

「おまえさー、マジ超受けるんだけどー」

脚を組み、煙草を指に挟んで椅子に座っている制服姿の女の子が小馬鹿にした口調でケラケラと笑いながら、足許の床で膝立ちの姿勢を保ち続ける君を見下ろす。
君は今、ブレザーとスラックスとパンツを脱ぎ、シャツとネクタイと靴下だけを身に付けた哀れな姿で、下半身を露出している。
そのペニスは既に限界まで反り返っているが、仮性包茎のため、まだ亀頭の半分は皮に被われている。
女の子の視線がその貧相なペニスに注がれているのを感じて、君はさりげなく右手をペニスに添えると、そっと皮を剥いた。

「何気にしらっとチンポの皮、剥いてんじゃねえよ」

嘲笑しながら女の子は脚を投げ出し、君の額を紺ハイソの爪先で小突いた。

「すいません」

素直に君はペニスから手を離した。
すると皮の状態はまた元に戻り、君は視線を床に落とした。
その君の鼻先に、女の子は爪先をあてがい、そのままぐいっと押し付けるようにして君の顔を上向かせる。

「ちゃんとこっち見ろよ、包茎」
「はい、すいません」

君は恐る恐る探るような眼で椅子に座っている女の子を見上げた。
すると、短いスカートの奥に白い布が垣間見えた。
その瞬間、「凝視したい」という気持が爆発的に沸き起こったが、君はその気持を無理やり抑え込み、微妙に視線を外した。
鼻腔を被うように押し付けられた爪先からは、生暖かい臭気が漂っている。
君はさりげなくその匂いを静かに吸い込みながら、分身を一層硬直させる。
足の裏の布地はほんのりと湿り気を帯びていて、その温い感触が君の顔の大部分を包み込んでいる。

「しっかし、不様な姿だな」

女の子は煙草の灰を床に落としながら侮蔑的な苦笑を漏らすと、君の顔を踏んだまま蔑んだ眼で君を見下ろした。
その鋭い眼光に射すくめられ、君はまるで猛禽類に捕らえられた非力な小動物のような気持に陥りながら、怯えた眼を彼女に向けた。
そんな弱々しい君の瞳の中には、歪んだ卑屈さのようなものが滲んでいる。

「なんか不服か? あ?」

唇の端に煙草を咥えたまま、女の子は足を君の顔から外し、前屈みになると、君のネクタイを掴んで引き寄せ、次の瞬間、鋭いビンタを浴びせた。

「いえ、不服なんて……滅相もございません」

打たれた頬に熱を感じながら、そしてまだネクタイを引っ張られたまま、それでも君は慌てて大きく首を左右に振った。
「ったく、何もかもがウザくてムカつくんだよ、皮被りのド変態」
「すいません……」

君はこの生徒の担任で、歳の差はゆうに二十歳を越えている。
しかし今、君はその二十歳以上も年下の自分のクラスの生徒の前で性器を露出しながら跪き、軽蔑され、屈服させられている。
もちろん、これには理由がある。
約十五分前、君はボーダーラインを自ら越えてしまったのだ。


元々、君はマゾだ。
女子高の教師というこの職に就く前からそうだし、就いてからも、そして現在もそうだ。
マゾに目覚めたのは大学生の頃で、以来、ずっとその性癖は変わらないどころか、ますます先鋭化している。
異性には奥手な子供だったから、ごく一般的な恋愛経験はほとんど無いに等しく、むろん独身で、君は今でもSMクラブなどに通って自らのM性を存分に解放している。
しかし、君が本当に苛められたい、そして侮蔑され嘲笑され跪きたいと思う異性は、クラブの女王様や大人のS女性ではなく、自分の生徒たちのような十代の女の子だった。
それも、いわゆる上品なお嬢様系ではなく、お世辞にも偏差値が高いとはいえない自分の高校の生徒のような、派手でやんちゃな感じの女子高生が、君にとってはとにかく憧れの対象だった。
ただし、そうはいっても、その願望を実行に移すのはリスクが高すぎて、流石の君でも妄想で留めていた。
いくら君が生粋の変態でも、自分の生徒たちにその性癖を堂々と開陳することはできない。
そんなことをすれば学校に居られなくなるだけでなく、社会的にも抹殺されてしまうだろう。
君は、SMプレイの中でひとたびマゾとして覚醒すれば恥という概念など完全に脱ぎ捨てることのできる変態だが、実生活では自分でも嫌になるくらい慎重で臆病な小心者だから、とてもではないがマゾの自分をリアルな世界で肯定することはできない。

だから、君は常にラインのギリギリ内側に踏みとどまって、その欲望を中和させている。
その手段は、放課後の密かな冒険だ。
君は生徒たちが去った後の教室の机やロッカーの中や、昇降口の下駄箱の中を漁り、目をつけている女生徒の所有物を一時的に拝借し、妄想に耽るのだ。
具体的には、体操着やタオル類や上履き等を使用する。
たとえば体操着なら、それらの匂いを嗅ぎ、ひとりきりの教室でペニスを大胆に露出して擦りながら、頭の中では、その光景を当人に見つかってバカにされ小突き回される、というシチュエーションを構築して自分の歪んだ性癖を慰めるのだ。

しかし、今日はいつもと勝手が違った。
ついに、もっとも恐れていたハプニングが発生してしまったのだ。
今日は一日中どんよりとした曇り空の日で、体育の授業もあったし、普段以上に君は悶々としていた。
だから、目をつけている子が下校したのをさりげなく確認した瞬間、どうにも我慢できなくなり、昇降口周辺に人の気配が絶えたことを確かめてから、いつもより少しだけ早い時間に下駄箱を漁り、こてんぱんに履き込まれた上履きを手に取った。
そして、周りに誰もいないことを充分に再確認してから、ずらりと並ぶ下駄箱の陰にその上履きを持って身を潜めると、君は喜び勇んで内側の匂いを嗅ぎ、中敷を舐め、ズボンの中からいきり立ったペニスをもどかしげに引っ張りだして、一心不乱に擦り始めた。
中敷に沁み込んだ香気は、まるで老舗の厨房の鍋の中で何十年もじっくりと煮込まれ続ける秘伝のスープのように濃厚でまろやかで深みのある味わいだった。
君は小声でその生徒の名前に「様」を付けて呼びながら、半眼になって歪んだ世界に酔いしれた。
そのうち、更に昂ってきた君は、鼻腔に伝わる匂いや舌先を痺れさす感触だけでは物足りなくなって、靴の中に自らのペニスを入れると、黒ずんだ中敷に亀頭を擦り付けながら、その上履きごと激しく動かした。
その時、怖れていたことが起きてしまった。
ひたすら夢中になっていたその時、何か忘れ物でもしたのか、なんとその上履きの持ち主である当の生徒が戻ってきてしまったのだ。
気づいた時は、もう遅かった。
「てめえ何やってんだよ」
という声で君は我に返ったが、まるでオナホール代わりに上履きを使っている真っ最中で、どんな言い訳も通用しそうになく、君はそのまま「ちょっと来い」と誰もいない教室に連行されてしまった。
そして、マゾであることを強制的に告白させられ、君は「もう終わりだ」と観念しながら、その自分の生徒に跪いたのだったーー。


「だいたいなー」

女の子が、心底から呆れ返った口調で言う。
「生徒の上履きでシコシコとか、おまえの今の格好とか……『教師』としてどうこうとか『大人』としてどうこうとか以前に、ぶっちゃけ『人』としてダメだろ? なあ? 頭大丈夫か?」
ネクタイを掴んだまま、女の子が君の頭を平手で叩く。
「申し訳ございません……」
確かに生徒の言う通りで、君に反論の余地はなかった。
「ったく、マジでキモいわ、おまえみたいな糞変態は」
そう言うと、女の子はネクタイをぐいっと引き寄せて君の顔にペッと唾を吐いた。
君はその唾を拭いもせず、力なく項垂れた。
生暖かい唾が顔面を伝い落ちていく。
生徒から顔に唾を吐かれるなんて、屈辱の極みだった。
しかし、謝罪の言葉を口にし、神妙に体を小さくしながらも、君のペニスは破廉恥にそそり立っている。
女の子はネクタイを離し、椅子の背凭れに背中を預けると、再び脚を組んでその爪先を君の目の前でぶらぶらさせた。

「この足が舐めたくてウズウズしてんだろ?」

女の子が君の目の前、十数センチの距離でソックスに包まれた足の指先を動かしながら言い、もうすべてを捨てる覚悟を決めた君は、「はい」と頷いた。
実際に、舐めたくて仕方なかった。
もうこれ以上、理性は保てなかった。
限界だった。

「こんな蒸れた臭い足が舐めたいとは……正真正銘の変態だな」

鼻で笑い、女の子が続ける。

「なあ、この足が舐めたかったら、こう言ってみ。『ぼくは女子高生の蒸れた臭い足が大好きな変態マゾ教師です』って」
君は意を決するように唾をごくりと飲み込んだ後、眼を瞑り、そのまま復唱した。

「ぼくは女子高生の蒸れた臭い足が大好きな変態マゾ教師です!」

「本当に言いやがった。どんだけ必死なんだよ」
女の子はあからさまに嘲笑い、言った。
「じゃあ、とりあえずこの靴下を口で咥えて手を使わずに脱がすことができたら、舐めさせてやるよ」
「ありがとうございます!」

君は目を輝かせながら猛然と爪先に吸い付き、若干だぶついている先端の布地をそっと噛むと、床に両手をついて支点にしながら頭を振って靴下を引き抜いた。
もう恥も外聞も無かった。

「超必死ー、マジ笑えるー」

女の子は笑っていたが、君が靴下を脱がせ終えると、そのまま「ほれっ」と笑いながら足の指を君の口の中に捩じ込んだ。
君は歓喜しながらその足の踵を両手で支え、指を一本一本丁寧にしゃぶったり、口の中に何本か同時に含んでそのまま舌を縦横無尽に蠢かせたり、足の裏を舐めあげたり、女子生徒の足全体を充分に堪能してゆく。

「なんか舐め慣れてるって感じじゃん。ていうか、おまえ、どうせこういうこと想像してオナニーしまくってんだろ?」

女の子が、机に煙草の先を押し付けて火を消しながら訊く。

「ふぁい」

君は足の裏に頬擦りし、指の付け根のぷにぷにした肉の部分に鼻先を埋めて匂いを吸い込み、指を丹念にしゃぶりながら、陶酔したままこたえる。
無意識のうちに、君は左手だけで女の子の投げ出された足の踵を支え、右手でペニスを握り、扱き始めている。

「オナってんじゃねえよ」

手を叩いて大笑いしながら女の子は足の指を、まるで挑発するように動かす。
ついでに「面白いから撮っておこ」と言って、携帯のカメラで足を舐めながら自慰をしている君の姿を何枚か撮影した。
君は写真を撮られてしまったことに不安と恐怖心が湧いたが、一度タガが外れたマゾ性はもう止まらなかった。
君は足の指に集中し、執拗に舌を絡めつかせ、ペニスを扱く手のスピードを加速させていく。
そのスピードに同調するように息遣いも荒くなっていく。
そして、やがて君は「あっ」と短く叫び、絞るように精液をピュッピュッと噴出させた。


……君は射精を終えると、上履きの中から自らのペニスを引き抜いた。
中敷にべっとりと付着した精液を、まだ固い亀頭を使って丹念に塗り込み、それから手早くペニスをズボンの中にしまった。
そして、使った上履きを下駄箱に戻し、君は悠然と無人の昇降口を後にすると、薄暗い廊下を職員室へ向かって歩きだした。