夜になれば、まだ気温はかなり下がる。
山間の小さな村は、闇に沈んでいる。
村の外れに、ささやかな川が流れている。
その土手は遊歩道になっていて、桜が満開だ。
夜の中に仄白く、桜の花弁が浮かび上がっている。
土手の下の細い道に一台の車が止まった。
ヘッドライトが消え、エンジンが停止すると、辺りは怖ろしいほどの静寂に包まれた。
この川べりの道は集落から離れているため、明かりは間隔をおいて灯る頼りない水銀灯だけだ。
運転席のドアが開き、長身の女性が降り立った。
都会的な、洗練された雰囲気の美人だ。
女性は、鶯色のシンプルなツーピースを着ている。
しかしそのスカートは短く、白いハイヒールの踵は高い。
続いて、助手席のドアが開く。
君は、ゆっくり車から降りると、裸足のまま路面に立った。
身につけているのは、春物の軽いコートだけで、その下は全裸だ。
君は手にトートバッグをひとつだけ持っている。
中には赤いロープと長い一本鞭が入っている。
先に車を降りた長身の女性は、無言のまま目だけで君を促すと、土手へ上がる細い階段を昇り始める。
慌てて君も続く。
しかし水銀灯の明かりが届いていないことに加えて、まだ闇に目が慣れていないので、視界は頼りない。
それでも遅れることは許されないから、君は急いで時々躓きながら、女性の跡を追った。
土手に上がると、微かに瀬音が聞こえた。
遊歩道に沿って植えられた桜が、春の夜に咲き誇っている。
女性は君を従えて進み、車から遠く離れた、遊歩道として整備されている道の外れを目指した。
君はコートの前を合わせ、両手で抱え込むようにトートバッグを持ちながら、女性に続いて歩いていく。
やがて遊歩道の外れに到達した。
そこには見事な桜の大木が聳えている。
女性は君のバッグの中から赤いロープを取り出すと、君にコートを脱いで全裸になるよう命じた。
そして君が素直にコートを脱ぐと、手馴れた様子で君を縛り上げていく。
夜風が肌に冷たく、君は小さく震えながら手を上に伸ばして手首で拘束され、肩口から足首までガッチリと縛り上げられた。
そうして全身への亀甲縛りが完成すると、女性は桜の巨木の中のとくに頑丈そうな太い枝を選んで、そこにロープをかけ、滑車で吊るすのと同じ要領で君を吊った。
君は、地面から五十センチほどの上空で、全身を拘束されたまま吊られた。
卑猥に勃起した性器が剥き出しだ。
風が強く吹き、白い花びらが盛大に舞い散る。
女性が鞭を持った。
そして、舞い落ちる花びらを散らすようにその長い鞭をふるった。
鞭の先が獰猛な蛇のようにうねり、君の体を打ち据える。
君は叫び声を上げながら身を捩る。
大きく体が揺れると桜の枝が軋み、手首にロープが食い込み、君は鞭の痛みと手首で擦れるロープの痛みに、歯を食い縛って耐えた。
女性は、前から後ろから、自由に鞭を振るった。
情け容赦のない、鋭い鞭だ。
山間の閑静な村の深い夜に、君の淫靡な絶叫が響き渡る。
やがて君の背中や胸の皮膚は裂け、破れ、血が滲みはじめる。
君は次第に声を上げる気力を喪失し、吊るされたまま項垂れていく。
しかし鞭が止むことない。
むしろ激しさはさらに増していく。
女性のサディスティックな目は、いっそう輝き、桜の花弁が舞う白い闇に濡れたような光を放っている。
君は鞭の先端が肌を打つ度に、弾かれたように体を揺らしながら、もうされるがままだ。
その血で濡れた肌に、吹雪のように舞い散る桜の花びらが付着して、君を華やかに切なく彩っている。
2005-04-13
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