2004-12-29

トワヲ チカウ

逢魔が時

忍び込む闇

淫靡な予感

風が止まった

熱帯夜はもう過去

低気圧が近づく

橋を渡る影

雨の気配

記憶を超越する

手錠の跡

優しい勘違い

川べり道を行く

逆転した主従関係

恋は奴隷の切実

交叉点の向こう側

道徳的な無関心

横断歩道の途中

あの月に

トワヲ チカウ

2004-12-19

Holy Night

大きなガラス窓の向こう、超高層ビルの灯が、まるで夢のように輝いている。
君は全裸のまま、大きなガラス窓の前に立つ。
32階の部屋から見渡す夜の街は、光の洪水のようだ。
君は、真っ暗な部屋の窓辺で、まるで宙に浮いているかのような錯覚に捕らわれている。

ガラスに手をつき、眼下を見下ろすと、ホテル前の公園に、巨大なクリスマスツリーが立てられている。
色鮮やかな電飾が、行き交う人々の肩に光のシャワーを降らせている。
幸せそうな恋人達が、冬の舗道を寄り添って歩いていく。

背後で、グラスの中の氷が解けて崩れ、涼しげな小さな音を響かせた。
君は、その音でふと我に帰り、振り向く。
整えられたままの未使用のダブルベッド。
仄かに白く闇に浮かぶライトスタンドのシェード。
その傍らに、艶かしく夜の光を翻すボンテージの彼女。
彼女はベッドの縁に浅く座り、煙草を吸っている。
淡い煙が、繊細な指に挟まれた煙草の先から不安定に立ち昇り、揺れている。

彼女が煙草を消し、静かに立ち上がった。
そしてゆっくりと君に近づいてくる。
その右手には鞭、左手には毒々しいまでに赤いバイブレーターがある。

「窓に手をついて、尻をこちらへ突き出しなさい」
彼女の声が、鞭の一閃とともに君に突き刺さる。
君の下腹部に赤い鞭の跡が刻まれる。
「はい」
君は命令どおりの姿勢をとった。
その尻に、さらに鋭い鞭の痛みが走る。
「もっと高く!」
「はい!」
君は爪先立ちになって、必死に尻を掲げる。
と、そのとき、バイブのスイッチが入れられ、静かな室内に微かなモーター音が満ちた。
暗いガラスの反射の中で、彼女が鞭を捨てる。
そして、テーブルの上に置かれたローションのボトルに手を伸ばす。
やがて、尻に冷たい感触が伝わった。
彼女が、君の尻の肉を広げてたっぷりとローションを垂らし、君の卑猥な穴をバイブの先端でなぞり始める。
そして少しずつ、少しずつその異物感が君の中に入ってくる。
君は爪先立ちのまま膝を震わせてその感触に酔い痴れる。

ピストンが次第に大胆になっていく。
それに合わせて、君は窓についた手に力を込め、ゆっくりと淫らに腰を振る。
君の口から低い喘ぎ声が漏れ始める。
彼女はガラスの反射の中で、唇の端を歪ませながら、侮蔑の笑みを浮かべている。

君はガラス窓に額を押しつけながら快感に貫かれている。

午前零時五分前。
32階の窓から見下ろすクリスマスツリーは、世界を聖なる光で満たしながら、不思議な形をしている。

2004-12-16

繋がれた天狗

あの山に住む天狗は哲学者です

いろいろなものを見て

いろいろなことを考えます

あなたは、いったい誰ですか

わたしは、いったい誰ですか

あなたは、何をしたいのですか

わたしは、何をしたいのですか

天狗はすべてを知っています

あなたのすべてを知っています

鎖に繋がれた天狗はいつも孤独です

誰にも理解されません

天狗はあなた

あなたは天狗

天狗はわたし

わたしは天狗

だからひとり嘆くのです

2004-12-06

日溜りの舗道

「オッサン、超笑えるー」
「ほんと、おまえマジでスゲーって」
制服を着た少女達の爆笑が君を包み込んでいる。

土曜日、午後二時四十三分。
雑居ビルの奥まった非常階段下、路地裏のような場所だ。
太陽の光も往来の喧騒も全く届いていない。
学校帰りの少女ふたりは、短いスカートに紺色のハイソックス姿だ。
君はその二人に取り囲まれるようにして地面に膝をついている。
しかもそのズボンのチャックは全開で、そこから勃起したペニスを露出している。
君は今、つい先ほどまで少女の一人が穿いていた下着を顔に被り、そのペニスを激しくシゴいている。
もうひとりの少女が、君の髪を鷲掴みにして顔を上向かせ、爆笑しながら強烈なビンタを浴びせる。
乾いた音が路地に響く。
君は下着の裏側から立ち昇っている刺激的な匂いと温もりに包まれながら、舌先でその源泉を探っている。
ペニスの硬度が一気に高まる。
君は無我夢中でその下着の裏側の布地に吸い付いた。
狂ったようにそのコットンの感触に酔い痴れ、湿り気を吸収する。
少女達が君を覗き込んで、おかしそうに笑い転げながら訊く。
「美味いか? オヤジ」
「ふぁ、ふぁい」
君はもう完全に我を失っている。


彼女達とは、ブルセラショップのエレベーターの前で出会った。
君が中古下着を買うためにその店に行こうとしてエレベーターを待っていたら、声をかけられたのだ。
「ねえオジサン、パンツ買いに行くんでしょ? だったら私達から直に買わない?」
君は驚いたが、その魅力的な提案には激しく心を揺り動かされた。
だから半信半疑ながらも、ドギマギしつつ訊いた。
「いくらで売って頂けるんですか?」
多分その口調と態度でマゾだとバレてしまったのかもしれない。
しかし少女達は、そのときは一瞬顔を見合わせただけで何も言わず、ニヤニヤ笑っただけだった。
「とりあえず、ついておいでよ」
そうして君は主導権を握られたままこの路地裏のような場所までやってきた。
そして下着を一枚五千円で買う交渉が成立した後、突然、少女が言った。
「オジサン、マゾでしょ? どう? 一万でイジめてやろうか?」
「えっ?」
君は虚を突かれて返事に詰まったが、次の瞬間に口を衝いて出た言葉は、それを全肯定する言葉だった。
「あのう、下着代とは別に一万ですか?」
君は上目遣いで彼女達の表情を盗み見るようにして、恐る恐る尋ねた。
すると少女の一人が手を叩いて爆笑しながら答えた。
「オッサン、おまえ超面白いよ。『込み』でいいよ、大サービス」
その回答に、君は意を決して一万円札を財布から一枚引き抜き、少女に手渡した。


「おらおら、もっとシゴけよ、オヤジ」
少女の一人が、君の後頭部をローファーの底で踏みつけながら言う。
「はい!」
君はペニスだけを露出しているという全く説得力のない姿を晒しながら、激しく自慰を続けている。
殴られても、踏まれても、嘲笑されても、気持ちが萎えることはない。
むしろ君はマゾヒストだから盛ってしまっている。
君は、自分の年齢の半分にも達していない少女達の足元で跪きながら、興奮を隠せない。
少女達は君を蹴り、唾を吐きかけている。
やがて射精の衝動が君を貫く。
君はペニスの先端から大量の精液を噴出させた。
「汚ねー」
「出しやがった」
少女達の爆笑が頂点に達する。

やがて少女達は去った。
路地に静寂が戻る。
君は自分の精液で汚れた手とペニスをハンカチで拭ってから、スボンの中にしまい、チャックを上げて立った。
頭に被っていた下着を取って、丁寧に小さく畳んでポケットに入れる。
服や顔に付着した少女達の唾もハンカチで拭いた。
そして尻や膝を払ってから路地を後にし、表通りに出た。

表通りに人影は疎らだった。
コンクリートの舗道に暖かい陽光が満ちている。
君はその日差しの眩しさに目を細め、ゆっくりと歩き出す。
さりげなくポケットに手を突っ込み、下着をぎゅっと握り締める。

日溜りの舗道に、君の影が長く伸びている。

2004-11-25

ピンク・グレイ

窓越しの空の色が、少しずつ変化していく。
君は全裸のまま床で犬のようにお座りをして、その色彩の変化を見つめている。
首輪に取り付けられた鎖は、ベッドの脚に繋がれている。
この部屋には、ベッドしか置かれていない。
君の手は、背中に回されて、頑丈な革のベルトで拘束されている。
八階の一室。
部屋は無音だ。

君の飼い主はまだ戻らない。

目の前のガラス製のボウルには、金色の聖水が注がれてある。
夕暮れの光が、そのボウルと聖水をキラキラと輝かせている。
喉の渇きを覚えた君は、不自由な体を前に倒して、そのボウルに屈みこむ。
そして、手は使えないので、ボウルの中に顔を入れ、舌で聖水を掬う。
金色の飛沫が撥ね、君の顔を濡らす。
その聖水は既に温もりを失っている。
飼い主の亀裂から、君の目の前でそれがボウルに注がれたのは、もう二時間も前だ。
ボウルの傍らには、その時に飼い主が使ったティッシュが無造作に捨てられている。

君は聖水を飲み干し、体を起こすと、つと窓へ視線を向けた。

窓には、カーテンが無い。
だからその視界を遮るものは、何もない。
差し込む射光のせいで、君の影が長く後方に伸びている。
磨きこまれたフローリングの床に落ちる君の影は、濃い。

君は一度、空のボウルに目を落とし、それから再び窓の外を見た。

窓の向こうには、夕暮れの空だけがある。
冬の空は透明度が高い。
指先で触れれば切れてしまいそうだ。

気温が下がり始めたようだ。
茜色に沈みゆく空にたなびく薄い雲が、ピンク・グレイに染まっている。

2004-11-13

ひとひらの雪

真夜中の高速道路

トンネル内、点灯せよ

不意にオレンジ色のチューブ

まるで異空間

時速120キロ

メーターの針は安定している

ステアリングを握る彼女

助手席の君

ノイズ混じりのラジオ

しなやかなシフトチェンジ

加速するクーペ

彼女の指先に挟まれた細い煙草

不安定に漂う紫煙

前方の暗い穴

突然、再び夜の中

計器盤の淡い光

ガラスに映る、首輪の君

ヘッドライトに照らされた、ひとひらの雪

2004-11-08

散歩の途中

イライラしていた。
仕事でミスをしでかして上司に散々嫌味をいわれ、君は鬱屈した気持を抱えたまま帰宅した。
2DKの自室に戻っても、その苛立ちは収まらない。
寧ろ、ひとりになったことによって、その鬱積したストレスは肥大しつつあった。

君は観ていたテレビをリモコンで消した。
つまらないバラエティショウだった。
無性にビールが飲みたくなった君は、財布を持つと、ひとり暮らしのマンションを出た。
単身赴任は、こういうときに辛い。
妻は、千キロ以上も離れた町で、ふたりの子供と一緒に暮らしている。

君は、部屋着であるスウェットパンツにトレーナーという姿のまま、住宅街の中の道を歩いていく。
上空の月が円い。
雲が殆ど無い出ていないので、その夜空は明るい。
真夜中の青空だ。
どこかで犬が鳴いている。
やがて前方にコンビニの明かりが見えてきた。

君はコンビニに入ると、雑誌のコーナーでエロ雑誌を立ち読みする。
すると、次第にモヤモヤとした気分になってきた。
考えてみると、前回に自宅に戻った三ヶ月前以来、全く女性に触れていない。
グラビアの女性は、挑発的だ。

君は、世間的には真っ当な夫婦生活を営む普通の男だが、実際は、変態だ。
強度のマゾヒストで、小遣いに余裕があるときは、SMクラブにも通っている。
君は、雑誌のグラビアを見ているうちに、自分の内部でマゾの炎がメラメラと燃え上がってくるのを自覚した。
自分よりも一回り以上年下のグラビア・アイドルたち……。
そんな魅力的な彼女たちに辱められている自分を、つい想像してしまう。

君は雑誌を棚に戻すと、クアーズ・ライトの缶とピーナッツを買って、コンビニを出た。
相変わらず、月が美しい。
君は、コンビニのビニール袋をブラブラさせながら、無人の街路を歩いていく。
深夜の散歩だ。
周囲には自分の気配だけ……サンダルのパタパタという足音だけが響いている。

そのとき、危険な誘惑が君を捕らえた。
そして君は、呆気なく屈服してしまう。
君は、スウェットパンツをそっと下ろした。
そしてさりげなくペニスを露出する。
なぜか、君のペニスは完全に勃起している。
剥きだしの亀頭を、夜風がそっと撫でていく。
君はごく普通に歩きながら、そのペニスを握り、軽くシゴいてみる。
その心の内では、「誰かに見られたら終わりだ」という恐怖と、「誰かに見られたい」という期待が、激しく鬩ぎあいながら葛藤している。

2004-10-28

今夜の生贄はあなた

その暗く乾いた秘密の小部屋では

夜毎、誰かが泣いています

煉瓦の壁に沁みついた快感

風が止み、闇が誘う

磔にされた倦怠

檻の影

ピン・ヒールの踵が時を刻む

声にならない声、歌にならない歌

揺れる煙草の煙、霞む希望

アイスキャンディーは悪魔のキス

淵の底を覗き込む

ハードボイルドなハートブレイク

今夜の生贄はあなた

2004-10-22

金木犀

濃密な夜の空気の中に強く金木犀の匂いが充満している。
深夜。
時刻は午前一時を過ぎて、公園内には全く人気がない。
園内を蛇行しながら続く遊歩道は、昼間の賑わいが嘘のようにひっそりと静まり返っている。
ホットドックの屋台も、幼子を連れた母親達の姿もない。
水銀灯の冷たい明かりだけが、まるで季節外れの蛍が凍えているかのように、音もなく瞬いている。

雑木林の影が濃い。
水銀灯の光は、その茂みにまでは届いていない。
空には、雲が広がっている。
まだ雨が降り出しそうな気配は感じられないが、空気は冷えてきている。

時折風が吹き抜け、雑木林の梢を盛大に揺らす。
葉のざわめきが、深夜の闇をより一層深くさせる。

君は今、その雑木林の中にいる。
公園内の最も奥まった場所だ。
衣服はほとんど何も身に付けていない。
君は革靴と短いナイロンのソックスを履いただけの姿で、太い木の幹に拘束されている。
その傍らには、美しい女性が立っている。
女性は、夜目にも映える白いワンピースを着ている。
そして、女性の足元には、君が脱いだ衣服と、数分前に放出した君の精液が飛び散っている。
君は、女性のしなやかな手つきによって、拘束されたまま射精を果たしたばかりだ。

「どうか、お許しください」
君は全裸で幹に縛られたまま、その女性に哀願する。
しかし、実際には何も見えてはいない。
なぜなら、君はアイマスクをしている。
そのため、君の視界は闇に閉ざされている。
「何をいってるの? おまえは変態なんでしょ?」
女性がそう冷たく言い放つ。
「で、でも……」
君は、いくら周囲が無人の雑木林とはいえ、どこで誰が見ているか気が気でなかったから、つい小声になってしまう。
女性は、そんな君を軽蔑の眼差しで見つめている。
「外で露出をしてみたいといったのは、おまえでしょ?」
「そ、そうですけど……」
「だったら、いったい何が不満だというの、全く……それじゃあ、元気でね。わたしは帰るから」
「そ、そんな……」
君は声を震わせながら呟く。
しかし女性はもう相手にせず、君の傍を離れた。
そして数歩歩いてから足を止め、屈託のない口調でいう。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。朝になったら誰かが見つけてくれるから」

地面の草を踏んで進む女性の靴音が、だんだん離れ、遠ざかっていく。
やがて、完全な沈黙が、水を吸った真綿のように重く君を包み込む。

風が肌を撫でていく。
金木犀の匂いが鼻を刺す。
不意に雲が切れて、青ざめた月光が君の全身を照らす。

2004-10-15

刻印

M字開脚で吊られているため剥き出しになっている君の股間は、妙につるりとしている。
つい先ほど、女王様によって剃毛されたばかりだからだ。
まだ剃り跡が青々としている。

大人の股間に陰毛がない光景は、非常に卑猥だ。
これで君は当分、人前で裸にはなれない。
しかも、その股間の性器は今、破廉恥にも限界までそそり立っている。
普段は皮に包まれている君のピンクの亀頭が、透明の液に塗れ光っている。
それは単なる歪な肉塊だ。
存在する価値もなければ意味もなく、途轍もなく醜い。

女王様が、鋭く尖った赤い爪の先端で、君の性器の裏筋を辿っていく。
その快感に君は体を震わせ、そしてペニスをヒクヒクと痙攣させる。
それに合わせて、さらにペニスから大量の液体が滲み出し、糸を引いて垂れていく。
「イヤらしい……」
女王様が指先による刺激を与え続けながら、君の耳元に唇を寄せて囁く。
そしてその液体を指先で掬い、君の顔の前に差し出す。
「ほら」
そういって、その指を君の口に押し込む。
君は歓喜し、狂ったようにその指を丹念に舐め、しゃぶる。
その舌の動きは、まるで別の生き物のようだ。
君の舌は女王様の指先に絡みつき、吸いついて離れない。
そんな君を、女王様は侮蔑の色を浮かべた表情で静かに眺めている。
やがて女王様は「はい、おしまい」といって、唐突に指を引き抜き、いったん君の傍から離れた。
そして後方に回り込んだため、吊られている君の視界から外れ、君は床から一メートルほどの上空で浮遊したまま、束の間の孤独に陥る。

音のない部屋の時間の進行は歪んでいる。
次に女王様が戻ってきた時、その手には剃刀が握られている。
白い刃先が部屋の明かりを受けて鈍い煌めきを放つ。
「おまえはわたしのモノ」
女王様はそういいながら、その刃先を、君の臍の下辺り、毛のない下腹部に押し当てた。
「印をつけておくわね」
女王様は楽しそうに残忍な光を瞳に宿しながら、君の下腹部に剃刀の刃を滑らせていく。
小さな痛みが君を包み込む。
白い肌に、赤くラインが刻まれていく。

君は息を殺してじっとその刃の動きを注視している。
やがてその赤いラインは『M』という字として結実した。
繊細な傷口から微かな血が密やかに流れている。
その赤は、性器の先端から溢れ出ている透明な液と混じりながら、キラキラ光っている。