2006-12-18

不安定な逆転

君の世界は今、逆転している。
天井が足許にあり、床が頭上にある。
しかも、今の君は不安定だ。
視界はゆらゆらと微妙に揺れている。

君は、頭と足の位置を逆にして吊られている。
全裸の全身に麻縄が巻かれ、そのまま足首から天井に吊り下げられている。
ちょうど踝の上あたりで揃えて拘束された足首に麻縄が食い込み、少しでも体が揺れる度にそれは擦れる。
天井には滑車があり、麻縄はそれを利用して君を中空に浮かべている。
頭のてっぺんから五センチくらい下に、コンクリートの床がある。

君は、頭に血が下がるのを自覚しつつ、しかし性器を勃起させている。
卑猥な姿だ。
その姿は、壁の鏡で君にも確認できる。
しかも、君の体は亀甲模様に縛られているだけではなく、鞭の跡が胸前から太腿あたりまでかけてびっしりと刻まれている。
その跡は赤く、貧相な君の体を自由に走っている。
中には、血が滲みだしている傷もあるが、君にはどうすることもできない。
今の君は、限りなく無力だ。
両手は後ろに回されて腰の辺りで縛り上げられている。
そして体を動かせば、重力のせいで縄が全身に食い込み、尚更辛くなるだけだ。

カツカツカツカツと硬い靴音が近づいてくる。
見ると、素晴らしいプロポーションを革のボンデージに包んだ美しい女性が、冷酷な笑みを浮かべながら君の体へと歩み寄ってくる。
その手には、鞭が握られている。
長く、しなやかな一本鞭だ。
細い先端が床に触れ、這いずり回るようにその美しい女性の後ろに従っている。
それはまるで女神に従順な黒い蛇のようだ。

美しい女性が君の傍らに立ち、気まぐれに君の体を軽く突いた。
縄が軋み、君の体がボクシングジムのサンドバッグのように揺れる。
女性が動くと、微かに香水の匂いが漂って、それが君の弛緩気味の脳を刺激する。
吊るされている君の視界には、女性のロングブーツだけがあり、膝から上を直接見ることはできない。
鏡の反射を利用すれば女性の後ろ姿を視認することは可能だが、表情まではわからない。

女性が、天井の滑車から下がる鎖を手繰った。
ガラガラガラガラと大きな重厚な音が響いて、君の体が逆さまのまま回るように揺れながら上昇を始める。
そして、頭のてっぺんと床が三十センチほど離れたところで、女性は鎖を手繰るのを止めた。
上昇が止まり、やがて回転と揺れが収まる。
君のすぐ目の前に、女性の太腿の豊かなボリュームがある。
更に、少し視線を上へ向ければ、ハイレグのショーツの三角の部分がそこにはある。
しかし、その距離は永遠に縮まらない。

君は中空で静止している。

No comments: