2008-11-27

狭く小さな楽園

君は最近、週末にアルバイトを始めた。
不況の折、残業代はカットされるし、しかし欲しいものはあるし、それならば暇な時間を有効に活用しようと考えたのだ。
もちろん、職場には内緒だ。
バイトは禁止されているし、そもそもなるべく人にその仕事をしている姿は見られたくない。

君のバイトは、警備員だ。
とはいえ土日しか出勤できないし、さすがに毎週きっちり出ていたら休日がなくなってしまうから、月に数回、臨時のイベントなどに派遣されることが多い。
そして、今週末、実は密かに楽しみにしているイベントの警備の仕事が入っている。

君が派遣されるイベントは、女子中高生に圧倒的な人気を誇るファッション・ブランドが企画した野外フェスだ。
何組かのロックバンドが出場するが、もちろん君の楽しみはその出演者ではない。
君の目的は、その会場に集まる客だ。
真夏の土曜日の真っ昼間に集まってくる客が、ほとんど女子中高生なのだ。
その光景を想像しただけで、君は気持が高揚してくる。
君は、ギャルとか派手な若い女性に罵倒されたり、理不尽な暴力をふるわれたいと切に願う歪んだマゾヒストなのだ。

当日。
君は警備本部でスタッフ用のTシャツを支給されて着替え、IDフォルダーを首からぶら下げると、所定の警備位置へ向かった。
ステージでは音響とライティングの調整が行われ、たくさんのスタッフが行き交っている。
野外の会場なので、開放感がある。
まもなく開場のため、ゲート付近には人だかりができている。
ちらりとそちらへ眼をやると、九割以上が若い女性のようだ。
なかには男性もいるが、圧倒的に数は少ない。

会場をぐるりと囲むように、物販の店や警備や医療などのテントが並んでいる。
そしてその隅に、簡易トイレがずらりと並んでいる。
一応は男性客のためのボックスもあるが、女性用のほうがはるかに数が多いし、混乱しないようにエリアが分けられ、隔てられている。

やがてゲートが開き、会場は瞬く間に若い女性たちで埋め尽くされた。
暑い日なので、誰もが既に汗をかいている。
君は客席のエリアの手前で警備につく。
といっても、とくにやることはない。
ただそこに立っていれば、時間が過ぎていく。
それでも、次から次へと若い女性が肌を激しく露出させ、その肌に汗を浮かべて通り過ぎていくのを眺めていると、君はなかなか平静ではいられなくなってくる。

日差しが激しい。
ステージでは演奏が始まった。
しかし自由な雰囲気のフェスなので、会場内には常に人の流れがある。
君はステージに背を向けて、警備スタッフとして立ち続ける。
汗ばんだ若い女性たちの甘ったるい体臭が充満する会場内の暑い空気を吸い続けていると、理性を失いそうになってくる。
派手な女性が通りすがりに、さりげなくチラリと視線を投げ、思いがけず目が合うと、君はわけもなくドギマギしてしまって、つい俯いてしまう。
そして、また、つと仮設トイレのエリアに目を向ける。
入れ替わり様々な女性たちが使用していて、君はその個室内の光景を夢想して悶々としてしまう。
これだけの人数がいるのだから、相当量の排泄物があのトイレ群のタンクの中には溜まっているはずだ。
それを思うと、変態の君はつい興奮してしまう。

そんなことを半ば暑さで朦朧とした頭で考えていた時、君は背後から不意に声をかけられた。
「ちょっとー」
どこか横柄な、しかし可愛らしい若い女の声だ。
「はい?」
君が振り向くと、そこにはキャミソール姿で首にタオルを巻いた二人の女の子が並んで立っていた。
ひとりは青、ひとりはピンクのタオルを首に巻いていて、大胆に開いた胸元にはアクセサリーが光り、その小麦色の肌は汗ばんでいる。
「なんですか?」
重ねて尋ねると、ピンクのタオルを首に巻いた女の子が、言った。
「ちょっと来てくれない? マジ困ってんだよ」
「どうしたんですか?」
「あんたスタッフでしょ? いいから来てよ」
「は、はい…」

いまいち事態が把握できなかったが、君は女の子たちと一緒に歩き出した。
そして、どこへ行くのかと思っていると、やがて仮設トイレが並んでいるエリアに到達した。
そこで、ようやく女の子のひとりが口を開いた。
青いタオルの女の子だ。
「あのさ、一番端の個室に友達が入ってんだけど、なんか詰まってるらしいのよ。で、出たくても出てこられないってわけ。だから、あんたスタッフだったらさ、こそっと行って友達をさりげなく出してあげてよ。詰まったまんま出てきたら、後から入る人に何言われるかわかんねえじゃん」
「しかし、それは……」
内心君は堂々と女子トイレに入れることに心がときめいたが、残念ながらそれは君の仕事ではなかった。
君は会場の警備員であって、清掃要員ではない。
その旨を君は説明しようとしたが、女の子たちはまるで聞く耳を持たず、「早く」と君の背中を押した。

君は仕方なく個室へと近づいていった。
ピンクのタオルの女の子が携帯電話を取り出して、誰かと喋り始めた。
内容を盗み聞きすると、どうやら中にいる友達と連絡を取っているようだった。
そして、その女の子が君を見て、「行け」というように顎をしゃくった。
君はそのタイミングに合わせ、控えめにドアをノックした。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、「大丈夫なわけねえだろ」という声とともにドアが開いた。

浅黒く日焼けした女の子が個室から出てきて、君のシャツの胸元を掴むと、ぐいっと個室の中に引き込んだ。
「おまえが詰まらせたことにしろ、ハズいから」
そう言いながら立ち位置を入れ替え、君の背中を強く押す。
君はつんのめるようにして個室内に入った。
すると、その狭いスペースには凄まじい臭気が立ちこめていて、君はたじろぎながら、その臭気の根源へと視線を投げた。
そして、思わず声を漏らした。

一段高くなった位置にある便器の中は、恐ろしい事態に陥っていた。
決して彼女が初めて詰まらせたわけではなく、その前から既に流れが滞っていたらしく、そこには硬軟混じった何人分もの茶色い汚物がティッシュやトイレットペーパーと一緒に溢れていて、凄惨な光景だった。
排泄物の一部は便器からはみ出し、床はなぜか濡れている。

「早く、なんとかしろよ」

トイレから出てきた女の子が更にドンと君の背中を押した。
君は不意をつかれて足をもつれさせ、靴底が濡れた床で滑って、次の瞬間、汚れた床に手をついて突っ伏していた。
手のひらが、誰が出したかわからない物質に塗れた。
ズボンの膝が、おそらく尿かと思われる水分を吸ってぐっしょりと濡れる。

「うわっ、すっげえ無様」

自分で突き倒しておいて女の子は笑い、残りの二人も「ありえねえ」と手を叩いて笑う。

突っ伏したために汚れた便器が目前に迫り、最接近した排泄物から立ち上る臭気が君を貫いた。
顔からほんの数十センチの距離に便器から溢れんばかりに溜まったティッシュと汚物の塊があり、背後からはケラケラと笑う女の子たちの声が響いて、君はひどく惨めな気分に陥った。
手のひらには、床にはみ出している汚物の生暖かい泥のような感触がある。

しかし、君はその瞬間、歪んだ変態としては覚醒していた。
いちばん新しいと思われる柔らかめの巨大な排泄物は、使ったトイレットペーパーで半ば隠されているがおそらく今出てきた女の子のものだろう。
そう想像した瞬間、君は激しく勃起した。
そして、狭くて小さいが、ここは楽園だ、と思った。

背後から嘲るような笑い声が響いている。
君は四つん這いのまま振り返った。

三人の女の子たちが強い日差しを背にして、逆光の中で笑っていた。

2008-10-17

聖断

君は困惑していた。
どうしたらいいか、わからなかった。
君は今、とんでもない失敗をしてしまった。
庭の温室で飼い主の女性が大切に育てている植物に水をやっていて、細心の注意を払っているつもりだったが、伸ばしたホースが胡蝶蘭の花瓶に引っかかり、それを床に落として割ってしまったのだ。
花弁は無事だが、茎が折れ、高価な花瓶は砕け散ってしまった。
全裸に首輪だけという格好で温室内に呆然と立ち尽くしながら、君はその惨状を見下ろした。

どうしよう……。

君は激しく狼狽しながら、それでもひとまずホースの水を止め、胡蝶蘭を拾い上げると、それを予備の適当な花瓶に生けた。
しかし、折れてしまった茎が無惨だった。
咲き誇る花弁はまだ美しさを保っているが、茎が折れてしまってはいずれ死ぬだろう。

この白い胡蝶蘭は、君の飼い主である女性が、手持ちの植物の中でも特に愛している花だった。
しかも、それを生けている花瓶は、古い陶器のアンティークで信じられないほど高価なものだ。
それを君は自分の不注意から破壊してしまった。
もちろん、生きている花はいつか枯れるし、形あるものはいつか壊れる。
しかし、それを言い訳になんかできるはずがない。
花も鉢も、時の流れの中で自然に壊れたのではなく、君が壊したのだ。
それも同時に、自分の不注意以外の何物でもない愚鈍な行動によって、君が壊した。
そこに弁解の余地はない。
すべての非が君にある。
全面的に君だけが悪い。

君は一瞬、隠し通せるものなら隠し通したいと思ったが、奴隷の身分である君が飼い主の女性を欺くことなど許されるはずがなかった。
だいたい、この胡蝶蘭は、今夜には再び玄関のロビーに戻しておくことになっているのだ。
だから、どれだけ隠したとしても、数時間後には必ず事態が露見してしまう。
もちろん、その時まで露見を先延ばしにすることは可能ではあるが、全く賢明ではない。
そんな風にしてこの事が飼い主にバレたら、余計に問題が大きくなるだけだ。
よって、君がこれからとるべき道は、ただひとつだった。
正直に申告し、誠心誠意、謝罪し、許しを請うのだ。
そして、許されなければ、罰を受ける。
奴隷の君に選択肢はそれしかない。
嘘や隠し事なんて言語道断だ。

君は温室の隅にあるロッカーから箒とちり取りを持ってきて、花瓶の破片を集めてひとまずビニール袋に入れた。
そして、とりあえず植物のすべてに水を与え終えて、ホースなどを片付けると、改めて予備の花瓶に生けた胡蝶蘭の前に戻った。
陶器の破片を集めたビニール袋をその脇に置き、君はいったん大きく深呼吸すると、館内電話の受話器を取り上げ、飼い主の部屋に繋いだ。
すぐに向こうで受話器が取り上げられ、「なに?」という飼い主の声が聞こえた。
君は唾をごくりと飲み込んで意を決すると、「これからそちらへお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか?」と謁見を申し込んだ。
「すぐ?」
女性が訊き、君は「できれば、そうしていただきたいです」とこたえた。
すると、女性は「では、すぐに来なさい」と謁見を許可し、君は礼を述べて受話器をフックに戻した。
ラインが切れた瞬間から、リアルな恐怖心がざわざわと細胞を揺さぶるように立ち上がってきた。
君はそれを追い払うかのように、破片が入ったビニール袋を持ち、予備の花瓶に生けた胡蝶蘭を抱えた。


飼い主の部屋の前で呼吸を整えてから、君はドアをノックした。
「入りなさい」
女性の声が聞こえ、君はそろりとドアを開けて「失礼いたします」と頭を下げてから入室した。
その部屋はプライベートな応接室で、毛足の長いクリーム色の絨毯が敷き詰められ、革張りのゆったりとした作りのソファが置かれた、広い空間だ。
そのソファに、君の飼い主である美しい女性が座っている。
君はその足元に進み跪くと、彼女の前に割れた陶器の破片が入ったビニール袋と、茎が折れた胡蝶蘭の花瓶を並べておき、「申し訳ございません!」と床に額をこすりつけた。

「なに、これは? どういうこと?」

女性が訊く。
君はひれ伏したまま、言う。

「温室で樹木に水を与えさせていただいていた際、愚かなわたしの不注意から、主様の大切な胡蝶蘭の花瓶を床に落としてしまい、このようにしてしまいました。本当に申し訳ございません。お許しください!」

「許す?」

そう言った後、女性は沈黙した。
君はきゅっと眼を瞑ってひたすらひれ伏しながら、飼い主の言葉を待った。
その無言の時間の重さに押し潰されそうだった。
しかし、依然として女性は無言のままだった。
やがて君は唾を飲み込み、叫ぶように言った。

「どんな罰でも謹んでお受けいたします。いえ、この愚かなわたしをどうか厳しくお罰しください。どうか、どうかご聖断を!」

君は体を精一杯小さくしてひれ伏し、額を床につけた。
後頭部のあたりに、飼い主の冷徹な視線をひしひしと感じた。
やがて、女性は、静かに言った。

「では、鞭打ちにするわ。百発くらいかしら? 庭で用意しなさい」

「はい!」
君はその聖断を謹んで承り、いっそう深くひれ伏した。
それは相当厳しい罰で、決して無傷では済まず、それどころか今後数日は酷い痛みに襲われることが明白だったが、なぜか君の心には歓びの気持が溢れた。
飼い主が与える処罰の聖断を、君は祝福のように聞いた。
しかし、そうはいいながらも本能的な恐怖心は拭いがたく、体がガタガタと震えた。
それでも、自分のミスが招いたことなのだから、お仕置きの享受は、君にとって幸福の範疇だった。

庭には、処罰の鞭打ちのための磔台が設えてある。
それは木製の十字架で、これまでにも何回か、何人もの奴隷がそこで鞭を打たれており、その厳しさの名残として、様々な部分に血痕が黒く沁み込んでいる。
百発の鞭が終わる時、君はおそらく満身創痍で、自力で歩くことすらままならないだろう。
処罰のための鞭は厳しい。
最初の数発で簡単に皮膚が裂け、泣こうが喚こうが、規定の回数に達するまで絶対に終わらない。
そして、たとえ終了後、歩けなくなっていても、救済措置はない。
歩けなくなっていたら、歩けるようになるまでそこに捨て置かれるだけだ。
灼熱の太陽が照りつけようが、凍えそうな冷たい雨や雪が降り出そうが、関係ない。
奴隷に対する処罰とは、そういうものだ。

「五分後に始めるわ。行きなさい」

女性が平坦な口調で命じる。
君は恐怖心から体をガタガタと震わせながら、「本当に申し訳ございませんでした。そして、お仕置きを、ありがとうございます」と言った。

女性は無言のまま君を見つめている。
君は恐る恐る、「申し訳ございません、この花と花瓶は如何致しましょうか」と茎の折れた胡蝶蘭と花瓶の破片の処理方法を尋ねた。

「後で誰かに片付けさせるわ」

女性は素っ気なくそう言い、行け、というように、顎をしゃくった。

「わかりました。失礼いたします」

君はもう一度丁寧に頭を下げ、素早く立ち上がった。
そしてドアのところで振り向き、もう一度丁寧に頭を下げた後、その部屋を辞した。

五分後以降の自分の運命については、あえて何も考えなかった。

2008-09-06

窓辺の椅子

月明かりに濡れる孤独な窓辺。
さめざめとした青い光に照らされた冷たい床。

ぽつんと置かれた一脚の椅子。

君は、その窓辺の椅子に座っている。
何も身には纏っていない。
全裸だ。

両腕は、手首に巻かれた革製のベルトによって、そのまま肘掛けに拘束されている。
揃えて床に下ろす裸足の足首にも、頑丈な革の枷が嵌められている。
その両足首に装着された枷は短い鎖で繋がれていて、重い鉄球が付属している。

君は、まるで身動きがとれない。
手足だけではなく、体も椅子に固定されているからだ。
椅子の背もたれと一緒に、体全体がロープで椅子に括りつけられている。

大きなガラス窓の外は夜だ。
そして室内は静まり返っている。
物音は、何も聞こえない。
耳を澄ませば、微かに鼻から漏れる自分の息遣いだけが、漂っている。
口許にガムテープのようなものが貼られているため、口を開くことはおろか、ほんの少し唇を動かすことすらままならない。

こうして椅子に拘束されて、もうどれくらい経つだろう。
視界に時計がないので、正確な時間の経過は全くわからない。
ただ、まだ窓の外では夜が続いているので、せいぜい数時間といったところだろう。
眠ってはいないが、意識は虚ろだ。
そもそも、一分も一時間も、時間という概念は既に意味を失っている。
もしかしたら、ほんの短い間、眠りに落ちている可能性もある。

視界の中には何も動くものがなく、人の出入りもない。
部屋は薄暗く、君はだんだん自分の輪郭が希薄なってきているのを自覚している。
肉体も精神も、輪郭が薄闇に溶け始めている。
時々眼球だけを動かしてみるが、世界には何の影響を及ぼさず、変化はない。
君は知らない部屋の知らない窓辺で、君自身を喪失しつつある。

君の体には無数の鞭の傷跡があり、痛みもあるが、それさえも虚ろになりつつある。
傷が体の表面から離脱し、空間を浮遊しているようだ。
自分と世界の境界線が曖昧だ。
どこまでが自分で、どこからが世界なのか、今の君にはわかりにくい。
手首や足首の拘束が強力なので、皮膚の感覚は麻痺し始めていて、なんだか魂だけが抽出されて空間に放り捨てられたような、不安定な気持ちだけが君を支配している。
足の裏は確かに床をとらえていて、鉄球の重みも感じるが、すべてがまるで他人事のように感じる。

君は月明かりが差す中空を凝視する。
しかし遠近感すら朧な君の視界に、救済の道は存在しない。

君は終わりの見えない流れの中で、じっと息を潜めながら、何かの到来だけを待ち続けている。

2008-07-11

50cm

50cm。

それは、君の視点の高さを示す数値だ。
君は常に首輪を装着し、犬と化して四つん這いで暮らしているから、視点の高さがそれ以上になることは滅多に無い。
たまに、ご主人様の足にじゃれつくペットのように両手を上げて伸ばし背中を反らすことはあるが、そうそう許される行為ではないから、やはり君の視点の高さはたいてい50cm未満だ。

その視界は、ヒトのそれとは全く違う。
君は殆どの世界を仰ぎ見て暮らしている。
しかし、君にとってそれは悪くない景色だ。
なぜならば、君は犬として生きることに悦びを覚えているマゾヒストだからだ。

一匹の犬。
それが、君だ。

君は、常に全裸で暮らしている。
もう何年も衣服を身に着けたことはない。
美しい女性に飼われ、すべてを掌握されている。
そこに生活の自由はないが、「人」であることを捨てた君は、存在としての自由を手に入れている。
両手と両膝で体を支えつつ、餌を与えられて生を繋いでいる。
その生に、君の意思は介在していない。
しかし、幸福だ。
君は飼い主の慈悲によって生きている。
その慈悲に縋り、生かされている。
君には生きる権利も死ぬ権利もない。
ただ、四つん這いで繋がれてそこにいるだけだ。

君には、喜びもないが、悲しみもない。
感情は、ヒト特有のものだ。
だから、畜生である君に、感情はない。
よって、喜びも悲しみもないのだ。


君は広いリビングの隅に置かれたケージの中から、その格子の外を眺めている。
飼い主である美しい女性は今、裸で革張りのゆったりとしたソファに身を沈め、長い脚を低いテーブルのうえに投げ出して股を広げ、その中心に深々とバイブレーターを挿入して身を捩っている。
時折切なげな吐息が漏れ、肢体が脈打つ。
君とその女性との間の距離は三メートルほどだ。
君は格子の間から食い入るようにその女性の動きを凝視している。
股間にぶら下がる性器は猛々しく勃起していて、既に我慢の限界は超えているが、しかし犬である君に手を使うことは許されていない。

女性の喘ぎ声が空気を震わせながら、君に届く。
だからといって、もちろん女性に君を挑発しているという意識はない。
女性は、君のことなど眼中にない。
どこの世界に、飼い犬を意識する人間がいるだろう。
よって、挑発もしていなければ、君に対して恥ずかしいという感情もない。
飼い主である女性にとって、君は「人」ではないから、そういう対象ではないのだ。

女性は、ソファの上で本能のままに快感を貪っている。
君はついに耐えきれなくなって、ケージの中に転がっている大きなクッションを抱きかかえた。
そして、そのクッションに屹立する性器を押し付け、犬のように腰を振る。

君は高さ50cmの視点で女性を見つめたまま、クッションを強く抱え、激しく腰を振って性器を擦り付けていく……。

2008-05-24

スレイブ・トレイン

深夜。

単線の終着駅。

近くに人家などない山奥の、有刺鉄線で囲まれた工場のような敷地内に線路が引き込まれている。
駅名表示の看板すら存在しない殺風景で長いプラットホームだ。
ぽつんぽつんと灯る蛍光灯の明かりが寒々しい。
山間の空気は凛と冷えている。

空に浮かぶ月が煌々と輝き、世界を銀色に染めている。
ホームには、黒革のトレンチコートとブーツ、そして制帽を着て手に鞭を持つ女性が数人、列車の到着を待っている。

やがて遠くから鋭い汽笛が響き、列車が駅に近づいてくる。
徐々にその走行音が大きくなり、先頭の機関車のライトが闇の中に伸びる。
ホームに立つ女性たちが、居住まいを正してその到着に備える。
しかし、アナウンスの類いは一切流れない。

列車がホーム入線してきた。
長い貨物列車だ。
有蓋貨車が延々と連結されている。

ゆっくりと列車が停止した。
一斉に貨車の扉が開かれる。
そして、中から全裸の男たちがぞろぞろと降りてくる。

全員が首輪を着け、短い鎖で繋がれた手枷と足枷を装着している。
年齢は様々だ。
若者もいるし、年寄りもいる。
ただし、未成年はいないし、極端な老人もいない。
男たちの表情は、暗く沈んでいるわけではないが、明るく弾んでもいない。
彼らの目は、死んだ魚のようではないものの、ガラス玉のように澄んで虚ろだ。
誰一人として口を開く者はいない。
男たちはホームに出ると、そのまま列を組んで静かに出口へと向かう。
靴を履いていない裸足の人の群れの移動に於いて、物音はほとんど発生しない。

少しでも列を乱したり、歩調を合わせない者には、黒革のコートの女性の鞭が無言のまま容赦なく飛ぶ。

寡黙な人の群れの淡い影が、深夜のプラットホームを流れていく。
君もその列の中で心持ち背中を丸め、俯いて自分の裸足の足元だけを見つめながら、ただ前を行く男の後ろについて歩いていく。
何時間も狭く暗い貨車の中で床に膝を抱えて座り、じっと身を固くしていたので、全身が強張ってしまっている。
しかし、体を伸ばして凝りを解すことなど許される雰囲気ではない。
ホームの空気は緊張と恐怖感で張り詰めている。

冷たい夜風が全身を撫で、君は鳥肌を立てる。
萎えた性器が股間で頼りなく揺れている。
その存在を意識した瞬間、君の歩調が若干周囲とずれた。
すかさず、近くにいた女性から君の体に鞭が鋭く打ち据えられる。

「ひぃ」

君はその一閃に震え上がって思わず立ち止まり、反射的に身を竦めながら、咄嗟に声を漏らしてしまった。
その声と立ち止まったせいで、更に鞭が飛ぶ。
周囲の男たちは完全に無関心だ。
君は痛みに堪えながら怖ず怖ずといっそう体を丸めると、鞭を打った女性を覗くように見上げ、小声で「申し訳ございません」と頭を深く下げた。
しかし、女性の返事はない。
その代わり、女性は唇の橋を片方だけ持ち上げて冷ややかに君を見下ろした後、「進め」というように顎をしゃくった。

君はもう一度頭を下げた。
そして前の背中を追いかけるように急ぎ、列の調和に復帰していく。

2008-05-07

桜の檻

机のうえに、写真立てが置かれている。
シンプルな、アルミのフォトフレームだ。
その中には、満開の桜の写真が入っている。
仄かに白く、仄かにピンク色の花びらが、切り取られた世界の中で鮮やかに咲き誇っている。

君はパジャマ姿で椅子に座り、机に両肘をついて手を組み合わせ、その指先に唇を軽く当てながら、写真を見つめる。
何度眺めても、見事な満開だ。
まるで世界が祝福で溢れているような、平和で長閑で素晴らしい春の風景だ。
目を閉じると、甘い自然の香りが甦ってくる。
君は静かな夜の片隅で、その満開の桜を思い出す……。


四月。
例年より桜の開花が早く、君は平日の午後、美しい女性とふたりで桜を見るために高速で二時間の場所にある山里へ出掛けた。
平日ということもあって、快晴の高速道路は空いていたし、山里にも人は少なかった。
君は車を小川沿いの空き地に止めると、女性と二人で桜の丘陵の奥へと入っていった。

あたりは完全に静まり返っていた。
時折吹く小さな風が、足元の草や桜の梢を微かに揺らして、ささやかな葉擦れの音だけが二人を包み込んでいた。
日向の匂いが、甘かった。
女性が先に立ち、君はその若干後ろに続いてなだらかな斜面を登っていった。

やがて、桜の丘の中の、小さな集落を見渡すことができる開けた場所に出た。
花見のピークなら、きっと人が犇めく絶好のロケーションなのだろうが、幸い、周囲には誰の姿も見えず、桜だけが無言のまま咲き乱れていた。

どこかで小鳥がさえずっていた。
女性は、桜の木の間で立ち止まると、振り向き、君に向かって何も言葉は発しないまま顎だけをしゃくった。
君は頷き、その場で着ていた衣服を全て脱ぎ捨てて裸になった。
靴も靴下も脱いで、草と土の地面で裸足になった。
明るい陽射しが、君のすべてを照らした。
君はなんとも落ち着かない気分に陥り、本能的に股間を手で隠した。
すると女性がやはり無言のまま近づいてきて、君の頬を強く平手で打った。

「すみません」

君は小声で謝罪し、手をどけた。
猛々しく勃起している性器が、ピクンと跳ねるように股間で揺れた。
それは、卑猥な部分だった。
肉の棒は赤黒く、生々しく限界まで反り返っているのに、その周囲に毛はなく、まるで生まれたばかりの赤ん坊のようにつるつるとした肌を露出していた。
しかも、その毛を剃った部分の肌だけ妙に生白かった。

君の全身を、生温かい春の風がそよそよと撫でていった。
女性は鞄から麻縄を取り出すと、それで君の体を縛り、そのまま太い桜の枝に縄をかけ、君を吊るした。

瞬く間に、君は宙に浮いた。
視界を、桜の花が占めた。
その隙間に、山里の集落が覗いた。

女性は君を吊るすと、続いて長い鞭を鞄から取り出し、君を容赦なく打った。
しなりながら走る鞭の先が空気を切り裂く鋭い音と、君の体を打ち据える乾いた音が、静かな桜の丘陵に響いた。
君は鞭を打たれる度に体を捩り、うめき声を漏らした。
最初のうちこそぐっと奥歯を噛み締めるようにしてその痛みを堪えていたが、やがて皮膚が擦れて赤く染まりだすと、もう感情のコントロールが効かなくなり、君は我を忘れて絶叫した。

しかし、女性は鞭を止めなかった。
無言のまま、黙々と端正に鞭を振り続けた。
じきに君の体の皮膚が裂け、鮮血が背中や胸前から飛び散った。
仄白い桜の花びらに赤い血が降り掛かる。

ひとしきり鞭を打つと、女性は満足したように手を休め、煙草に火をつけた。
鞭を地面に置き、ゆっくりと君に近づいて、青息吐息で揺れている君の体を鑑賞した。
そして、それでもまだ勃起している君の性器を指先で弾き、その根元に煙草の火を押し付けた。

「うぎゃああああ」

君は弾かれたように身を捩った。
そんな君を見て、女性は微笑した。
そして、再び君と距離を取ると、デジタルカメラを構え、満開の桜の中に吊るされている君を撮影した。


……君はフォトフレームの中の写真にぐっと顔を近づけ、じっと凝視する。
すると、一見、満開のサクラを撮っただけのような写真が、生々しさを伴いながら別の景色を現していく。
目を凝らしてその写真を見れば、満開の桜の間には人間が吊られている。
もちろん、それは君だ。
君を包む満開の桜が、まるで檻のように見える。

君はそっと眼を閉じる。
すると体と心に鮮やかに、あの時の鞭の痛みと春の風の甘い匂いが甦ってくる。

いつのまにか、君は勃起している。
君は桜の山里を思い出しながらパジャマのズボンを下ろすと、屹立している性器を握りしめ、静かに擦り始めた。

2008-04-07

Like a woman

君は四つん這いになり、尻を高く掲げた。
その姿が、壁の鏡に映る。
君は今、全裸で首輪を装着し、そこに繋がれた鎖は壁のフックに引っ掛けられている。

掌と膝に伝わる固いフローリングの床の感触が冷たい。
女王様が、君の尻を軽く蹴る。

「もっと汚いそのお尻を高く上げなさい。そして、自分で穴を広げなさい。入れて欲しいんでしょう? ほら」

君の尻を、女王様が平手でパシンッと張る。

「申し訳ございません」

君は謝罪し、両手の支えを外して頬を床に付けると、膝を心持ち前方へずらして更に高く尻を持ち上げ、両手で自分の尻の肉を開く。
すると、ふだんは肉に隠されている穴が晒け出され、ひんやりとした空気がそっと撫でていく。
その感触に、君は俄に緊張してしまう。

「汚い穴ね。しかも、なんて格好なの。恥ずかしい」

女王様は咥え煙草でフンと笑い、君の頬をブーツの底で踏みにじる。
君は傾いた視界の中で、必死に女王様を仰ぎ見る。
女王様は、その哀れな君の眼を冷ややかに見下ろし、唇に咥えた煙草を指先で挟んで離すと、ゆっくりと煙を吐く。

やがて女王様が君の背後に回った。
そして、君の穴に唾が吐かれ、続いて冷たいローションが垂らされる。
君はその感触に、体をぴくりとさせてしまう。
ちらりと鏡を見ると、女王様は煙草を咥えたまま手術用の薄いゴム手袋を装着している。
君は生唾を飲み込みながら、その手を見つめる。

「ほら、もっとお尻の肉を広げなさい」

女王様が手袋を嵌めた手で君の尻を叩く。

「申し訳ございません!」

君は鏡越しに凝視していたせいで疎かになってしまっていた両手に力を込め直すと、尻の肉を鷲掴みしてぐいっと広げた。
すると次の瞬間、女王様の指が差し込まれた。
君はその貫かれるような感覚に、自然と喘ぎ声を漏らしてしまう。

「なんてスケベな穴なの。どんどん咥え込むじゃない」

女王様がせせら笑いながら言い、指をしきりに動かして尻の穴の筋を解していく。
ローションとゴム手袋に包まれた指と穴の中の粘膜が擦れ合ってピチャピチャと卑猥な音を立てている。

やがて女王様は、二本目の指を挿入し、そして三本の指を君のアナルに差し入れると、そのまま指の付け根まで埋めた。
異物感が君を貫通する。
女王様は君の戸惑いなど無視しながら、大胆に穴の中を弄るように指を自由に蠢かす。
君は思わず、「あーん」と身悶え、尻の穴に力を込めてその指を強く咥え込む。

「なんてイヤらしいお尻なの」

女王様が呆れながら、咥え煙草のままゆっくりと指をピストンする。
その動きに合わせて、君の腰は自然に動いてしまう。

「アンアンアン」

君は、まるで女のように喘ぎ、男を脱ぎ捨てていく。

2008-03-05

終わらない夜

君は自分が大人の男であることを忘れ、いや、充分に承知のうえでそのプライドを放棄し、年甲斐もなく涙を流してしまった。
床に足は着いているものの、両手を上に伸ばしてその手首を縛られ、そのまま天井から吊るされている君の体には、無数の鞭の跡が縦横無尽に刻まれている。
それでも尚、鋭い鞭の先端が君の体を打ち据えていく。
その度に君は体を揺らし、背中を仰け反らせて叫び声を上げる。

薄暗い部屋だ。
しかし君はスポットライトの強い光の筒の中にいる。
そして薄闇の中に立つ美しい女王様は鞭を手に、薄ら笑いを浮かべている。

君は吊るされたまま、泣きじゃくってしゃくり上げながら、女王様に懇願する。

「どうか、お許しください……」

それは今にも消え入りそうな儚い声音だ。
女王様は、答えの代わりに更に鞭を振るって笑い声を響かせる。
君は唇を噛み締め、涙で滲む視界の中に女王様の姿を捉えて、荒い息を漏らしながら再度、許しを請う。

「女王様……どうか、どうかお許しください……」

しかし、そう言って哀願の眼で女王様を見つめる君の台詞に説得力はまるでない。
なぜなら、そんな風に許しを請いながら、君の性器は極限まで反り返っているからだ。

女王様が、鞭を止め、ゆっくりと君に近づく。
君は安堵の吐息を吐きながら、恐る恐る女王様を仰ぎ見る。
その探るような微力な視線を、女王様は冷徹な瞳で跳ね返す。
束の間の静寂が調教ルーム内に漂う。
君は息を詰め、ごくりと唾を飲み込む。

やがて女王様は君の前に立つと、顎に手をかけて至近距離から冷めた眼で瞳を覗き込み、そして勢いよくビンタを張る。
更に、君の顔に唾をペッと吐きかけ、一歩後ずさると、尖ったブーツの先で君の屹立したペニスを突き、一旦その足を床に下ろす。
しかし、次の瞬間、その足は思いっきり上方へと振り抜かれ、固いブーツの甲が君の陰嚢を下から抉るようにヒットする。

「うぎゃあ」

君は瞬間的に絶叫し、無様に飛び跳ねてしまう。
それを見て女王様は笑い、

「足を開いて立ちなさい」

と命じて、君が怖ず怖ずと従うと、再び陰嚢を蹴り上げる。
満身創痍の君は、恥ずかしげもなく叫び、まるで精肉工場のラインに吊るされた肉塊のように、体を身悶えさせながら不自由に揺れる。

手首で擦れるロープの痛み、鞭の跡の疼き、そして股間を痺れさす鈍痛。
君は、家畜以下の存在へと華々しく墜落していく。

しかし君の夜はまだ終わらない。

2008-02-06

ピーチ

外で夕食を済まし、適度に疲れて帰宅した君は、仕事の服を脱いで着替え、テレビのスイッチを入れる。
最近購入したばかりの、50インチのフルHD液晶テレビが、ゆっくりと起動する。
君はソファに座り、テーブルに脚を投げ出す。
やがて画面に、水着の女が映し出される。
どんな番組かは知らない。

化粧で完璧に武装された美しい顔。
挑発的な肢体を包む、際どい白のビキニ。
デジタル・ハイビジョンの精彩な画質が、その布の質感、そして肌の質感を舐めるように象ってゆく。

女は笑っている。
多少の下品さは感じられるものの、蠱惑的な笑顔だ。
肉体が躍動している。
太っているわけではないが痩せてはいない、健康的で、しかし若干淫微さを漂わせる肉感的な体が、画面の中で弾んでいる。
その体の各部位を、カメラがズームアップしながら執拗に追跡する。
揺れる胸、突き出される尻、女が笑う。
白い肌が、眩し過ぎる照明によって透き通るように輝いている。
決して小さくはない尻のアップの残像が、君を捕らえて離さない。


一時間後、君はラブホテルの一室にいる。
素っ裸で、背中に回した両手を手錠で拘束され、首輪とリードを付けて床に跪きながら、背中を向けて立つボンデージ姿の女性の、革製のTバックのショーツに包まれた豊かな尻を見上げている。
リードの先は、女性の手の中にある。

白くて丸いピーチのような造形が、君の視界を占めている。
女性が振り返って君を見下ろし、リードをクイっと引っ張りながら、自らの尻を君の顔面のすぐ先へ突きつけて、嘲笑を浮かべる。

「何が欲しいの?」

鼻で笑いながら女性が訊く。
君は自由にならない両手をもどかしげに動かしながら、こたえる。

「お尻が欲しいです」

君は、その白くて柔らかそうで大きな尻に抱きつきたくてたまらないが、それは叶わない。
故に、激しく身悶えてしまう。

「やだ、何を盛ってるのよ、変態の分際で」

「すいません……」

しかし、君の視線は、女性の尻に釘付けだ。
手を伸ばせば、そして顔を後ほんの少し突き出せば、届きそうな距離にその尻はあるが、今の君には果てしなく遠い。

と。
唐突に女性がリードを緩め、次の瞬間、尻を君の顔面に載せて密着させた。
柔らかい感触が不意に君の顔に押し付けられ、君の鼻先と唇が、Tバックの細い布の部分によってピンポイントで被われる。
君の頬に、女性の白い尻の肌が吸着する。
そして、暖かい重みがのしかかる。

思わず君は腰を浮かし、飢えた獣と化しながら、貪欲に、そして恥も外聞もなく破廉恥に、思いっきり淫らに本性を晒け出して自らその尻の谷間に突進していく。
女性は悪戯っぽく、何度も尻を君の顔面で弾ませる。
君は、その躍動を追いかけるように、鼻腔を思いっきり開いて谷間の香気を吸い込み、双丘の重量感と温もりに酔い痴れながら、尖らせた舌をショーツの隙間に滑り込ませていく。
その姿には、もはや人間としての理性は一欠片も残されていない。
舌先にチリチリとした陰毛の感触が伝わり、柔らかい肉を辿り、君の意識は著しく狭窄して舌先の一点に集中する。
君は果敢に柔らかい亀裂へ、そして更に、その先で窄まっている莟へ、鼻息を荒げながら、一心不乱に舌を伸ばしていく。

そんな必死な君の髪を女性が無造作に掴んで揺すりながら、尚も尻を押し付け、そしてリードを極限まで短く持って完全に密着させ、高らかに笑う。
君はその感触に溺れながら、しかしやがて鼻と口を肉で覆われ、だんだん呼吸が苦しくなっていく。
尻を顔面に載せられたまま、君は悶え、体をよじる。
しかし逃げられない。
快楽が苦悶に転換され、視界が暗みに覆われて白い光が弾けながら、そして転落していく。

そんな君を見て、女性は更に楽しそうに笑う。
その嬌声と君のくぐもった呻きが卑猥に交錯しながら、それほど広くもない室内に響き渡っていく。

2008-01-12

バスルームの孤独

さして広くないバスルームの床はタイル敷きで、その床も壁もバスタブも、あらゆる部分が白い。
しかも小さな窓の外は夜で、無機質な蛍光灯が天井で白い光を放っているため、その白さは人工的に増幅されている。
タイルの床は冷たい。
冷たいというより、凍えるくらいに冷えきっている。
そもそも、バスルーム自体が、完全な冷気に包まれている。

君は今、そんな冷たいバスルームの床に、全裸で跪いている。
手のひらと膝と爪先から、冷気が這い上がってきていて、全身に鳥肌を立てながら、小さく震えている。
奥歯がガチガチと鳴っている。

君の首には、赤い革製の首輪が巻かれている。
そして繋がっているリードは前方へと伸び、そこには美しい女性が凛然と立っている。
女性は、普段着姿だ。
厚手のウールのスカートに、タートルネックのセーターを着ている。
スカートはグレーで、セーターはオレンジ色だ。
女性はリードを持ちながら軽く腕を組み、君を見下ろしているが、全裸で跪いている君の姿は、普段着の女性との対比でいっそう貧相に見える。

「どうして震えているの?」

女性が首を傾げて不思議そうに訊く。
君は手を床についたまま首を反らせて女性を見上げ、こたえる。

「寒いです」

その声も震えている。
しかし女性は微笑むだけだ。

「でもおまえは犬だから、仕方ないんじゃない? かわいがられているペットならともかく、いくら寒くても、ペットでも何でもなくただの犬でしかないおまえが服を着るなんて生意気でしょう?」
「はい……」

君はこくりと頷く。
それを見て、女性が言う。

「じゃあせめて、温かい飲み物でも上げようかしら?」
「お願いします」

君が床に額をつけて懇願すると、女性はフンと鼻で笑い、おもむろにスカートをたくしあげると、ショーツを下ろした。
そして、軽く脚を開く。

「いまからオシッコしてあげるから、床に溢れたものを舐めて飲みなさい。犬らしくね」
「はい」

そう言って女性は立ったまま放尿した。
股間の茂みの奥から黄金色に輝く液体が迸り、床に飛沫く。
尿は、白く微かな湯気を立ち昇らせながら、タイルの表面を流れ、溜まっていく。
強いアンモニア臭が立ち込め、君の鼻腔を刺激する。
温かい尿がタイルの目地に沿って流れ、君の手のひらや膝を濡らしていく。
しかし君は動かない。
白いタイルが金色に染まっていく。

やがて放尿が終わり、女性は腕を組んで立ったまま、君を見下ろす。

「飲みなさい」

リードを引っ張り、君を尿の溜まりへと誘う。

「ありがとうございます!」

君は歓喜し、尻を上げてその尿に屈み込む。
手のひらも尿の中だ。
そして君は舌を這わせ、早くも温もりをなくしつつある尿を、音を立てて舐めとっていく。

女性が嘲笑を浮かべながら、床に這いつくばって尿を飲んでいる君の頭を踏む。
君は踏まれ、そして軽蔑と憐憫の視線に貫かれながら、尚も必死に啜り続ける。

そんな君のペニスは完全にそそり立っている。