2007-02-02

行灯

畳敷きの部屋は痺れるような寒さだった。
部屋はさほど広くはない。
20帖ほどだ。
ただし、家具が何も置かれていないので、実際より広く見える。

襖がぴたりと閉められた室内は薄暗い。
縁側へと続く障子は全面的に開け放たれ、夜の庭が見えるが、暗い。
庭では石の灯籠が弱い光を点しているが、雑木林の闇を増幅させる効果しかなかった。

部屋の天井には太い梁が渡されている。
それは黒光りして、艶やかに濡れたように見える。
その梁に、麻の縄がかけられ、そこに、口に馬のハミに似た枷を嵌めた全裸の君が吊るされている。
君は揃えて上げた両手の手首を括られ、そのまま両足と一緒に、天井の梁に吊り下げられている。
君の体は、床から1メートルほどの高さでほぼ水平に浮かんでいるが、若干背骨を反らし気味だ。
それは不自然な体勢だが、妙なバランス感覚も同時に保たれている。

そんな君の体を、畳の上に置かれた行灯の柔らかい光が微かに照らし出している。
その黒い影が、拡大して天井や襖に映っている。
君が手首や足首で擦れる縄の痛みに体を微妙に揺り動かすと、影も揺れる。

君の傍らに、ボンデージ姿の美しい女性が立っている。
その黒い革の衣装も、行灯の光を受けて妖しく艶めいている。
女性の手には、長い鞭が握られている。
それはまるで薄闇に蠢く黒い毒蛇だ。

やがて女性が、優雅な身のこなしで鞭をふるった。
鞭はしなやかに波打ち、君の体に赤い跡を刻む。
その鋭い衝撃に、君は浮かんだまま身を捩った。
叫びそうになったが、口には枷が嵌められているため、くぐもった息しか洩れない。
数発の鞭が連続して君の体に打ち込まれると、たちまち全身から汗が吹き出た。
君は声にならない呻きを洩らしながら、刻まれ続けていく鞭による傷の痛みと同時に、縄が擦れる痺れに似た痛みにも耐える。
麻の縄は体を吊り下げる為に梁へと続いている手首や足首だけではなく、全身に巻かれているので、体が揺れる度に肌に食い込み、君は脂汗を滲ませる。

部屋に、君の体を打ち据える鞭の音だけが響き続ける。
行灯の明かりが、闇の中に君を微かに浮かび上がらせている。