2009-11-01

涙のままに

「便器になりたいです!」

君は全裸で正座し、背筋をピンと伸ばしたまま、目を瞑って大きな声で言った。
その声は、まるで何かの宣言か、生死を賭けた不退転の決意表明のように、若干の悲壮感を含みながら、さほど広くない部屋中に響き渡った。

「マジで!?」

君の前で椅子に座って脚を組む美しい女性が呆れたような顔をし、嘲笑いながら、言った。
栗色の巻き髪がゴージャスな印象を与える、しかしカジュアルな服装の、二十代前半の若い女性だ。
胸元や肩口を大胆に露出した薄紫色のキャミソールにデニムのホットパンツを履いていて、素足の爪先には派手な銀色のペディキュアが綺麗に塗られている。
室内にはその女性の香水の匂いがクラクラするくらい強く漂っている。

「はい、ぜひ人間便器に!」

君は更に懇願した。
股間の性器は、はち切れんばかりに勃起している。
女性が脚を伸ばし、その屹立する先端の亀頭を足の指でグリグリと弄びながら、苦笑した。

「本当に正真正銘の変態なんだな、おまえ。何もしないうちからもうギンギンじゃん」
その言葉には、侮蔑の響きが何の遠慮もなく含まれている。
「ていうか、便器になりたいってさ、具体的に何をどうしたいわけ? 私のおしっこ飲むの?」
君の緊張は絶頂に達していたが、勇気を振り絞って言った。
「あ、はい……あと、できれば黄金も頂ければ……」
「黄金? 何それ?」
女性が首を傾げて訊き、君は答えた。
「あ、あのう……は、排泄物です……」
「はあ? もしかしてウンコ? おまえ、ウンコ食いたいの? っていうか、食うの?」
女性は素っ頓狂な声で呆れきったように聞き返し、ゴキブリでも見るような目で君を見下ろした。
「は、はい……」
君は目を伏せ、頷いた。
すると、女性は前屈みになり、君の顎に手をかけて前を向かせると、強くビンタを張った。
「ちゃんと目を見ろよ。人と話をするときは相手の目を見て話しなさい、って小学校とかで教わらなかったか?」
「すいません」
君はオドオドした目を女性に向けた。
その気弱な君の瞳を女性が覗き込む。
「ウンコ食いたいのかって訊いてんだから、はっきり答えろよ」
美しい女性が口にする『ウンコ』という言葉の響きに君は痺れるようなときめきを覚えながら、「はい、食べたいです! 女の人のトイレになるのが夢なんです!」と軽く握った拳を膝の上に置いて答えた。

「マジありえねえ」
女性は吐き捨て、君の顔面に足の裏を当てると、そのまま足の指で君の鼻を摘んでぐいぐいと捻り、続けた。
「でもなんか面白そうだから、おまえのその変態極まりない願いを叶えさせてやるよ。ちょうど、たぶん出そうだし」
一瞬だけ苦笑いを浮かべて女性は言った。
「ありがとうございます!」
君が礼を述べ、額を床に擦り付けると、女性はもう苦笑を消して椅子から立ち上がり、君の髪を掴んで引っ張りあげた。
「じゃ、さっさと立て」
「はい」
ふと君が女性を見上げると、その顔貌からはすっかり笑みが消え、瞳には冷徹な光が宿っていて、君を見下ろすその目はもはや人間を見るそれではなかった。
女性は君を人間以外の何かとして見ていた。

君は髪を掴まれたまま、引き摺られるようにトイレへと連行された。
そして狭い個室に投げ込まれるように入ると、女性は君の背中を蹴り、言った。

「蓋と便座を上げて、仰向けになって中に頭を入れろ」
「はい」

君は言われた通りにピンク色のカヴァーが掛けられた便器の蓋を上げ、ヒーター内蔵の便座も上げると、仰向けになって両手を床につき、便器の縁に首筋を載せるようにして体勢を整えた。
それは一見、美容室のシャンプー時のような体勢だったが、かなり不格好で、かなり無理のある姿勢だった。
しかし、君は必死だったから、不自然な筋肉の張りに耐えながらじっとその体勢を保持した。

「すげえ格好だな、おまえ。最低だ」

女性は軽蔑の視線を注ぎながらペッと君の顔に唾を吐いた後、デニムのパンツと下着を脱ぎ、ふつうに便座に腰掛けるように君の顔の上空に尻を浮かせて若干中腰になると、静止した。
君の視界の殆どを女性の股間が占めた。
陰毛の密集の奥にピンク色の亀裂が潜み、柔らかそうなラインを描く双丘の間にきゅっと締まった蕾が覗いている。
君は痴呆のようにその景色にしばし見蕩れたが、すぐにシビアな現実に引き戻された。

「ちゃんと口開けろ!」

「はい」

君がそう答えた瞬間、亀裂から黄金色の放物線が煌めきながら降り注いだ。
君は精一杯大きく口を開け、それを飲もうとしたが、奔放に降り注ぐ聖水は君の口の中だけでなく、顔面全体に飛び散り、そのまま便器の中へと流れ落ちていった。
それでも君は必死にその聖水を、喉を鳴らしてごくごくと飲んだ。
しかし、聖水の勢いの方が君が飲み込むペースより早く、まるで配管が詰まったみたいに、たちまち口の中からゴボゴボと溢れた。
その様子を上空から覗き込んで女性が言った。

「ちゃんと飲めよ」

「ふゅみまふぇん」

すいません、と答えたつもりだったが、君の口には聖水が満杯のため、ほとんど言葉にならなかった。
しかも、そう声を発したことで、余計に口から聖水が溢れ、君は顔面だけでなく、髪やら胸前やらまでぐしょ濡れになった。

「ったく、何やってんだよ」

尻の下の君を覗き込んで舌打ちしながら女性が言った。
やがて、少しずつ聖水が途切れがちになっていき、止まった。
続いて、尻の奥の蕾がひくひくと小さく収縮した。
君は目に沁みる尿の痛みを堪えながら、息を止めてその動きを凝視した。

と、次の瞬間、盛大な破裂音が響き、大胆に蕾が開花すると、そこから泥のような物体が産み出された。
それはみるみるうちに姿を露にしつつ、じきに自らの重みに耐えきれなくなったのかのように不意に途切れ、君の口を中心にして顔面を被うように落下した。
温かく柔らかな物体が、べちゃっとした感触で君を包み込んだ。
壮絶な臭気が立ち込める。

「ちゃんと食えよ」

続けざまに第二弾が落下し、君は必死に口の中の物体を咀嚼しようとした。
しかし生まれて初めてのその食感は、他の何にも似ていなくて、まだ僅かに残されていた君の理性と喉が強烈な拒否反応を示した。
思わず君はえづき、その大半を吐き出してしまった。

「なに吐き出してんだよ。食いたいんじゃなかったのか? ナメてんのか、てめえ」

排泄を終えた女性は君の顔の上空から尻を移動させ、君の腹の辺りを跨いで体の向きを変えると、上体を折り、聖水と黄金に塗れた君の顔に唾を吐いて「汚え」と嫌悪感を露にして眉を顰めながら、「頭起こせ」と命じた。

「ふぁい」

君は口中に排泄物を残したまま言われた通りに頭を起こし、そのまま上体を戻した。
顔面に付着したままの排泄物が万有引力の法則に従ってゆっくりと滑り落ちていく。
女性は更に命じた。

「うつ伏せになって便器の中に顔を突っ込め」
「はい」

命令を拒絶することなど許されない君は、そのまま体を反転させると、床に両手をついて四つん這いになり、便器の中に顔を入れた。
凄まじい臭気が容赦なく君を貫き、超至近距離に茶色と黄色が混濁した荘厳な世界が迫る。

「自分の言葉には責任を持てよ」

人間的な感情など欠片も感じられない女性の非情な声が背中越しに聞こえ、君はそのまま後頭部を足で踏まれた。
顔面がどっぷりと汚濁の中に没する。
反射的に目は閉じたが、口は間に合わなかった。
君は床から両手を離して便器を抱え込み、そうしてなんとか体を支えながらも、ぐいっと強く踏み込まれて、大胆に混濁を飲み込んだ。
そして、泳げない子供が溺れたように、ごぼごぼと体内の空気を逆流させた。
無意識のうちに顔を上げようとしたが、その度に、踏みつけられている足の重量が加えられて、君はもがいた。

それは、君が心密かにずっと切実に渇望し続けていた、誰に強要されたわけでもない、自らの意思で求め、そして叶えられた夢の具現のような状況だった。
無理やり便器の中へ顔を押し込まれて、問答無用な感じでなかば強制的に女性の排泄物に溺れる……そんな情景に、いつもひたすら憧れていた。
これまでに君は数えきれないくらいこういう状況を想定して自慰に耽った。
しかし、いざ現実となると、その想像を絶する強烈な臭気と自身のあまりの情けなさに、涙が溢れてきた。

「いい大人が泣いてんじゃねえよ。ちゃんと便器の中を隅々まで丁寧に舐めて、全部飲んで食って綺麗にしろ。便器になるのが夢だったんだろ?」

一層強く後頭部を踏まれ、君は便器を抱きながら、その中に突っ伏した。
そして、顔面の鼻から上を茶色い物体が浮かぶ黄色く濁った温い水の溜まりに浸し、頬を押し付けられた白い陶器の表面に舌を伸ばして執拗に這わせた。

「おら、ちゃんと啜って食うんだよ」

女性が君の頭を何度も踏みつけながら言う。
その口調は厳しく、君は恐怖を覚えながら、「はい、すいません」と言って、温い溜まりに口をつけるとそのまま必死に啜り、まるで金魚が固形の餌に食いつくように、半ば沈みつつ浮遊している物体の欠片をも吸い込む。

「なんつうか、人間便器というより便器人間だな。ていうか、ウンコ食うなんて人として終わってるわ。そうだ、どうせ終わってるんだから、いっそそのままシコれ」

憐れみを露骨に滲ませ、心底から呆れ返っているような女性の声が、君に自慰を命じた。

「ふぁい」

君は便器の中に突っ伏したまま答えると、左手で便器を抱えて体を支えつつ、右手だけを離してペニスを握り、擦り始めた。

惨めだった。
涙が止まらなかった。
それでも、君のペニスはあり得ないくらい限界いっぱいまでそそり立っていて、扱く手のスピードは普段の比ではなかった。