2006-10-26

water

渇いていた。
照りつける日射しが容赦ない。
一片の雲もない空は抜けるように青く、空気は乾燥し、大地はひび割れている。
どこまでも続く不毛の荒野だ。
遠くに岩山が見える固い砂漠は無音の世界だった。
ときどきサボテンが群生し、風が吹くが、君は孤独だ。
周りには誰もいない。

君は全裸で、革の首輪だけを巻いて、そんな荒野を四つん這いで進んでいる。
既に手のひらや膝の皮はめくれ、背中は日焼けで真っ赤だ。
そして喉の渇きが激しい。
切実に今の君は水を求めているが、もう何ヶ月も雨が降っていない荒野には、水たまりのひとつもない。
一滴の水が遠い。
陽炎が立ち、景色は歪んでいる。

垂直に射す日光と熱が、君から体力を奪っていく。
汗が噴き出し、膝も肘も震えていて、君は満身創痍だ。
四つん這いでヨロヨロと進む君の股間で、萎えた性器がだらしなく揺れている。

やがて前方の岩場に、人影が見えた。
スタイルの良い女性だ。
女性は岩に腰掛け、傍らに鞭を置いて、ブーツに包まれた長い脚を投げ出しながら煙草を吸っている。
その微かな煙がまるで蜃気楼のように淡く揺れている。
君は吸い寄せられるようにその岩場へと近づいていく。
もう限界だ。
君はボロ雑巾のような体を引きずりながら、女性の許へと向かう。
口の中がカラカラに渇いていて、もう唾も出ない。
喉の粘膜が張りついてしまっているかのようで、壊れた掃除機みたいな荒い呼吸が漏れるだけだ。
無音の荒野に、君の影だけが寡黙に色濃く落ちている。

岩場まで辿り着くと、女性は高い位置で脚を組んだまま君を見下ろし、笑っている。
美しいが残酷な笑顔だ。
疲労困憊の君は崩れ落ち、逆光気味のため陰になっている女性の顔を見上げる。
もちろん、這い蹲ったままだ。
そして君はそのままの体勢で、声を振り絞って言う。

「お願いします。水を、水をお恵みください……」

女性が水筒を掲げて見せ、訊く。

「欲しいの?」
「はい……」

君は掠れた声を漏らして頷く。
すると女性は鞭の柄をジーンズに差してひょいと岩場から下りて君の前に立ち、傍らの馬の背から木製のタライを取ると、それを足元に置き、水筒のキャップを外して逆さまにし、中の水を注ぎ入れた。
水飛沫が踊り、光を撥ねて煌めく。
その煌めきに目を細めながら、君はじっとその水を見つめる。
じきに水筒の中が空になり、タライに水が溜った。
君はそのタライににじり寄った。
夢にまで見た、水だ。
涼しげな水面の揺らぎが辺りの空気をさざめかせている。
たまらず君はそのタライに屈み込もうとする。
すると、すかさず女性が鞭を取り、振った。

「まだよ!」

長い鞭が撓ってその尖った先端が君の背中を鋭く打ち据え、乾ききっていた皮膚が裂けて血が飛び散る。
君は思わず「うぎゃあああ」と叫んで突っ伏し、その痺れるような痛みに歯を食いしばって耐える。

女性は鞭の柄をジーンズに戻すと、岩場に腰を下ろした。
そしてゆっくりと、素足のまま長時間にわたって履きっ放しだったブーツを脱いだ。
君は背中の痛みをぐっと堪えながら体を起こし、息を詰めて女性の行動を凝視する。
女性はブーツを脱ぎ終えると、その足を桶の中の水に浸し、バンダナでごしごしと洗い始めた。
白くて華奢な指が水の中で歪む。
女性は入念に足を洗い終えると、バンダナをタライの上で絞って足を拭き、ブーツを履いた。
そしてさらに、その水の中へ何度も唾を吐く。
君はお座りをし、膝の上に手を置いてじっと待っている。
今すぐにでもそのタライの中に顔を沈めて水を飲みたいが、それは許されない。

「こんな汚い水でも飲みたいの?」
女性が微笑む。
君はぜいぜいと息を漏らしながら何度も大きく頷く。
「はい……どうかお恵みください……」
「ふーん」
女性は君を鼻で嘲笑った後、その場でジーンズを脱ぎ出し、そのままパンティーを下ろして、タライを跨いで立った。
そして、水の中へ勢いよく放尿する。
黄金色の滴が迸り、辺りにツンとした匂いが立ちこめる。
しかしその匂いはたちまち乾燥した空気の中へ拡散していく。
長い放尿が終わり、止まった。
女性はティッシュで適当に股間を拭うと、そのティッシュもタライの中へ捨てた。

ティッシュが溶けゆく水はすっかり濁ってしまった。
しかし、水は水だ。
君は魔力に絡めとられたみたいにタライを凝視する。
「これでも飲みたい?」
パンティーを上げ、ジーンズを履きながら、含み笑いを漏らして女性が小首を傾げる。
「はい。いただきたいです……」
君は最後の気力を絞って言う。
もう視界が白く霞み始めている。
女性は服装を整えると、再び岩場に腰を下ろして腕を組み、投げ出した脚を足首で交差させて顎をしゃくる。
「そう……じゃあ、飲みなさい」
「ありがとうございます……」
君はヨロヨロと進んでタライに近づき、地面に手をつき、屈み込んでその濁った水の中に口をつけた。
そして温い水をすすり上げながら、一心不乱に喉を鳴らして飲む。

そんな君を、女性は悠然と微笑み、憐れみの目で見下ろしている。

2006-10-01

Baby Pink

君は一糸纏わぬ生まれたままの姿で床に犬のようにお座りしている。
首には首輪、そしてそれに繋がる鎖は、君の目の前に立つ女性の手へ続いている。

君の手は後ろに回されて手首をがっちりと革製の枷で固定され、さらにその枷に取り付けられた鎖が腰に何重にも巡らされた後、そのまま背後の壁に伸びていて、今それはギリギリまで張っている。
そのため、君は心持ち後ろへ引っ張られるような姿勢で女性の前に跪いており、もう僅か数センチも前へは進めない。
手を伸ばせば簡単に届きそうな位置にある女性の脚にも、当然触れることはできない。

女性は下着姿だ。
君の目の前、15センチほど先の斜め上方に、淡いピンクの下着が迫っている。
それは君にとって、幻のように美しい色彩だ。
女性は一歩前へ踏み出して、その小さな下着を更に君に接近させる。
ほんの少し首を伸ばせばその股間の布に鼻先を埋めることが可能だが、手首に取り付けられた鎖のせいで君はもうこれ以上前へ身を乗り出せないため、その挑発は死の宣告に等しい。
君はペニスを猛々しく勃起させながら膝で立ち、必死に顎を前へ突き出して、さらに首も伸ばすが、絶対にそのピンクの布地に顔を埋めることはできない。

君はその届きそうで届かないもどかしさに発狂寸前だ。
限りなく近いのに、限りなく遠く、その距離はまるで永遠のように君と下着を隔てている。

無意味であるとわかっていながらも君はさっきから、健気に顎を突き出して鼻孔を大きく開き、その部分に籠る芳香を吸引しようと試みているが、それは叶わない。
しかし、大きく鼻から息を吸うと、今日は一日暑かったから目の前の女性の股間付近から甘く湿った香りが感じられるような気がし、君はいっそう昂ってしまう。
ただ、なまじか僅かに芳香が感じられるため、それ以上前へ進めない君のもどかしさは余計に募る。

女性は唇の端を歪めて冷笑気味に君を見下ろしている。
君はその視線に身悶えながら、破廉恥な犬と化している。