リバーサイド・ブルース

夕暮れの涼しい風が川面を渡って吹いている。
長く続く堤防。
広い河川敷にはゲートボール場なとが整備されているが、夕刻のこの時間、人影は既にない。
川の向こう岸には団地の建物が並び、傾いた陽射しを背後から浴びながら、不揃いの影を長く落としている。

静かな時間だ。
時々、長い鉄橋を渡る列車の音が響くが、それ以外は、ほとんど物音が絶えている。
鉄道と並行して高速道路もあり、多くの車が行き交っているが、その騒音は全く届かない。
耳を澄ませば、少し離れた場所にある高校のグラウンドから、金属バットで軟式ボールを打つカキーンという音が、少々間が抜けたように聞こえる。

雲は多めだが、全体の印象としては晴れている西の空が、真っ赤な夕焼けに染まっている。
高みにたなびく薄い雲はピンクに縁取られ、低い位置に留まる雲の固まりは鉛色に近い灰色だ。
そんな雲の間から、金色の夕陽が射し込んでいる。

昼間は汗ばむほどの陽気だったが、日が沈むにつれて、冷えてきた。
といっても肌寒さを覚えるほどではない。

堤防沿いの駐車場に、一台のセダンが入ってきた。
ワインレッドの欧州車だ。
他に駐車車両はなく、その車は、河川敷にもっとも近いロットのひとつにノーズから滑り込んで、止まった。
エンジンが切られ、周囲に静寂が戻る。

「降りなさい」

君は運転席の女性に言われ、シートベルトを外すと、いったん躊躇はしたものの、意を決して助手席のドアを開けた。
なぜ躊躇したかというと、君は全裸だったからだ。
靴も履いてはいない。
しかもペニスに長くて細い赤いロープを巻き付けている。

君は素早く辺りの様子に目を配りながら車から降り、ひとまず視界内には誰もいないことを確認して少しだけ安心すると、ドアを閉じ、エンジンフードの前を回って運転席のドアへと近づいた。
その間に、女性はドアを開けていた。
君はその傍らに辿り着いてアスファルトの地面に跪くと、ロープの端をその女性に差し出した。
女性はそれを無言のまま受け取り、持ったまま車から降りると、ドアを閉じ、リモコンで施錠してから、頭の上に載せていた大きな白い縁のサングラスを片手で掛けた。
レンズは濃いブラウンのグラデーションで、掛けると、その目は殆ど外からは見えなくなる。

「涼しくて気持いいわね」

女性は軽く伸びをしながら言い、川面から吹く風を全身で受け止めた。
君は地面でお座りの姿勢を保ったまま、「はい」と同意した。
しかし、全裸の君にとって川べりに吹く風は、実は涼しいを通り越して若干寒い。
しかも、公共の場所で裸になっているという事実が、どうにも落ち着かず、心は激しく動揺している。
こんな姿をもしも誰か関係ない人間に見られたら……と思うと、怖いような昂るような不思議な感じがしてならなかった。
見ず知らずの男や警察官などに見られれば最悪で、逃げだしたい気持になるが、もしも、たとえば犬の散歩などをしている若い女性や部活でランニング中の女子高生の集団などが偶然通りかかって「ちょっと何こいつ」みたいな視線を向けられる場面を想像すると、マゾの君はつい興奮してしまう。
実際、そう想像した瞬間、君は勃起した。
それまでは若干萎えていて、だぶついた包皮が亀頭を包み込んでいたのだが、硬度が増した。
とはいえ、仮性包茎のペニスは、まだ象の鼻のように見える。
君は性器周辺の陰毛を全て剃り落としているため、風景の中に曝け出されている股間は、小学生のその部位とたいして変わらない。
もともと、使い道など放尿と自慰しかない、短小包茎の見本のような貧相なペニスだ。

女性は、白いシンプルなブラウスに、グレーのタイトなミニスカート姿だ。
チョコレートに似た色のストッキングを履いていて、靴は白いパンプスだ。
踵はそれほど高くない。

「行くわよ」

女性はそう言うと、ペニスに繋がったロープを引いて、河川敷へと下りていった。
君は立ち上がり、背中を丸めながら、ペニスを引っ張られつつその後に続く。
幸い、周囲に密生する草の背が高いので、何も遮るもののない駐車場よりは、多少気が休まる。
いくら君が筋金入りの変態でも、まだ日が高いうちからの露出は、もちろん興奮はするけれども、やはり怖さが先に立ってしまう。
しかしもちろん勝手に立ち止まることも恥ずかしさから拒否することも、君には許されない。
君にその権利はない。

河川敷まで下りていくと、そこは大小様々な石が転がる、ちょっとした草原のようになっている。
女性はその中を歩き、やがて、腰をかけることができる適度な大きさの石を見つけると、それに座った。
君は、女性が腰掛けた石の傍らで、お座りの姿勢になった。
その辺りの草の高さは、だいたい50センチほどで、四つん這いになった君の体を絶妙に隠す。
裸足の足の裏が、皮膚こそ裂けてはいないが、赤く擦れている。

女性がパンプスを蹴るようにして脱ぎ、ペニスに続くロープは持ったまま、無言で爪先を君の顔に突きつけた。
君は改めて女性の正面に回って正座し、「失礼します」と言うと、その足の踵を両手で大切そうに持ち、爪先に鼻を埋めた。
その爪先は蒸れて湿り気を帯び、香ばしい臭気を奔放に放っている。
君は半眼になり、その匂いに陶酔した。
性器が限界までいきり立つ。

じきに、女性は唐突に足を引くと、腰を少し浮かせてスカートの中の下着を下ろし、左足だけその下着から引き抜いて、大きく股を開いた。
君の目の前に、スクエアにカットされた陰毛の茂みと、その奥に息づく亀裂が開陳される。

「舐めなさい」

ペニスに巻かれたロープをくいっと引っ張って、女性は命じた。

「はい」

君は女性の股間ににじり寄り、その部分に顔を埋めた。
そして、丁寧に舌を使う。
無音の河川敷にぴちゃぴちゃという卑猥な音だけが微かに響く。
しかしその音は、風に呆気なく絡めとられて霧散していく。

君は必死に舐め続ける。
女性はロープを持ったまま、その行為を受け続ける。
喘ぎ声など漏らしているわけではないので感じているのかどうかはわからないが、女性は両手を尻の後方の石につき、少しだけ背中を反らし気味にしている。
そんなクールな女性に対して、いつしか君の鼻息は荒い。
意識は完全に女性の亀裂に収斂していて、もう周囲の世界は君の脳裏から欠落している。
君は無我夢中で女性の性器を貪る。

そうしていると、女性がふと体を戻し、君を見下ろしながら言った。

「出そうだけど、飲む？」

その言葉は、一応君の意思を訊ねる形になってはいたが、もちろん、これは「飲め」という命令だ。
だから君は股間に顔を埋めたまま目だけで女性を見上げ、その睥睨する視線を受け止めながら、迷わず「はい。いただきたいです」とこたえた。

すると、その返事の代わりに、ほどなく亀裂から黄金色の水流が迸った。
君は一瞬だけ不意をつかれたが、すぐにウォータークーラーから水を飲むように、唇を窄めてその聖水を飲んだ。
しかし無論すべての聖水が漏れなく君の口に注ぎ込まれることはなく、派手に飛び散って君の顔や体を濡らし、地面に水たまりを作っていった。
君の膝は、たちまちその聖水の溜まりに浸された。

長い放尿だった。
君はひたすら飲み続けた。
そしてだんだん勢いが弱まり、漸く止まると、君は再び亀裂に吸い付いて、周囲の陰毛に付着している雫をも綺麗に舐めとった。
尿は女性の尻の穴周辺まで濡らしていたので、君は不自然な体勢のまま必死に舌を伸ばした。

「もういいわ」

女性は言い、君の頭を押しやると、右足の足首に留まっていた下着を取り、パンプスを履いてから、再びお座りの姿勢に戻った君の頭にその下着を被せた。
そして、ちょうどクロッチの部分が君の鼻から口を被うように位置を調節すると、立ち上がり、スカートの裾を直した。

「帰るわよ」

女性はロープを引っ張り、来た道を戻り始めた。

君は一瞬だけ、空を見上げた。
すると、空はまるで宇宙そのもののように大きかった。
そろそろ夜の気配が漂い始めている、澄んだすみれ色のグラデーションが、綺麗だった。