2005-04-13

SAKURA

夜になれば、まだ気温はかなり下がる。
山間の小さな村は、闇に沈んでいる。
村の外れに、ささやかな川が流れている。
その土手は遊歩道になっていて、桜が満開だ。
夜の中に仄白く、桜の花弁が浮かび上がっている。

土手の下の細い道に一台の車が止まった。
ヘッドライトが消え、エンジンが停止すると、辺りは怖ろしいほどの静寂に包まれた。
この川べりの道は集落から離れているため、明かりは間隔をおいて灯る頼りない水銀灯だけだ。

運転席のドアが開き、長身の女性が降り立った。
都会的な、洗練された雰囲気の美人だ。
女性は、鶯色のシンプルなツーピースを着ている。
しかしそのスカートは短く、白いハイヒールの踵は高い。
続いて、助手席のドアが開く。

君は、ゆっくり車から降りると、裸足のまま路面に立った。
身につけているのは、春物の軽いコートだけで、その下は全裸だ。
君は手にトートバッグをひとつだけ持っている。
中には赤いロープと長い一本鞭が入っている。

先に車を降りた長身の女性は、無言のまま目だけで君を促すと、土手へ上がる細い階段を昇り始める。
慌てて君も続く。
しかし水銀灯の明かりが届いていないことに加えて、まだ闇に目が慣れていないので、視界は頼りない。
それでも遅れることは許されないから、君は急いで時々躓きながら、女性の跡を追った。

土手に上がると、微かに瀬音が聞こえた。
遊歩道に沿って植えられた桜が、春の夜に咲き誇っている。
女性は君を従えて進み、車から遠く離れた、遊歩道として整備されている道の外れを目指した。
君はコートの前を合わせ、両手で抱え込むようにトートバッグを持ちながら、女性に続いて歩いていく。

やがて遊歩道の外れに到達した。
そこには見事な桜の大木が聳えている。
女性は君のバッグの中から赤いロープを取り出すと、君にコートを脱いで全裸になるよう命じた。
そして君が素直にコートを脱ぐと、手馴れた様子で君を縛り上げていく。
夜風が肌に冷たく、君は小さく震えながら手を上に伸ばして手首で拘束され、肩口から足首までガッチリと縛り上げられた。
そうして全身への亀甲縛りが完成すると、女性は桜の巨木の中のとくに頑丈そうな太い枝を選んで、そこにロープをかけ、滑車で吊るすのと同じ要領で君を吊った。

君は、地面から五十センチほどの上空で、全身を拘束されたまま吊られた。
卑猥に勃起した性器が剥き出しだ。
風が強く吹き、白い花びらが盛大に舞い散る。
女性が鞭を持った。
そして、舞い落ちる花びらを散らすようにその長い鞭をふるった。
鞭の先が獰猛な蛇のようにうねり、君の体を打ち据える。
君は叫び声を上げながら身を捩る。
大きく体が揺れると桜の枝が軋み、手首にロープが食い込み、君は鞭の痛みと手首で擦れるロープの痛みに、歯を食い縛って耐えた。
女性は、前から後ろから、自由に鞭を振るった。
情け容赦のない、鋭い鞭だ。
山間の閑静な村の深い夜に、君の淫靡な絶叫が響き渡る。

やがて君の背中や胸の皮膚は裂け、破れ、血が滲みはじめる。
君は次第に声を上げる気力を喪失し、吊るされたまま項垂れていく。
しかし鞭が止むことない。
むしろ激しさはさらに増していく。
女性のサディスティックな目は、いっそう輝き、桜の花弁が舞う白い闇に濡れたような光を放っている。
君は鞭の先端が肌を打つ度に、弾かれたように体を揺らしながら、もうされるがままだ。

その血で濡れた肌に、吹雪のように舞い散る桜の花びらが付着して、君を華やかに切なく彩っている。

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