コンロにかけられたソースパンの中で茶褐色の液体がドロドロに溶けて、甘い香りが部屋に充満し始めた。
君は全裸で床に正坐しながら、その香りを嗅いだ。
しかし黒い布で目隠しをされているため、視界は遮られている。
君のすぐ前には、無人の椅子が一脚、ぽつんと置かれている。
ソースパンを温めているのは、背の高い、美しい女性だ。
その女性は紺色のタイトなミニスカートに白いシンプルな長袖のシャツといういでたちで、薄いベージュのストッキングで脚を包み、靴やスリッパは履いていない。
長い髪が肩にかかっていて、女性は時折、何気なくその前髪を指先でかきあげている。
女性はやがて、コンロの火を消すと、ソースパンを流し台へ移し、氷を入れたボウルの上へそれを置いて熱いチョコレートを冷ました。
そして、しかし凝固してしまわないよう、スプーンで静かに攪拌する。
そうしながら、女性は何気なく振り返ってちらりと君を見た。
君は背筋をピンと伸ばし、きちんと正坐している。
その様子に、少し離れた場所から女性は微笑を浮かべるが、もちろん君には見えない。
君は軽く拳を握ってその手を太腿の上に置いたまま、不動だ。
じきにチョコレートは人肌程度にまで冷める。
女性は人差し指で少しチョコレートを掬って舐め、温度の低下を確認すると、ソースパンを持って君の前へ移動する。
誰かが近づいてくる気配を君は感じたが、その正体はわからない。
ただ、チョコレートの匂いが強まったことと、微かな衣擦れの音で気配は感じる。
やがて女性は君の前まで来ると、椅子に座り、いったん床にソースパンを置いてから、静かに脚を組み、音もなくストッキングを脱いだ。
君は体を固くしながら、全身の神経を研ぎ澄ましている。
その緊張した君の様子に、女性は唇を歪ませるようにして静かに小さく笑い、脱ぎ終えたストッキングで君の鼻先を挑発した。
その一陣のそよ風のような感触に、君はビクリとしてしまう。
ほんの一瞬、チョコレートの甘さとは異質の香りが君を掠めた。
女性は、そのストッキングを捨てると、爪先をソースパンの中に浸した。
そして指先や足の裏へ溶けたチョコレート充分に絡ませていく。
やがて充分に絡まると、女性は爪先を持ち上げ、そのまま君の鼻先に突きつけた。
「舐めなさい」
そう命じて、女性はいきなりチョコレートの爪先を君の顔、鼻から口にかけての部分に押し付けた。
君はその感触で、顔に爪先が押し付けられたことを知り、瞬間沸騰して手探りでその足の踵を捉えて支えると、チョコレートに彩られた柔らかく甘いその足に舌を伸ばした。
君は腰を半ば浮かせて昂りながら、温かいチョコレートに塗れた女性の足の親指にむしゃぶりつき、一心不乱に舐め続けている。
女性が、身を屈めてソースパンを拾い上げ、その中身を、脛の辺りから爪先に向けて流す。
注がれるチョコレートが漣のように押し寄せてきて、君は温かく甘いそれに塗れていく。
そして君の唇から溢れたチョコレートは静かに顎を伝い、ゆっくりと体を流れ落ちていく。
2005-08-26
2005-08-22
流星の町
真夜中のカーテン
踏み切りの先のなだらかな坂を下る
濡れる窓辺
禍々しい風
絶望が歪む
口に含んだ氷が溶けていく
遠い雷鳴
足元の乱れた淡い光
濃密な闇を引き裂く一閃
絶叫はラプソディ
無口なグラス
歩いてほんの数分の距離
群青色の快感
指先の戯れは気まぐれ
遮る困惑
短気な背骨
寝台列車のメランコリー
明日を踏みにじる
流星の町
唇の謎
傷跡に沁みる
太陽と月のせめぎ合い
朝と夜の攻防
理性と煩悩の駆け引き
踏み切りの先のなだらかな坂を下る
濡れる窓辺
禍々しい風
絶望が歪む
口に含んだ氷が溶けていく
遠い雷鳴
足元の乱れた淡い光
濃密な闇を引き裂く一閃
絶叫はラプソディ
無口なグラス
歩いてほんの数分の距離
群青色の快感
指先の戯れは気まぐれ
遮る困惑
短気な背骨
寝台列車のメランコリー
明日を踏みにじる
流星の町
唇の謎
傷跡に沁みる
太陽と月のせめぎ合い
朝と夜の攻防
理性と煩悩の駆け引き
2005-08-09
西へ
最終の下り『のぞみ』。
座席はほぼ埋まっている。
君は車両中央付近の、窓際の席に座っている。
外は暗く、強化プラスチックの窓には車内の様子が白く映っている。
満席に近い状態なのに、車内はとても静かだ。
大半の人が、本や雑誌を読んだり、ヘッドホンで音楽を聴いたり、目を閉じて眠ったりしている。
君は上着を脱いで、それを下半身に掛けている。
しかし眠ってはいない。
じっと窓の外の闇を見つめている。
そして隣の座席には、薄いスモークのサングラスをかけた美しい女性が座っている。
その女性が、つと窓のほうへ顔を向けた。
白い反射の中で君と目が合う。
しかし、君はすぐに視線を外してしまう。
女性に見つめられることに、君は慣れていないのだ。
彼女は長い脚を組みかえると、右手を、テーブルに置かれたコーヒーの紙コップへ伸ばした。
そしてそれをゆっくりと一口飲む。
君は、そんな彼女の隣の座席で、体を硬直させている。
彼女の左手は、さっきからずっと、君の腰に掛けた上着の下へ伸びている。
その手は、君のズボンのジッパーを下ろし、中から性器を引っ張り出して握っている。
ただ単に握っているだけではない。
彼女は、周囲に気づかれないよう、君のペニスを握るその手を、小刻みに上下させているのだ。
むろん、君のペニスは、上着に隠された下で既に完璧にいきり立っている。
彼女の手は、その君のペニスを絶妙なリズムで刺激し続けている。
たまらず君は時々腰を浮かしそうになってしまうが、その度に、彼女が長い爪の先を亀頭に食い込ませて堪えさせる。
君は一瞬だけ顔を歪ませるが、すぐに何気ない表情を取り繕う。
そして再び快感が君を包み込む。
君は軽く目を閉じ、その刺激に溺れていく。
『のぞみ』は、強引なスピードで闇を切り裂き、西へ向かっている。
座席はほぼ埋まっている。
君は車両中央付近の、窓際の席に座っている。
外は暗く、強化プラスチックの窓には車内の様子が白く映っている。
満席に近い状態なのに、車内はとても静かだ。
大半の人が、本や雑誌を読んだり、ヘッドホンで音楽を聴いたり、目を閉じて眠ったりしている。
君は上着を脱いで、それを下半身に掛けている。
しかし眠ってはいない。
じっと窓の外の闇を見つめている。
そして隣の座席には、薄いスモークのサングラスをかけた美しい女性が座っている。
その女性が、つと窓のほうへ顔を向けた。
白い反射の中で君と目が合う。
しかし、君はすぐに視線を外してしまう。
女性に見つめられることに、君は慣れていないのだ。
彼女は長い脚を組みかえると、右手を、テーブルに置かれたコーヒーの紙コップへ伸ばした。
そしてそれをゆっくりと一口飲む。
君は、そんな彼女の隣の座席で、体を硬直させている。
彼女の左手は、さっきからずっと、君の腰に掛けた上着の下へ伸びている。
その手は、君のズボンのジッパーを下ろし、中から性器を引っ張り出して握っている。
ただ単に握っているだけではない。
彼女は、周囲に気づかれないよう、君のペニスを握るその手を、小刻みに上下させているのだ。
むろん、君のペニスは、上着に隠された下で既に完璧にいきり立っている。
彼女の手は、その君のペニスを絶妙なリズムで刺激し続けている。
たまらず君は時々腰を浮かしそうになってしまうが、その度に、彼女が長い爪の先を亀頭に食い込ませて堪えさせる。
君は一瞬だけ顔を歪ませるが、すぐに何気ない表情を取り繕う。
そして再び快感が君を包み込む。
君は軽く目を閉じ、その刺激に溺れていく。
『のぞみ』は、強引なスピードで闇を切り裂き、西へ向かっている。
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