2007-06-22

五月雨の恋

大きな窓だ。
窓というより、それはガラスの扉で、その先には手入れの行き届いた端正な庭が広がっている。
カーテンは弾かれていない。

窓の外では、今、雨が降っている。
先ほどまではしとしとと静かに降っていたが、急に雨脚が激しくなった。
たちまち風景全体が灰色に煙る。
しかし、ガラス戸はきっちりと閉められているため、室内まで雨音は響いてこない。
雨は音もなく強く降り続いている。

午後の曖昧な時間だ。
まだ夕暮れには早いが、部屋も外の風景も雨雲のせいで薄暗い。
部屋に明かりは灯っていない。
窓辺だけがぼんやりと灰白色に染まっている。

君は今、薄暗い部屋の中央で、全裸で吊られている。
それは、すべてを曝け出した、ありのままの君だ。
もはや君は一人の人間ではなく、単なる物体として、中空で静止している。

室内は薄暗く、外が薄明るいので、ガラス戸によって切り取られた風景は、フレームに収められた一枚の写真のようだ。
部屋には、家具の類いが殆どない。
広い部屋だが、数脚の椅子が置かれ、壁に何枚かの絵が飾られているだけの、無機質な空間だ。
君はその部屋の真ん中で、両手を揃えて上に伸ばし、手首をロープで巻かれ、そのまま天井から吊るされている。
足は完全に浮いていて、非常に不安定だ。
そんな君の体には、全身に亀甲縛りが施されている。
そして、部屋は閉め切られているため若干蒸し暑く、君は微かに汗をかいている。

君の傍らに立つ美しい女性が、唇の端を歪めて嘲笑を目に滲ませながら、君の体を軽く突いた。
吊られたままの君はまるで振り子のように、そのまま頼りなく揺れる。
手首を縛るロープが皮膚に食い込んで、君は苦痛に顔を顰める。
しかし、なぜか君の性器は完全に勃起している。
まるでその部分だけが別の回路で起動しているようだ。

女性が、屹立する君の性器の先端を指先で弾く。
亀頭を尖った爪の先が擦って、君の体がビクンと撥ねる。
その先からは、透明の液が溢れ、糸を引いて垂れている。

女性はそんな君を鼻で笑い、正面で向かい合って立つと、両手で君の両乳首を強く捻り上げた。
甘く濃密な香水が香り、爪が乳首の根元に深く食い込む。
君は「あう」と声を漏らして体を震わせる。
一気に汗が噴き出す。
女性は苦痛に歪む君の顔を覗き込んで憐憫の笑みを向けた後、乳首を解放した。
君は大きく息をつく。

女性が君の側を離れて、窓辺へと歩いた。
そして、窓を開けた。
涼しい風が吹き込み、雨の音が盛大になる。

女性が君を振り向き、腕を組んで微笑する。
風に乗って雨の香りが室内に漂う。
君は五月雨の音によって世界から切り離されながら、浮遊する。

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