2005-01-15

監禁 #1

体が動かない。
君は今、衣服を全部脱がされ、椅子に座らされた格好のまま、両手を背凭れの後ろに回して手錠で拘束され、椅子の脚に両方の足首を固定されている。
もちろん体も、ロープで頑丈に椅子の背凭れと一緒に縛られている。
部屋には、窓がない。
天井にひとつだけ蛍光灯が灯っている。
がらんとした広い部屋だ。

この部屋に連れ込まれて既に一時間近く経っている。
いや、たぶんそれくらいの時間が経過しているだろう、と君が思っているだけで、正確なところはわからない。
なぜならこの部屋には時計もないし、窓もないからだ。
だから、時間の経過を知る術がない。
この一時間、君は椅子に拘束されたまま放置されている。

君をこの部屋へ連れ込んだのは、美しい女性の二人組だが、いま彼女達の姿はない。
彼女達は君を裸にし、椅子に縛りつけると、すぐにこの部屋から出て行ってしまった。
そもそも、なぜ自分がこのような目に遭っているのか、君にはまるでわからない。
強盗でもなさそうだし、拘束はされているが、生命の危険は感じられない。
彼女達も、君をこの部屋へ連行してくるとき「おまえを殺したりするつもりはない」といった。
君はそれを鵜呑みにするほど目出度い人間ではないが、確かに殺される感じはしなかった。

ひとつだけ気になるのは、視線の先にビデオカメラが設置されていることだ。
そして壁際に十台近いモニターがあって、すべての画面にそのカメラが捉える映像が映し出されている。
即ち、全裸で椅子に縛られている君の姿だ。
君は、十人近い自分と対峙している。
それは非常に奇妙な体験だ。
両手を後ろに回して拘束されているので、すべてが丸見えだ。
股間の性器を隠すこともできていない。
力なく萎えたそれは、とても卑猥だ。

君は勤め帰りに、地下鉄の駅から自宅へ向かう道すがら、明かりの乏しい住宅街の路上で女性の二人組に声をかけられた。
女性達は「すみません」と背後から悪意のない口調で声をかけてきて、ふと足を止めた瞬間、君はいきなり何かの液体を沁み込ませたハンカチで口と鼻を塞がれ、失神した。
そして、たぶん数分後だとは思うが、意識が戻ったとき、君は車の後部座席に放り込まれていた。
その時点ではまだ服を身に付けていたが、体には既にロープが巻かれていた。
車は夜の町をかなりのスピードで走行中だった。
振り仰ぐように窓の外を見ると、暗いスモークフィルム越しに、まるで流星のように街の明かりが流れていた。
君の意識が戻った気配を察して、助手席の女性が振り向いた。
君はバックシートに転がされた体勢のまま「これは何の真似だ」と抗議した。
するとその女性は「いいから静かにしていなさい」と無感情な口調でいい、南極の氷みたいに冷たい眼で君を見据えた。
君はその視線に気圧された、口を噤んだ。
女性は、唇を歪めて微笑を浮かべた。
そして、穿いていたストッキングを脱いで無造作に丸めると、後部座席へと身体を伸ばしてきて、そのストッキングを君の口に押し込んだ。

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