2005-01-19

監禁 #2

君は自分の意思と関係なく強制的に拉致されたが、なぜか目隠しはされなかった。
口は塞がれたが、それは君が喋ったからであり、あのまま黙っていればおそらく何もされなかったであろう。
確かに体はロープによって縛られた。
しかし、現在はギチギチに縛られているが、連行時の拘束は、それほど厳重ではなかった。
もちろん、車の狭いバックシートに押し込まれていたし、少し動いたくらいで簡単に解けることはなかったが、一本のロープで全身をぐるぐる巻きにされただけで、手首や足首をそれぞれ強力に拘束されたわけではなかった。

それにしても、口に詰め込まれたストッキングには参った。
そのストッキングを脱いで口に詰めたのは相当な美人だったが、その見た目とは裏腹に汗と脂の臭いが強烈だったし、口の中に溜まった唾がそのナイロンに沁み込んで涎が流れて仕方なかった。
その口枷は、この部屋に入ってようやく外された。
君は車からこの部屋まで、女性のひとりに肩に担がれて連れてこられた。
女性達はふたりとも美人だったが、体格がとても逞しかった。
身長はふたりとも優に170センチを超えていたし、肩幅や脚のラインも鍛え抜かれているようだった。
君は軽々と運ばれ、椅子に座らされた。
そして有無を言わさぬスピードとパワーによって、あっという間に全裸にされ、今度はかなり厳重に拘束された。
背後に回された手には金属の手錠、椅子の脚に拘束された足首には、硬い革のベルトが巻かれた。

しかし、その期に及んでも、君には彼女達に対する記憶が全くなく、そしてなぜここに連れ込まれたのか、まるで理解できていなかった。
このふたりには会ったこともないし、こんな場所へも来たことはない。
この部屋は、何かの倉庫の跡地をロフトに改造したものらしかった。
エレベーターに乗ったから、おそらくは二階か三階のはずだ。
肩に担がれていたので階数表示は見えず、そのため正確なところはわからないが、そんなに長い時間、エレベーターの箱の中にはいなかったから、おそらくその程度の階数だと思われた。

それにしても、女性達はまだ戻らない。
カメラは作動し続けていて、壁に並んだモニターには自分だけが映し出され続けている。
君はその映像をぼんやりと見ながら「これは録画されているのだろうか」と考えた。
ビデオカメラに赤いランプが灯っているので、たぶん録画されているのだろう、と君は思った。
しかし、どうしてこんなビデオを撮られなければならないのか、やはりわからなかった。
君はスキャンダルを恐れる政治家や著名人ではないから、このようなビデオを撮られても、そのテープに価値があるとは思えなかった。
そうはいっても、こんなテープが勤め先の関係者に流出すれば、それはそれで洒落にならないが、だからといって降格するとかクビになるとか、そういう問題に発展するとは思えなかったし、そもそも、そんなことを心配するほど高い社会性は君にはない。
せいぜい「君は何をやっているんだ」と冷笑されるくらいだ。

この部屋は空調が効いているのか、暑くも寒くもないが、君は喉の渇きを覚えた。
ただでさえ、口に押し込まれたストッキングのせいで唾液は干からびてしまったような感じだったし、この先どうなるかわからないという漠然とした不安が緊張を強いているのかもしれなかった。
それに、さすがに背後に回した腕の上腕部が痺れつつあった。
手首にあたっている金属の感触も痛かったし、体全体が強引に椅子に固定されているので、関節や、無理に伸ばされた筋肉が、そろそろ限界に近かった。
君は死んだように沈黙を決め込んでいるビデオカメラの暗いレンズを見つめ、そして壁のモニター群を見遣り、溜め息を吐いた。

そのとき、右側後方のドアが開く音がした。
しかし君は真っ直ぐ前を向いた状態で拘束されているので、そちらへ視線を投げることはできなかった。
硬い靴音が近づいてくる。
誰かが入ってきたのは確実だったが、一言も発しないので、その気配だけを君は感じた。
しかも靴音から察するに、ひとりではないようだった。
おそらくは、三人。
先ほどの二人に、誰かが加わって戻ってきたのだろうか、と君は思い、ごくりと唾を飲み込んだ。

複数の靴音が、だだっ広い空間に反響しつつ、近づいてくる。
君は全裸の自分を省みて恥ずかしさを覚え、俯く。

No comments: