2005-01-25

監禁 #3

足音が、君の前で止まった。
「顔を上げなさい」
女性の声が、君の頭上から降り注いだ。
君は、ゆっくりと顔を上げた。
すると、先ほどのふたりに加えて、もうひとり女性が目の前に立っていた。
しかし、他の二人と違って、その女性だけは、外国の仮面舞踏会で淑女が付けているような両端が尖って吊り上がったタイプの金色のマスクで目元を隠している。

君は一瞬「知っている人か?」と考えを巡らせたが、思い当たる節はなかった。
すっきりとした顎のライン、やや薄めの唇、そして長いストレートヘア……特徴的といえば確かにそうかもしれないが、目元が隠されていると、全くわからなかった。
声を聞けばわかるかもしれない、と思ったが、その女性は一言も発しないまま、君を見下ろしている。
マスクの奥の影の中で光る眼は、冷徹な闇に沈んでいて、君は背筋が強張るほどの緊張を憶えた。
そして性器がむき出しのままであることを思い出し、必死に隠したくなったが、それは叶わない。

マスクの女性が、無表情のまま片脚をあげ、次の瞬間、踵の高いハイヒールの底で君の性器を踏んだ。
そしてそのまま、グリグリと刺激を加えていく。
すると、君の性器に変化が起きた。
それまで項垂れていた君の陰茎が、俄かに硬化し、立ち上がってきたのだ。
マスクの女性が、僅かに唇を歪めて冷笑を表情に浮かべ、立ち上がった君の陰茎の裏筋を爪先の底で何度もゆっくりと、そして執拗に擦った。
君は両手を背後で拘束されたまま上体を仰け反らせてその快感に耐えた。

屈辱だった。
何も知らされないままこの部屋に連行され、裸にされ、拘束され、そして今、勃起させられている。
君を連れてきた女性二人は、侮蔑の笑みを眼に滲ませながら腕を組んで、そんな君を悠然と見下ろしている。
マスクの女性が加える刺激は、とても絶妙だった。
次第に君は我を忘れていき、ふと気がつくと、自ら強引に腰を浮かし、貪欲にもそのハイヒールの底へ性器を押し付けて快感をせがんでいた。

と、いきなり脚による刺激が中断され、その足が床に下ろされた次の瞬間、君はマスクの女性から強烈なビンタを浴びせられた。
スナップの効いた鋭い張り手が君の左の頬に炸裂し、驚く暇もなく、続けざまに右頬にも同じ痛みが走った。
君は椅子に拘束されたまま、その衝撃のために体を揺らした。
ビンタは、情け容赦なかった。
マスクの女性は、一瞬の躊躇も遠慮もなく、連続で君を張り続けた。
たちまち君の頬は熱を持ったように赤く腫れあがり、ビンタを受けた時の鋭い痛みに加えて、頬が腫れあがっていくために生じた鈍痛も感じ始めた。
君は歯を食い縛り、眼をきつく閉じて、そのビンタの嵐が去るのを待ったが、その責めはいつ終わるともなく延々と続いた。
そして合計で三十発に近くなった頃、漸く女性は手を止めた。
君はゆっくりと眼を開けたが、頬が腫れてしまっていて、視界が歪だった。
口の中も切ってしまったらしく、舌先に血の味が伝わっている。
君は恐る恐るマスクの女性を見上げた。
女性は、そんな君の弱々しい視線を強く受け止めて、凛然と君を睥睨している。
その圧倒的な存在感の前で、君は自分の無力さを思い知らされた。
どうしてこんなことをされなければならないのか、未だに全くわからなかったが、不思議と、そのマスクの女性に対して憎悪の感情は湧かなかった。
むしろ君の中には、その女性に対して、人間が神と対峙するときに感じる安らぎに似たも感情が満ち溢れていた。
その感情は、「畏怖」と呼べるかもしれない。
もしかしたら「尊敬」かもしれなかった。
とにかく、君は、そのマスクの女性の背後に、黄金色に輝く後光が射しているのを見た。

殴られ続けた頬の痛みももちろん全く退く気配がなかったが、それよりもひどい喉の渇きが君を包み込んでいた。
君はマスクの女性から眼をそらし、肩で息をしながら、ごくりと生唾を飲み込んでその渇きを癒そうとした。
すると、そんな君の姿をこれまで沈黙したまま見ていた向かって右端の女性が、おもむろに君の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。
「喉が渇いたの?」
髪を掴む手の力は弱められることがなかったが、声音は優しかった。
君は怯えた犬のような眼でその女性を見て、小さく頷いた。
「はい」

君がそう答えると、マスクの女性が再び片脚を君の、今度は膝に乗せた。
そして、無造作にスカートの裾をまくった。
君はすぐ目の前で捲り上げられた女性のスカートの中の状景に、眼を丸くした。
マスクの女性は、そのスカートの中に何も穿いていなかった。
そのため、君のすぐ十五センチほど先には、その女性の艶やかに光る陰毛の茂みが出現した。
君はまるで痴呆のように、その部分を凝視してしまった。

髪を掴んでいた女性が、さらにぐいっと君の頭を上へ引っ張った。
そして、もう一人の女性が、マスクの女性に大きなワイングラスを手渡した。
マスクの女性はそれを受け取ると、自らの股間の下にそのグラスを入れ、いきなりグラスの中へ放尿を始めた。
キラキラと光る雫が辺りに飛散し、君の体をも濡らした。
そして、十センチ近くその金色の液体がグラスの中に注がれると、自然に放尿は終了した。
マスクの女性は足を下ろし、スカートの裾をそのまま落とすと、グラスを君の顔の前に近づけた。
金色に輝く透明なグラスの表面に、怯えた表情の君の顔が湾曲して映る。

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