2005-01-08

天職

君は今のこのバイトを始めてまだ二週間だが、もう「天職ではないか」と思い始めている。
仕事は、ボーリング場のシューズ貸し出し係だ。
君はカウンターの中で、ボーリング用のシューズを貸し出す。
なぜこの仕事が天職のように感じられるかというと、君が極度の足フェチで、このカウンターの中にいれば様々な靴の匂いが嗅げるからだ。
そんな君にとって、この仕事は天職以外の何物でもないだろう。
むろん、客は君好みの綺麗な女の客ばかりではないが、しかし掃き溜めに鶴が舞い降りるように、ときどきまるで奇跡が起きたみたいに、美しい人が来店する。
そんなとき、君は表面上は事務的に応対しながらも、内心では狂喜乱舞している。
何気ない態度でサイズを訊き、ボーリングシューズを手渡しながら、その靴が再びこの手に戻ってくる時のことをもう考えている。
そして君は、その客がボーリングに興じている間、悶々としながら、返却の時間をひたすら待ち続ける。
その時間は楽しいものだが、しかし同時に、お預けを食らった犬のようでもあり、少々辛い。
それでも、貸し出したものが戻ってくるのは永遠の真理だから、やがてその夢の具現の瞬間は確実に訪れる。
君は、靴が返却されると、その女の客が立ち去ってから、早速匂いを嗅ぐためにさりげなくカウンターの下へ潜る。
もちろん、周囲は警戒している。
こんなことがバレたら間違いなくクビだろうし、変態の烙印を押されるのは辛い。
君は、辺りに目がないのを確認してから、靴の中に鼻先を近づける。
足の匂いフェチの君にとって、それは夢のような至福の瞬間だ。
君はうっとりとなりながらその芳香に酔い痴れる。

さんざん遊んだ後に返却されるボーリングシューズは、君にとって宝物だ。
人によっては、とても濃厚な香りが籠もっている。
君は、その匂いを嗅ぐ。
本当なら、それをトイレに持ち込んで自家発電してしまいたいくらいだが、残念ながらそんなチャンスは滅多にない。
それでもたまに、あまりに魅力的な女性のものだと、君は我慢しきれなくなって、それを従業員用のトイレの個室に持ち込んでしまう。

女性の二人組がカウンターに近づいてきた。
どちらも美しい。
一時間ほど前にチェックインした女性達だ。
君は無意識のうちに、だんだんカウンターに接近してくる女性達の足元を、つい見つめてしまう。
そして早くも「どんな匂いがするのだろう」と期待に胸を膨らませ、営業用の害のない笑顔を作る。
君はおよそ外見からは、靴の匂いを嗅いで喜ぶ人間には見えないから、その笑顔に裏があるとは思われない。
しかし実際は違う。
その笑顔の裏側には、貪婪で歪な欲望が渦巻いている。
そんな本当の君を、他の人は誰も知らない。
秘密の君だ。
君は思う。
今日のホール内は暖房がよく効いているし、おそらく素敵な香りが熟成されていることだろう、と。
それを想像すると、たまらなく下半身が疼いた。
そして間もなく、ホールから貸与されている制服のズボンの中で、君の性器は硬度を増した。
いよいよ女性達がカウンターに近づいた。
君の興奮は高まっていく。
一時間以上ボーリングに興じた後に返却されるボーリングシューズが、もうすぐ手に入る。
君はその温もりと芳香を夢想しながら、カウンターに性器を押し付けるようにして立ち、さらに強力な笑顔を浮かべる。

女性達は、カウンターの中の君がそのように暗い欲望の炎を胸の内に燃え滾らせていることなど、まるで知らない。
知る由もない。

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