2005-01-29

監禁 #4

「喉が渇いたんでしょ? 遠慮せずに飲みなさい」
君の髪を掴んでいた女性が、さらに頭を引っ張り上げて、嘲笑を声音に含ませながら言った。
君は一瞬そのグラスから顔を背け、固く唇を結んで抵抗したが、マスクの女性に強烈なビンタを浴びせられて、その抵抗を断念した。
マスクの女性が君の唇の間にグラスの縁を捻じ込ませ、そのグラスを傾ける。
アンモニア臭が君の鼻を突き抜けた。
「ちゃんと口を開けろよ」
少し離れた場所に立っている女性が言い、髪を掴んでいる女性が、おもむろに君の顎を下からVの字に挟んで口を開かせた。
君は気持を決して、その金色の液体を口に含んだ。
そして飲み下す。

それは、これまでに味わったことのない種類の苦味だった。
君は、明らかに内臓の器官がその液体の進入を拒絶していることを意識しながら、しかし懸命に飲み続けた。
それでも、とぎとき咽てしまって、その液体を口から溢れさせてしまった。
「もったいないだろ、バカ」
腕を組んだまま、三人目の女性が言う。
君は「すみません」と謝って、さらに飲んだ。
そして、十数秒後、どうにかグラスの中の液体を全て飲み干した。

マスクの女性が満足げに微笑んで君から離れた。
君の体は、口から溢れさせた女性の尿に塗れていて、その濡れた部分が急速に冷え始めていた。
さらに、体の内部にも、胃の中に溜まった女性の尿のせいで、違和感があった。
ビンタの連発による頬の痛みも、まだ癒えてはいない。
むしろ、ジンジンとしたその鈍い痛みは、時間が経つにつれてさらに酷くなってきているようだ。
その証拠に、尿に塗れている体の表面は冷たいのに、両頬だけは凄まじく熱かった。

君は、軽い放心状態に陥っていた。
すべての出来事が、まるで夢のように、非現実的に思えてならなかった。
自分はどこにいるのだ?
そして、ここで何をしているのだ?
混乱が君を包み込んでいる。
しかし信じられないことに、股間を見ると、性器が力強く、まるで生命力に満ち溢れるが如くそそり立っていた。

マスクの女性が、不意に君の前でしゃがみ、無造作に君のペニスを右手で握った。
そして猛スピードでその手を上下させる。
君はその快楽に、縛られているために不自由な上体を捩った。
傍らにいた女性が、君の髪を鷲掴みにして後方へ反らし、天井を向いた君の顔に唾を吐いた。
もう一人の女性もそばに来て、同じように唾を吐き捨てる。
ふたりは交互に、そして時には同時に、連続して君の顔に唾を吐き続けた。
生温かい感触が君の顔面を被い、腫れた頬を流れていく。
むろんその間も、マスクの女性によるピストン運動は続いている。

やがて、最初に君に向かって唾を吐いた女性が、ポケットから黒くて長い布を取り出し、それで君の目を塞いだ。
その感触で、黒い布は女性物のストッキングだとわかる。
この部屋へ連行されてきたときに口に突っ込まれていた物とは違うようだが、素材は同じで、おそらく、もう片方の脚のものと思われた。
君は突然訪れた暗闇の中で、マスクの女性の手による刺激に身悶えている。

と、いきなり、またしても何かの液体が沁み込まされている布で口と鼻を被われた。
再び意識が遠のいていく。
その、意識が途切れる寸前、君はペニスの先から大量の精液を噴出した。

すべてが闇に吸い込まれていく……。

2005-01-25

監禁 #3

足音が、君の前で止まった。
「顔を上げなさい」
女性の声が、君の頭上から降り注いだ。
君は、ゆっくりと顔を上げた。
すると、先ほどのふたりに加えて、もうひとり女性が目の前に立っていた。
しかし、他の二人と違って、その女性だけは、外国の仮面舞踏会で淑女が付けているような両端が尖って吊り上がったタイプの金色のマスクで目元を隠している。

君は一瞬「知っている人か?」と考えを巡らせたが、思い当たる節はなかった。
すっきりとした顎のライン、やや薄めの唇、そして長いストレートヘア……特徴的といえば確かにそうかもしれないが、目元が隠されていると、全くわからなかった。
声を聞けばわかるかもしれない、と思ったが、その女性は一言も発しないまま、君を見下ろしている。
マスクの奥の影の中で光る眼は、冷徹な闇に沈んでいて、君は背筋が強張るほどの緊張を憶えた。
そして性器がむき出しのままであることを思い出し、必死に隠したくなったが、それは叶わない。

マスクの女性が、無表情のまま片脚をあげ、次の瞬間、踵の高いハイヒールの底で君の性器を踏んだ。
そしてそのまま、グリグリと刺激を加えていく。
すると、君の性器に変化が起きた。
それまで項垂れていた君の陰茎が、俄かに硬化し、立ち上がってきたのだ。
マスクの女性が、僅かに唇を歪めて冷笑を表情に浮かべ、立ち上がった君の陰茎の裏筋を爪先の底で何度もゆっくりと、そして執拗に擦った。
君は両手を背後で拘束されたまま上体を仰け反らせてその快感に耐えた。

屈辱だった。
何も知らされないままこの部屋に連行され、裸にされ、拘束され、そして今、勃起させられている。
君を連れてきた女性二人は、侮蔑の笑みを眼に滲ませながら腕を組んで、そんな君を悠然と見下ろしている。
マスクの女性が加える刺激は、とても絶妙だった。
次第に君は我を忘れていき、ふと気がつくと、自ら強引に腰を浮かし、貪欲にもそのハイヒールの底へ性器を押し付けて快感をせがんでいた。

と、いきなり脚による刺激が中断され、その足が床に下ろされた次の瞬間、君はマスクの女性から強烈なビンタを浴びせられた。
スナップの効いた鋭い張り手が君の左の頬に炸裂し、驚く暇もなく、続けざまに右頬にも同じ痛みが走った。
君は椅子に拘束されたまま、その衝撃のために体を揺らした。
ビンタは、情け容赦なかった。
マスクの女性は、一瞬の躊躇も遠慮もなく、連続で君を張り続けた。
たちまち君の頬は熱を持ったように赤く腫れあがり、ビンタを受けた時の鋭い痛みに加えて、頬が腫れあがっていくために生じた鈍痛も感じ始めた。
君は歯を食い縛り、眼をきつく閉じて、そのビンタの嵐が去るのを待ったが、その責めはいつ終わるともなく延々と続いた。
そして合計で三十発に近くなった頃、漸く女性は手を止めた。
君はゆっくりと眼を開けたが、頬が腫れてしまっていて、視界が歪だった。
口の中も切ってしまったらしく、舌先に血の味が伝わっている。
君は恐る恐るマスクの女性を見上げた。
女性は、そんな君の弱々しい視線を強く受け止めて、凛然と君を睥睨している。
その圧倒的な存在感の前で、君は自分の無力さを思い知らされた。
どうしてこんなことをされなければならないのか、未だに全くわからなかったが、不思議と、そのマスクの女性に対して憎悪の感情は湧かなかった。
むしろ君の中には、その女性に対して、人間が神と対峙するときに感じる安らぎに似たも感情が満ち溢れていた。
その感情は、「畏怖」と呼べるかもしれない。
もしかしたら「尊敬」かもしれなかった。
とにかく、君は、そのマスクの女性の背後に、黄金色に輝く後光が射しているのを見た。

殴られ続けた頬の痛みももちろん全く退く気配がなかったが、それよりもひどい喉の渇きが君を包み込んでいた。
君はマスクの女性から眼をそらし、肩で息をしながら、ごくりと生唾を飲み込んでその渇きを癒そうとした。
すると、そんな君の姿をこれまで沈黙したまま見ていた向かって右端の女性が、おもむろに君の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。
「喉が渇いたの?」
髪を掴む手の力は弱められることがなかったが、声音は優しかった。
君は怯えた犬のような眼でその女性を見て、小さく頷いた。
「はい」

君がそう答えると、マスクの女性が再び片脚を君の、今度は膝に乗せた。
そして、無造作にスカートの裾をまくった。
君はすぐ目の前で捲り上げられた女性のスカートの中の状景に、眼を丸くした。
マスクの女性は、そのスカートの中に何も穿いていなかった。
そのため、君のすぐ十五センチほど先には、その女性の艶やかに光る陰毛の茂みが出現した。
君はまるで痴呆のように、その部分を凝視してしまった。

髪を掴んでいた女性が、さらにぐいっと君の頭を上へ引っ張った。
そして、もう一人の女性が、マスクの女性に大きなワイングラスを手渡した。
マスクの女性はそれを受け取ると、自らの股間の下にそのグラスを入れ、いきなりグラスの中へ放尿を始めた。
キラキラと光る雫が辺りに飛散し、君の体をも濡らした。
そして、十センチ近くその金色の液体がグラスの中に注がれると、自然に放尿は終了した。
マスクの女性は足を下ろし、スカートの裾をそのまま落とすと、グラスを君の顔の前に近づけた。
金色に輝く透明なグラスの表面に、怯えた表情の君の顔が湾曲して映る。

2005-01-19

監禁 #2

君は自分の意思と関係なく強制的に拉致されたが、なぜか目隠しはされなかった。
口は塞がれたが、それは君が喋ったからであり、あのまま黙っていればおそらく何もされなかったであろう。
確かに体はロープによって縛られた。
しかし、現在はギチギチに縛られているが、連行時の拘束は、それほど厳重ではなかった。
もちろん、車の狭いバックシートに押し込まれていたし、少し動いたくらいで簡単に解けることはなかったが、一本のロープで全身をぐるぐる巻きにされただけで、手首や足首をそれぞれ強力に拘束されたわけではなかった。

それにしても、口に詰め込まれたストッキングには参った。
そのストッキングを脱いで口に詰めたのは相当な美人だったが、その見た目とは裏腹に汗と脂の臭いが強烈だったし、口の中に溜まった唾がそのナイロンに沁み込んで涎が流れて仕方なかった。
その口枷は、この部屋に入ってようやく外された。
君は車からこの部屋まで、女性のひとりに肩に担がれて連れてこられた。
女性達はふたりとも美人だったが、体格がとても逞しかった。
身長はふたりとも優に170センチを超えていたし、肩幅や脚のラインも鍛え抜かれているようだった。
君は軽々と運ばれ、椅子に座らされた。
そして有無を言わさぬスピードとパワーによって、あっという間に全裸にされ、今度はかなり厳重に拘束された。
背後に回された手には金属の手錠、椅子の脚に拘束された足首には、硬い革のベルトが巻かれた。

しかし、その期に及んでも、君には彼女達に対する記憶が全くなく、そしてなぜここに連れ込まれたのか、まるで理解できていなかった。
このふたりには会ったこともないし、こんな場所へも来たことはない。
この部屋は、何かの倉庫の跡地をロフトに改造したものらしかった。
エレベーターに乗ったから、おそらくは二階か三階のはずだ。
肩に担がれていたので階数表示は見えず、そのため正確なところはわからないが、そんなに長い時間、エレベーターの箱の中にはいなかったから、おそらくその程度の階数だと思われた。

それにしても、女性達はまだ戻らない。
カメラは作動し続けていて、壁に並んだモニターには自分だけが映し出され続けている。
君はその映像をぼんやりと見ながら「これは録画されているのだろうか」と考えた。
ビデオカメラに赤いランプが灯っているので、たぶん録画されているのだろう、と君は思った。
しかし、どうしてこんなビデオを撮られなければならないのか、やはりわからなかった。
君はスキャンダルを恐れる政治家や著名人ではないから、このようなビデオを撮られても、そのテープに価値があるとは思えなかった。
そうはいっても、こんなテープが勤め先の関係者に流出すれば、それはそれで洒落にならないが、だからといって降格するとかクビになるとか、そういう問題に発展するとは思えなかったし、そもそも、そんなことを心配するほど高い社会性は君にはない。
せいぜい「君は何をやっているんだ」と冷笑されるくらいだ。

この部屋は空調が効いているのか、暑くも寒くもないが、君は喉の渇きを覚えた。
ただでさえ、口に押し込まれたストッキングのせいで唾液は干からびてしまったような感じだったし、この先どうなるかわからないという漠然とした不安が緊張を強いているのかもしれなかった。
それに、さすがに背後に回した腕の上腕部が痺れつつあった。
手首にあたっている金属の感触も痛かったし、体全体が強引に椅子に固定されているので、関節や、無理に伸ばされた筋肉が、そろそろ限界に近かった。
君は死んだように沈黙を決め込んでいるビデオカメラの暗いレンズを見つめ、そして壁のモニター群を見遣り、溜め息を吐いた。

そのとき、右側後方のドアが開く音がした。
しかし君は真っ直ぐ前を向いた状態で拘束されているので、そちらへ視線を投げることはできなかった。
硬い靴音が近づいてくる。
誰かが入ってきたのは確実だったが、一言も発しないので、その気配だけを君は感じた。
しかも靴音から察するに、ひとりではないようだった。
おそらくは、三人。
先ほどの二人に、誰かが加わって戻ってきたのだろうか、と君は思い、ごくりと唾を飲み込んだ。

複数の靴音が、だだっ広い空間に反響しつつ、近づいてくる。
君は全裸の自分を省みて恥ずかしさを覚え、俯く。

2005-01-15

監禁 #1

体が動かない。
君は今、衣服を全部脱がされ、椅子に座らされた格好のまま、両手を背凭れの後ろに回して手錠で拘束され、椅子の脚に両方の足首を固定されている。
もちろん体も、ロープで頑丈に椅子の背凭れと一緒に縛られている。
部屋には、窓がない。
天井にひとつだけ蛍光灯が灯っている。
がらんとした広い部屋だ。

この部屋に連れ込まれて既に一時間近く経っている。
いや、たぶんそれくらいの時間が経過しているだろう、と君が思っているだけで、正確なところはわからない。
なぜならこの部屋には時計もないし、窓もないからだ。
だから、時間の経過を知る術がない。
この一時間、君は椅子に拘束されたまま放置されている。

君をこの部屋へ連れ込んだのは、美しい女性の二人組だが、いま彼女達の姿はない。
彼女達は君を裸にし、椅子に縛りつけると、すぐにこの部屋から出て行ってしまった。
そもそも、なぜ自分がこのような目に遭っているのか、君にはまるでわからない。
強盗でもなさそうだし、拘束はされているが、生命の危険は感じられない。
彼女達も、君をこの部屋へ連行してくるとき「おまえを殺したりするつもりはない」といった。
君はそれを鵜呑みにするほど目出度い人間ではないが、確かに殺される感じはしなかった。

ひとつだけ気になるのは、視線の先にビデオカメラが設置されていることだ。
そして壁際に十台近いモニターがあって、すべての画面にそのカメラが捉える映像が映し出されている。
即ち、全裸で椅子に縛られている君の姿だ。
君は、十人近い自分と対峙している。
それは非常に奇妙な体験だ。
両手を後ろに回して拘束されているので、すべてが丸見えだ。
股間の性器を隠すこともできていない。
力なく萎えたそれは、とても卑猥だ。

君は勤め帰りに、地下鉄の駅から自宅へ向かう道すがら、明かりの乏しい住宅街の路上で女性の二人組に声をかけられた。
女性達は「すみません」と背後から悪意のない口調で声をかけてきて、ふと足を止めた瞬間、君はいきなり何かの液体を沁み込ませたハンカチで口と鼻を塞がれ、失神した。
そして、たぶん数分後だとは思うが、意識が戻ったとき、君は車の後部座席に放り込まれていた。
その時点ではまだ服を身に付けていたが、体には既にロープが巻かれていた。
車は夜の町をかなりのスピードで走行中だった。
振り仰ぐように窓の外を見ると、暗いスモークフィルム越しに、まるで流星のように街の明かりが流れていた。
君の意識が戻った気配を察して、助手席の女性が振り向いた。
君はバックシートに転がされた体勢のまま「これは何の真似だ」と抗議した。
するとその女性は「いいから静かにしていなさい」と無感情な口調でいい、南極の氷みたいに冷たい眼で君を見据えた。
君はその視線に気圧された、口を噤んだ。
女性は、唇を歪めて微笑を浮かべた。
そして、穿いていたストッキングを脱いで無造作に丸めると、後部座席へと身体を伸ばしてきて、そのストッキングを君の口に押し込んだ。

2005-01-08

天職

君は今のこのバイトを始めてまだ二週間だが、もう「天職ではないか」と思い始めている。
仕事は、ボーリング場のシューズ貸し出し係だ。
君はカウンターの中で、ボーリング用のシューズを貸し出す。
なぜこの仕事が天職のように感じられるかというと、君が極度の足フェチで、このカウンターの中にいれば様々な靴の匂いが嗅げるからだ。
そんな君にとって、この仕事は天職以外の何物でもないだろう。
むろん、客は君好みの綺麗な女の客ばかりではないが、しかし掃き溜めに鶴が舞い降りるように、ときどきまるで奇跡が起きたみたいに、美しい人が来店する。
そんなとき、君は表面上は事務的に応対しながらも、内心では狂喜乱舞している。
何気ない態度でサイズを訊き、ボーリングシューズを手渡しながら、その靴が再びこの手に戻ってくる時のことをもう考えている。
そして君は、その客がボーリングに興じている間、悶々としながら、返却の時間をひたすら待ち続ける。
その時間は楽しいものだが、しかし同時に、お預けを食らった犬のようでもあり、少々辛い。
それでも、貸し出したものが戻ってくるのは永遠の真理だから、やがてその夢の具現の瞬間は確実に訪れる。
君は、靴が返却されると、その女の客が立ち去ってから、早速匂いを嗅ぐためにさりげなくカウンターの下へ潜る。
もちろん、周囲は警戒している。
こんなことがバレたら間違いなくクビだろうし、変態の烙印を押されるのは辛い。
君は、辺りに目がないのを確認してから、靴の中に鼻先を近づける。
足の匂いフェチの君にとって、それは夢のような至福の瞬間だ。
君はうっとりとなりながらその芳香に酔い痴れる。

さんざん遊んだ後に返却されるボーリングシューズは、君にとって宝物だ。
人によっては、とても濃厚な香りが籠もっている。
君は、その匂いを嗅ぐ。
本当なら、それをトイレに持ち込んで自家発電してしまいたいくらいだが、残念ながらそんなチャンスは滅多にない。
それでもたまに、あまりに魅力的な女性のものだと、君は我慢しきれなくなって、それを従業員用のトイレの個室に持ち込んでしまう。

女性の二人組がカウンターに近づいてきた。
どちらも美しい。
一時間ほど前にチェックインした女性達だ。
君は無意識のうちに、だんだんカウンターに接近してくる女性達の足元を、つい見つめてしまう。
そして早くも「どんな匂いがするのだろう」と期待に胸を膨らませ、営業用の害のない笑顔を作る。
君はおよそ外見からは、靴の匂いを嗅いで喜ぶ人間には見えないから、その笑顔に裏があるとは思われない。
しかし実際は違う。
その笑顔の裏側には、貪婪で歪な欲望が渦巻いている。
そんな本当の君を、他の人は誰も知らない。
秘密の君だ。
君は思う。
今日のホール内は暖房がよく効いているし、おそらく素敵な香りが熟成されていることだろう、と。
それを想像すると、たまらなく下半身が疼いた。
そして間もなく、ホールから貸与されている制服のズボンの中で、君の性器は硬度を増した。
いよいよ女性達がカウンターに近づいた。
君の興奮は高まっていく。
一時間以上ボーリングに興じた後に返却されるボーリングシューズが、もうすぐ手に入る。
君はその温もりと芳香を夢想しながら、カウンターに性器を押し付けるようにして立ち、さらに強力な笑顔を浮かべる。

女性達は、カウンターの中の君がそのように暗い欲望の炎を胸の内に燃え滾らせていることなど、まるで知らない。
知る由もない。